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カンナ&ゆうな  作者: Toy
15/48

vol.16

いつもならとっくに朝陽が顔を覗かせている時間だった。

なのにその日は、半端に垂れこめた意地悪な雲が、それを待つ者をじれったがらせ

楽しむように、太陽を出し惜しみしていた。

そのまどろっこしさにしびれを切らしたのは、ゆうなだけではない。

引き千切られた雲の隙をみて、こじ開けるようにその間を朝陽が突進し、

ゆうなの頬をノックした。

それを見ていたゆうなのまわりをうろつく春風が、子犬のようにはしゃぎだし、

芽を伸ばし出した草はらをはねあげ、

スラッスラサと嬉々とした声を上げて、おどけてみせる。

ゆうなは、そんな絵では表せない朝の始まりが持つ感覚に、自分の初恋をダブらせた。


わたしの初恋は、初めて口にするグレープフルーツのような味がした。

初恋って、朝陽のようにまっすぐですがすがしく・・、

弾けるみずみずしさを放つグレープフルーツ。

まだ見ぬ味に想いを馳せて、その酸味を想像しただけで、舌の両側が乾きを訴える。

背伸びをはじめた、未知なるものへの期待や憧れ

もしそれが火傷してしまいそうな熱さを秘めていたら、どうしよう・・


わたしは、友達からは姓で呼ばれたり、<ゆう>とか<ゆうちゃん>だった。

でも唯一、わたしを<ゆうな>と下の名前で呼び捨てる男の子がいた。

その男の子は、わたしが生まれてこの方一番初めての友達だったし、

わたしの中でも密かにずっと一等賞の子だった。

月並みな言い方をすれば、気がつけばそばにいた子って感じ。


それはカレにとっても同じだったと思う。

お年をめすと、恋ごころへと変っていく。キャッ

それを認めてしまうのが恥ずかしい自分が、好奇心のさざ波にゆらゆら揺らめき、

見え隠れする。


お互いに意識し始める二文字・・『告白』

言葉の響きだけで、わたしの小舟は転覆しそうになった。

見ているだけでは、その味覚は味わえない。

『告白』は、恋のスタート・・だからこその期待

でも知らなかったことがあった・・

『告白』が、初恋にとってはゴールってことを。


携帯(スマホ)に届いた一通のカレからメール

[ずっと前から好きだった。よかったら、オレとつきあってくれないかな 【絵文字】]


カレのストレートな気持ち・・

伝わりませんか?

ざんね~ん ・・・私には伝わりませんでした。

理由その1: [よかったら]の言葉。わたしの気持ちは知っていたでしょ。

理由その2: 【絵文字】。その絵文字に何を託そうとしたの。

理由その3: これが最大の理由・・・声を大にして「男なら面と向かって言えよッ!」


初恋は、初めてのグレープフルーツ

勇んで頬張ると、想定外の苦味に舌を巻ちゃう。

その苦味がイッキに、わたしの初恋を冷ましてしまった。

恋に苦さがあるなんて・・信じられない

もしかしたら恋に苦味がいるかもしれないけれど、

絶対絶対、初恋に苦味はいらない。

その酸味と苦みのバランスを味わえるようになるには、

わたしにはまだ程ほど遠い気がした。

恋することに、恋しただけかあ


束の間の雲間を走る朝陽は、味わう前にまた雲の向こうに途切れてしまった。

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