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カンナ&ゆうな  作者: Toy
9/48

vol.10

すっと閃光を秘めた夜気が、僕の肺に染み渡る。

月夜に魅せられ、どれくらい時が過ぎたのだろうか。

時空を超えて、まるで時が止まったかのような感覚に襲われ、我に帰る。

水面からはさらさら揺れる月は消えている。

さっきあった月がわずかに西に傾き、時の経過を証明していた。


この僕の肺を通して、酸素とともに体中に放たれる香りはいったいなんだろう。

実体のない香りがナノサイズのしずくとなって落ち、僕の心の泉に波紋を広げる。

ぼくは、幻にも似た香りを探すように、少しアゴをあげ、その時を待った。

しばらくすると、河のせせらぎが川上から風を誘い、新春を告げる若葉の草原を舐めるように吹き降ろしてくる。

すらすらすらすらすら~

一瞬を見逃さないように神経を嗅覚に集中する。

やっぱり夜気に溶け込むかすかな花の香り・・

この匂いはなんだろう。

もし香りに鮮度があるとしたら、この香りは正真正銘の生をまとうほどの新鮮な

華の香りだった。


春の訪れを知らせるジンチョウゲの花は、ほのかに甘酸っぱく透明感ある香りを放ち、

可憐な装いで鼻先をくすぐってくれる。

そのジンチョウゲに似て非なる香りが鼻先をかすめ、今、僕の心にまとわりつく。

満月に誘われた現われ可憐な妖精たちが、僕の頬をかすめていったかのような錯覚。

でもジンチョウゲほどに、どことなく冬の冷気を残した寂しげな空気を

持ち合わせてはいない。

むしろ夏をかすかに匂わす陽気なグルーヴ感を持ち合わせ、

それでいて可憐なまでのジンチョウゲを彷彿とさせる薫り・・

なんだろう、いったい。


満月は、人の生理的欲求を研ぎ澄ます作用を持つという。

僕もそのご多分にもれず、沸き起こる衝動を抑えられず、犬が鼻をくんくんいわせて

その源を探し求めるように、風に載せて薫り来る上流に向け、土手を夢遊病者のごとく

歩みだした。

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