【26:カラオケは楽しかったかな?】
あの清楚で美人で性格が良くて。
クラスの男子からは姫様とまで称される人気美少女。
その高嶺の花が、まさか自分を好きだなんて。
「ヨッシャーっ!!」
一匠は思わずガッツポーズをして叫んでいた。
「あ、やっべぇ」
またおっきな声を出してしまった。慌てて口を手でふさぐ。
下の部屋にいる両親に聞こえたか?
──と不安になるが、親は無反応でホッとする。
昨日までなら、理緒が自分を好きだなんて大それた考えは完全否定するしかなかった。しかし今日のカラオケルームでは、彼女が自分に対して割と好意的なのを感じた。
だから一匠は、相談者が理緒で、その相手が自分であることに、確信めいたものを感じた。
(な……なんと返信しようか……)
一匠は迷いに迷ったが──
『そう。良かったね! カラオケは楽しかったかな?』
こんな当たり障りのない内容を書き込むのが精一杯だった。
『そうですね。彼ともコミュニケーションが取れましたし』
『へぇー 少しは彼と仲良くなれたかな?』
一匠はドキドキしながら質問を書き込む。すると少し間を置いた後、返事が書き込まれた。
『どうでしょうか……あんまり自信はありません』
(自信はない……? いや、大丈夫だよ青島さん! 僕は青島さんと仲良くなれたって、めっちゃ喜んでいるよ!)
一匠は相談サイトの向こう側にいるであろう理緒に、心の中で話しかけた。
『自信を持ってください。あなたの想いは、きっと相手に伝わっているよ!』
もはや一匠は、理緒に語り掛けるような気持ちでメッセージを書いている。
『ありがとうございます! えんじぇるさんのおかげで、いつも勇気が出ます』
『そう言ってくれると、僕も嬉しいです! これからもRAさんが、前向きに彼と接することができることを祈ります』
『はい。わかりました。明日からも前向きにがんばります』
(青島さんが、前向きに俺と接してくれようとしている……)
一匠は自然と顔がにやにやとなる。
夜遅くに男子が部屋で、一人でにやにやしているなんて。それはなんと気持ち悪い絵面なのかという自覚は一匠にもある。
だがそのにやにやが止まらない。
『がんばってくださいね!』
『ありがとうございます!』
この日のチャットは、こんな感じで終わった。
しかしノートパソコンを閉じた後も、一匠はにやにやが止まらない。
「そっかぁ……青島さんが俺を……」
明日、どんな顔をして理緒に会えばいいのか?
いや、理緒はネットでの相談相手が自分だと知らないのだから、できるだけ自然に接しないといけない。
(でも青島さんが俺のことを好きだなんて……明日青島さんと会うのが楽しみだ)
そんなことをぐるぐると考えながら、一匠は眠りに落ちた。
そして翌日がやってくる。




