vol.9
天体の日周運動は・・・
地球は一日24時間で360度の自転、だから一時間で15度、天体は東から西に動く。
理科の授業で習った内容。
教科書には星雲や星座の写真、月の満ち欠けの様子が図解入りで載ってあった。
知識では知っていても、夜空の眺めろと言われたこともなかったし、
眺めようともしなかった。
星空の見えない街に住むものにとっては、持っていないお金の使い道を考えるのに
等しく、勉強の価値を見い出せなかった。
それは天体の勉強に限ったことじゃない。
とにかく教科書の中の天体図だの、クソ食らえだ・・。
そんなぼくが今一番、月について勉強していると感じる。
満月が目の前にある。
今から沈もうと満月。
妖艶な輝きが僕を魅了する。
これが月・・
月にはうさぎの模様、目を凝らせばクレーターまで見える気がした。
ぼくは今まで月の知識を学校で教わりながら、月について何も知らなかったんだあ。
月は人の心を掻き立て、さらい、狂わせる。
ぼくは生けるもととして、そのことを知らなかったことに、なんだか恥ずかしく思った。
常識ってなんだあ。ほんとは教科書の中になんか、何もないんじゃないか。
春先の朝方、外気はまだまだ冷えるのに、月の光にぬくもりを感じた。
ぼくはフード付きパーカーを着こみ、こっそり家を抜け出した。
月が僕を呼んでいる。
ありえない衝動を抑えることができなかった。
月を追いかけても追いつけない。
ぼくは動いているのに、月の見える位置方角は変わらない。
ぼくはただ月光を手繰り寄せるように土手に上がった。
目の前には横たわる河川。
夜・・・夜なのに・・。満月の光がはっきりと映り出す河の表情。
月はこんなに明るいものなのか?
月自体は光らない。太陽の光を反射するだけの鏡。
なら、月もまた太陽。その光が辺りを照らし出す。
昼間のとの違いは、昼の影は黒なのに、夜の影は紫だった。
河原の草木が風に洗われるのが、露わにわかる。
離れた河のせせらぎが、この土手の上までも聞こえてくる。
まるでその音は月光が瞬いているかのようだった。