vol.15
わたしには居場所がない。
友達がいないわけじゃないよ。なのに教室にはなじめなかった。
部活が嫌いなわけじゃないよ。でもどうしてもとけこめなかった。
勉強も好きな方。それなのに学校には居たたまれなくなった。
だから、学校によく行きたくなくなった。
みんなの屈託のない底なしの笑い声・・・
恐いものはないの?
きっと眩しすぎた笑顔・・
耐えられなかった。
わたしには居場所がない。
いつもわたしのことを気使ってくれる、うっとうしいお父さん。ほんとは大好き。
いつもわたしには過保護な、洗濯モノの匂いするお母さん。好き好き大好き。
いつも宿題を教えてほしいときだけ、下手に出てくる弟。どうでもいい。
いつもしっぽ振っていればいいってもんじゃない、短足の飼い犬。嫌いじゃない。
わたしの家・わたしの部屋なのに、どことなく腰が落ち着かないはどうして・・
みんなのわたしを包みこむやさしい笑顔でいっぱいなのにね。
何を含んでいるの?その奥に・・
もう見ていられなかった。
だから居たたまれなかったんだよ。
みんな、微笑んでくれるけれど、笑ってはくれない。
わたしのテリトリーはどこにあるの?
わたしの居場所・・
わたしが座るこの樹の下のロングチェア
ここが居場所なの?そうじゃない。わかっていた。
でもわたしはここにいる。
ここにはわたしのいる時間があるから・・
空がうっすらと白みはじめていた。
陽はまだ山の稜線の向こうに隠れているけれど、
燃え上さかる炎のように、まだら模様の雲をオレンジ色にやがて染め上げるのだろう。
眠気を感じながらも、このときばかりはわたしの神経が研ぎ澄まされる感じがした。
採れたての朝陽が肌に植わると、何かの予感が体内を駆け巡る。
燃え上がりはじめた太陽が顔を覗かせ、夜の闇を瞬く間に消し去っていく。
わたしも燃えつくされたい。吹いてなくなる闇のように・・
燃えて色めき立つ空を感じながらの、これがわたしの居る唯一のひととき・・
一陣の風が、わずかにざわめき立った。
あれ!・・気のせい?・・
陽のさす向きが、わたしを少し逸れていく
あるはずのない気配、揺れような違和感
風はわたしの意識をすくい、その方向に自然と首を振れる・・
今、目の前を通り過ぎた風が陽に導かれ草原を走り、丘の上まで登っていく。
影・・あれは人
風がその存在を追い払うかのように、額にかかった前髪をふっと揺らす。
カメラのフラッシュライトのような瞬く間の出来事
つぎの瞬間には、もうそこには何もなかった。
まぼろしですか
でも切られた確かな心のシャッター音
誰かそこにいた日曜日




