【34:なんのこっちゃ? ヒントも無しかよ。】
一匠の下足箱から上履きが消えていて、代わりに手紙が入っていた。
その文字からして、多分瑠衣華が書いたものだ。
そこには忽然と消えた上履きのありかが書いてある。
ただし謎解きの形で。
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「終わりの終わり」
「世界の中心」
「真実の最初」
「ついに始まり」
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なんだか哲学的な香りのする言葉が羅列されている。他に何もヒントは書かれていない。
「なんのこっちゃ? ヒントも無しかよ。ぜ……全然わからん」
一匠は呆然とその手紙を眺め、立ちすくんでいた。
「こ……このままじゃ遅刻する」
いくらお互いに謎解きが好きだと言っても、これはちょっと本格的すぎやしないか?
額に冷や汗が流れる。
その焦りが余計に、謎を解く思考を邪魔する。
いっそこのまま、上履きを履かずに教室まで行こうか?
いやいや。教室に入って誰かにばれたら、恥ずかしすぎる。
でもこのままじゃ、いつまで経っても上履きは見つからない。
色んな考えが一匠の頭の中をぐるぐると回る。
「いや、待て。赤坂さんは、俺がこの謎を解いたことを褒める作戦のはずだ。ということは……」
そんなに難易度の高い問題であるはずはない。
ちょっと落ち着いて考えたらわかる問題のはずだ。
落ち着くんだ──
一匠は自分に言い聞かせて、もう一度手紙を見る。
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「終わりの終わり」
「世界の中心」
「真実の最初」
「ついに始まり」
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じっと見る──
まだまだ見る──
さらに見る──
「あっ、わかった!」
そう。やはりそんなに難易度の高い問題ではなかった。
以前二人で謎解きゲームをした時は、もっと高難度な問題をいくつも解いたから、それに比べたら初心者向けの問題だと言える。
「上履きは理科室だ!」
一匠は理科室に向かって走り出した。
一匠が理科室で上履きを見つけ、急いで教室に走りこんだ時には、既に始業時間を5分ほど過ぎていた。
しかしたまたま担任教師は遅れているようで、まだ来ていない。
運よく遅刻になるのは免れた。
ぜいぜいと息を切らせながら席に着く。
右隣の席の瑠衣華は、焦った顔をしてこちらを見ていたが、一匠と目が合った瞬間、
「ごめん」
とひと言、絞り出すような小さな声を出した。
そしてこくんと頭を下げてから、一匠の視線に耐えきれないのか、下を向いた。
一匠はいつもは余裕の時間に登校しているから、遅刻しそうになるなんて、瑠衣華にとっても想定外だったのかもしれない。
(とは言え。ちゃんといつもの時間に来ていても、解答に手間取ったら同じことだよなぁ)
瑠衣華の暴走にも困ったものだ。
そう思いながら前を向くと、今度は左隣から声がかかる。
「白井くんが遅れるなんて珍しいですね」
「……つい寝坊してしまったよ」
「それで慌てて走ってきたのですね」
「えっ? あ、ああ。うん」
一匠が肩で息をしているもので、理緒はきっと一匠が駅から走ってきたのだと思っているに違いない。
実際には、走ったのは校舎の玄関から理科室、そしてそこからこの教室なのだが。
その時ちょうど担任教師が教室に現れた。
だから一匠は、瑠衣華とも理緒とも、その後は何も話すことができなかった。
一時間目が終わった。
一匠がふと瑠衣華を見ると、眉をハの字にして情けない顔をしている。
「あの……白井……君?」
「えっと……赤坂さん。ちょっと外に出て、廊下でお話をしようか?」
一匠が冷静にそう言うと、瑠衣華はびくっと身体を震わせた。
そして「はい」と、小さくこくんとうなずいた。
【読者の皆様へ】
◆謎解きの解答です
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「終わりの終わり」→おわり、の最後の文字「り」
「世界の中心」→せかい、の真ん中の文字「か」
「真実の最初」→しんじつ、の最初の文字「し」
「ついに始まり」→ついに、の最初の文字「つ」
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