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4月14日 鹿を指して馬と為したら妹の逆襲にあった休日のこと

―――――――――――――――――――――

4月14日


〇休日、ゆうと一緒に部屋でまったりと過ごした。特になにもなかった。

―――――――――――――――――――――


 『鹿を指して馬と為す』。

 私には、これを簡単に実行できる。特定の一人にしか有効ではないが。


「ゆう、一足す一は三だよね」


 横で一緒に本を読んでいた彼女に、覆いかぶさるように抱きついた。

 すると彼女は全身をびくりと震わせて、顔を真っ赤に染め上げた。

 私の突然の行動にアワアワとして動揺を隠しきれないようだ。

 彼女の耳元に口を寄せて、もう一度同じことを訊いた。

 彼女は首を何度も縦に振って、私に同意を示してくれた。鹿が馬と為った瞬間である。


 私はそっと彼女を解放してあげた。

 上目遣いに、真黒な瞳を潤ませて、上気した顔をそのままに、彼女は私の服の袖をきゅっと握った。


「ど、どうしたんですか、急に」


 この反応は想定内、というよりもまさに想像通りだったのだが、なんだか心がそわそわするような感覚がした。

 

「ゆうってさ、いっつも私にべたべたしてくる割には、私からいくと滅茶苦茶に恥ずかしがるよね」


 彼女が、うう、と何やらうめき声をあげ、顔を俯けた。


「私もお姉ちゃんみたいに堂々としたいです」


 弱弱しい声で呟いたかと思うと、勢いよく首をもたげた。


「というか、お姉ちゃんはもっと私を見習って照れたり恥ずかしがったりしてください!」


 一変して語気を強めて言う彼女に、私は呆れて湿っぽい視線をくれてやった。


「見習うって何よ、むしろゆうは私を見習って四六時中くっついてくるのをやめなさい」

「ヤです!お姉ちゃんが私を見習って……もっと、その、さっきみたいにぎゅってしてきてくれてもいいんですよ……」


 言い始めの勢いをなだらかにしぼませて、彼女はもじもじとして言った。うるうるした瞳で上目遣いに私を見てくる。


「私が動じないようになるための練習が必要ですから」

「そんな練習必要ない」

「えへへ、お姉ちゃんは恥ずかしがる私が好きってことですね」

「そんなことは一言も言っていない」


 とは言ったものの、顔を真っ赤にして言葉を失ってしまうほどに狼狽える彼女は素直に可愛いとは思う。

 が、こんなことは絶対に言ってあげない。

 彼女が手に持っていた本をテーブルに置いて、「ところでお姉ちゃん」と私の肩に手を乗せた。

 そして、小首を傾げ、


「一足す一は三じゃありませんよ」


 と神妙な顔をしてもっともなことを言った。


「うるさいな」


 なんだかきまりが悪い思いがして、私は彼女から目を逸らした。

 

「あっ、よくわかりませんがお姉ちゃんが照れました」


 彼女が嬉しそうに顔を近づけてきた。

 彼女の右手が私に向かって伸びてくる。その右手は私の頭を撫でていた。


「お姉ちゃんよくできました」


 子どもに語りかけるような声音で、彼女が微笑んだ。

 

 どうしてあんなことをしてしまったのか。

 今更思い出すだけで恥ずかしくなってくる。

 なんだか知らないが、土に還りたい気分だ。


 熱い顔を見られまいと必死に隠し、後悔をした休日のことだった。


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