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4月17日 ほんの幾らかの何気ない時間

―――――――――――――――――――――

4月17日


〇今日はゆうがお弁当の卵焼きを作ってくれた。穂村と一悶着あったが、明日も作ってくれるらしい。


〇穂村とゆうはなんだかんだ打ち解けているようだ。ゆうが素で接していることからもそうだとわかる。たまに私を抜きにしてコソコソ話しているのが気になるが……。

―――――――――――――――――――――


 なんという心地の良い春日しゅんじつだろう。

 柔らかな風に包まれて、光の粒は暖かく煌めき、そこに在る生きとし生けるものすべてが生の幸福を振りまいているようだ。

 私は中庭のベンチで昼食をとりながら、そんな些細な幸せを噛みしめていた。


 それだというのにこの子らときたら……。


「もー!今日の卵焼きはお姉ちゃんのために私が作ったんですよ!なんてことしてくれたんですか!」

「おほほ、嫌だわゆうさん、そんなに声を荒らげたらはしたなくってよ」

「なんですかそのしゃべり方は、穂村さんがやっても孔雀くじゃくの真似をするからすですね!」


 孔雀の真似をする烏。品のないものが上品なものの真似をするたとえ。

 そんなことはどうでもいい。まったく、私のそばでぎゃあぎゃあと。

 やかましいったらありゃしない。


「お姉ちゃんからも何か言ってあげてくださいよー」


 懇願する瞳を向けて、彼女が制服の袖をちょんと引っ張った。


「はいはい、わかったからもう少し静かにしなさい」


 彼女は不服そうに頬を膨らませて、私の右脚と彼女の左脚の隙間がなくなるほどにぴったりとくっついてベンチに座りなおした。

 「はい、お利口さん」と言って、機械的に彼女の頭を撫でてやる。


「穂村も人のものを勝手にとりなさんな、いつか後ろから刺されるよ」


 私の左側に座る穂村が「はーい」と気のない返事をして、私越しにちらっと彼女に一瞥いちべつをくれた。

 そして、口辺に笑みを浮かべた。


「卵焼き、おいしかったよ」


 穂村のひとことに、彼女があからさまにムッとする。


「お姉ちゃん、穂村さんがいじわるしてきます」

「そうねえ。でも穂村も知っててやったわけじゃないんだし、ちゃんと謝ってくれたんだから、許してあげなさい。またゆうが作ってくれるの、楽しみにしてるから」


 すると、穂村は信じられないと言いたげに目を丸くした。


「今私何か悪いこと言ったか?」

「まあ言ってないけど……穂村の言い方ってどこか憎たらしいから仕方ないかもね」

 

 私の体に隠れて穂村を覗く彼女が、首を縦に振って強く同意をした。

 穂村が口をへの字に曲げて、

 

「ひどい話もあるもんだなあ」


 と、うんざりするという風な顔をした。


「ほんとね、世の中不条理だらけよ。私も穂村に卵焼き食べられてほんの幾らか不条理を感じてるわ」

「ほんの幾らか許せないですね」

「ねえ、ほんの幾らかやるせない」


 私と彼女が肩を寄せてクスクス笑い合うと、穂村は眉根を寄せて苦笑した。


「あんたたち楽しそうだなあ」

「ほんの幾らか?」

「そこはものすごく、ですよお姉ちゃん」


 もう、と半ば愉快そうに言って、彼女がぐいと体重をかけてきた。


 こんなくだらないやり取りをして、昼休みは過ぎていくのだった。




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