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カンナ&ゆうな  作者: Toy
17/48

vol.18

夜にまぎれて降り出した雨は、忍び足でいそいそと駆け巡り、山を谷を草原を潤わせる。

何に気を使っているのだろう、その足音を殺して。

まるで疲れ眠っているものを起こぬよう、知られぬように・・

でも雨は全く気づいていない、自身の存在感を

そこにあるあらゆるものを静め、癒しめる。

それは雨にさらされた森だけではない。

雨に打たれぬものの心に舞い上がったほこりでさえ、その身にまとい、

いっさいがっさい洗い流すように沈めていく。

夜通し降り続いた雨は、朝の気配を感じると、その存在感だけを残し去ってしまった。

後にあるのは、朝もやに薄く引きのばされた静粛

その静けさをいっそう引き立てる、どこからともない確かな響き

ケロゲロケロロ


ゆうなはいつものところに腰かけて、その歓喜の叫びを聞き入っていた。


カエルが鳴くから、雨がふるのかな?

雨が降るから、カエルが鳴くのかな?

わたしは頭の中はいつもなぜだか、つまらないことでいっぱい

こんなの、誰にも言えやしない

へんてこりんで、恥ずかしすぎる

でも、これって、どう?

カエルと言えば、思い出すことがあるの


前に住んでいた街、家の近くに生活用水路があった。幅は3メートルくらいかな。

近所のおばさんは、よく言ってっけ

「昔はあの川にも、カエルもフナもメダカもいたんだよ」

それが今じゃあ、こんな立札が・・[川を大切に!きれいにしよう]


・・そうだよね。昔はオタマジャクシもいただろうけれど

川は汚れて何も住めなくなっちゃったんだ。だから、ゴミしちゃ汚しちゃいけないよね。

小学校のとき、道徳の時間で先生も言ってたし。

~とは、わたしはならないひねくれ者のヘンな子です。


ねえ聞いて・・・カエルのあなただけに、わたしの思っていることを教えてあげる。


大人って、なんてズルくって身勝手なの

自分たちの都合のいいことばかり。

もっともらしいこと言ってるけど、大人って、そんなにえらいの

何もわかっていない

なんにも見えていないのは、あたなたち大人の方だよ


教えてあげる

その川とやらを、汚したのは誰?

生き物を住めなくしたのは誰?

油が浮いて、泡だって・・生活排水、垂れ流しじゃん


わたしは生まれたときには、もう川なんてなかった。

なのも、川を汚さないようにだって

笑わせないで、何かの冗談

わたしは、ゴミなんてしたこともありません


今はきれいだよ、確かに。ゴミも無いし・・

でも、オタマジャクシも、カエルも、フナも、メダカも、無しです。

知ってるのかな、大人は

底が、き・れ・い・な・コンクリート

何の抵抗もないコンクリート底をすべるように、音もなく水が流れてく

「昔はあの川にも、カエルもフナもメダカもいたんだよ」

知ってますか・・

理科の授業で習ったよ。みんな卵を水草に産むんだよ。

コンクリート底で、水草が育つわけないじゃん。

だから、理科なんて、なんも役にも立ってやしない。

一生、生き物は戻ってきません。

あの立札、ほんとは子供が立てたのかな・・[川を大切に!きれいにしよう]

なんて小粋な気のきいたブラックユーモアだこと。

ほんと大人って、わかっちゃいないよね


またまた他愛もないことを思い巡らすゆうなは思った、

遠くもなく近くもなく、チロチロチロと小岩の隙間をぬって

流れて砕ける水音を聞きながら。

あの先には、川があるんだろうなぁ

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