vol.14
第二節
じっと空を見据える女のコ ゆうな
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わたしは過去を捨ててきた。
というと、どんなにみじめで情けなく暗い過去だっただろうとみんな思うかもしれない。
でも、ご心配なく。
そんな悲劇のヒロインじゃぁ、わたしはありません。
わたしが捨てたのは明るい過去。
そう明るい過去だよ。
楽しい思い出・・
ドキわくした想い出・・
熱い想い出・・
うきうきした想い出・・
おいしい想い出・・
やばい想い出・・
かろやかな想い出・・
可愛い想い出・・
やわらかい思い出・・
ほんの少し悲しい思い出といっしょに・・
みんなみんな捨てちゃいました。
信じられますか。明るい過去だよ・・
どれももう必要なくなっちゃったから。
わたしはついでに未来も捨てちゃいました。
もう何も望まないし、望めない。
あきらめます。
素敵な想い出なんか・・
だから、なんだかすっきり。
笑っちゃうくらい。
それがわたしが望んだ一番だから。
わたしは過去も未来も捨てちゃって、こうしてここにいる。
いるのは、わたし・・わたしだけ。
わたしが望んだことだから。
ここに来ることを、
そして、この場所にいることを
わたしは今を生きるおんな。
一秒一秒を感じながら・・
朝の日差しがわたしにやさしく手を差し伸べてくれるところ
蜜柑の華がわたしをふんわり包んでくれるところ
透き通る風がわたしにほのかにささやいてくれるところ
今のわたしを受け入れてくれるところなの。
わたしが今欲しいもの、みんなみんなここにある。
だから、寂しくなんか全くないよ。
だから、わたしはすごく幸せ・・・です。
わたしはここにいます。
この椅子が、今のわたしのすべて。




