【5:好意を行動で示すって、どうしたら良いのでしょうか?】
『あまり深刻に考えなくていいよ。おまじないはあくまでおまじないだし。すぐに上手くいくとは限らない。でもいずれは、あなたの想いがちゃんと伝わることに、そのラッキーアイテムが力を貸してくれると思う』
そう。彼女にとって一番大事なのは、自信に繋がるということなのだ。
『だからそれを信じて、少しずつでいいから行動を起こしてみたらどうかな?』
『行動……?』
『うん。なかなか素直に想いを伝えることができないって言ってたでしょ? だけどいきなり言葉にするのは勇気がいる。だからあなたが彼に好意を持っていることが少しでも伝わるように、好意を行動で示すんだ』
『好意を行動で示すって、どうしたら良いのでしょうか?』
『些細なことでもいいから、彼に親切にするとかはどう?』
『親切、ですか……私にできるでしょうか……?』
『うん。焦らなくていいから、少しずつやってみない? 徐々に伝わればいいと思う。きっとラッキーアイテムも、それに力を貸してくれると思うんだ』
一匠が書き込んだ後、しばらく相手からの返信がない。
(あちゃ。ダメなアドバイスって思われたかな?)
勇気を持って、少しずつでも行動してみよう。
一匠が言いたかったのはそういうことだ。それを上手く伝えるには、どうしたらいいんだろう?
一匠が迷っていると、また相手が書き込んだ。
『えんじぇるさん、ありがとうございます。えんじぇるさんは私が勇気を持って行動できるように、励ましてくださっているのですよね』
──あ、伝わった。
一匠は、なんだか少し胸が熱くなる気がした。
『うん、そうだね。頑張って欲しいって思ってる』
『はい! ありがとうございます! ちょっと落ち込んでいたのですが、えんじぇるさんのおかげで元気が出ました! アドバイス通りにやってみます!!』
相談者の文章の勢いが変わった。ホントに元気が出たようだ。
はっきり言ってチキンな自分ではできないようなことを、偉そうにアドバイスしている。そんな自覚が一匠にはある。
──けれども。
アドバイスなんてそんなものかもしれない。自分のことじゃないから、客観的にかつ前向きな意見が言える。
その意見で相手が上手くいけば、それはそれでいい。
──一匠はそう思った。
相談者のRAさんが『今日はこれで失礼します』と書いて、本日の相談は終わりになった。一匠はノートパソコンの電源を落としながら、ホッとひと息つく。
相談してきた相手が少しでも元気になる。
一匠にとってはそれが嬉しかった。
◆◇◆◇◆
翌日。朝から特に何か変わったことが起きたわけでもなく、昼休みになった。
青島 理緒も赤坂 瑠衣華も、特にいつもと変わらない感じ。
やはり相談者は、まったく別の第三者なのかもしれない。そりゃそうだよなぁ……と、一匠はぼんやりと考えていた。
「おーい、クラス委員長」
急に教室に入って来た担任教師が理緒に声をかけた。担任は国語を担当する少し年配の男性教諭で山本という。
「はい。なんでしょうか?」
「悪いけどちょっと職員室に行って、昼からの授業に使う資料を運んどいてもらえないかな? 急に用事が入っちまったんだ」
「あ、はい。わかりました山本先生」
理緒は立ち上がって、にこりと笑う。
これから昼ご飯を食べようと思っていただろうに、嫌な顔一つしない。本当に性格がいいなと一匠は感心する。
理緒はいつも一緒に弁当を食べている友達に、
「ごめんね。先に食べといて」
と声をかけた。
一匠は副委員長だ。黙って見ていることなんてできない。立ち上がって理緒の後を追って廊下に出た。後ろから見ると、理緒の髪には昨日と同じく赤いリボンが結ばれているのが目に入る。
廊下をすたすたと進む理緒を追いかけて、艶々とした黒髪が輝く背中に声をかける。
「青島さん、俺も手伝うよ」
「あれ、白井くん? 私一人で大丈夫ですよ」
「いや……いつも青島さんに任せっきりだし。荷物運びなんて男子の方が適任かと思って」
振り返った後きょとんとしていた理緒は、一匠の言葉にニコリと笑顔になった。そして首をコテンと傾ける。
「ありがとうございます。白井くんって優しいんですね」
「あ、いや……普通でしょ」
「いいえ。優しいですよ」
理緒は一匠の顔を見つめて、それはもう天使のような微笑みを浮かべた。
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