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チートスレイヤー【連載版】  作者: 8D
インタビュー・ウィズ・リベンジャー
7/35

二話

 闇の中。

 蝋燭の灯り。

 暗い部屋。


「イーガとヴォネ……。確かあれは、イーガの侵略戦争でしたね」


 声が響く。


 不動は頷いた。


「……イーガは異世界人の召喚技術を得た事で、領土の拡大を目論んだ。その最初の召喚で呼び出されたのが、僕達だった」




 僕達を召喚した国は、イーガという名の国だった。

 そしてイーガは、隣国のヴォネと戦争状態にあった。


 戦争に至った理由を僕は知らなかった。

 知った所で、僕達には関係のない事だったから。


 そしてイーガの国で……。

 亮二、紫、幸樹、そして僕。

 四人一組で、僕達は戦力として運用されていた。


 戦いが終わると、僕達戦争奴隷は食料の入った袋を渡され、そのまま駐屯地の専用兵舎へと収容される。


 部屋には二段ベッドが二つと排泄用の壷が置かれているだけ。

 部屋に奴隷が収容されると、入り口には鍵をかけられる。


 僕達が自由を許された場所は、この空間のみ。

 それも次の戦いが始まるまでの間だけだった。


 ここが僕達四人の部屋。


 部屋に戻ると戦の心労と肉体的な疲れで、会話すらままならなくなる。


 一度ベッドへ身を預けてしまうと、もう体のどこも動かない気がする。

 瞼を開ける労力すら惜しいと思えてしまう。


 それでも頭だけは動く。

 考え事だけは止める事ができない。


 よく考えるのは、召喚される前の事だった。


 前の生活や両親の事。

 それもぼんやりとしたものばかり。


 思い出しても、実感の沸かない記憶。

 最近では、それも夢だったような気がする。

 あの日々は、本当はありもしないものだったんじゃないかとすら思えた。


 そんな事を考えながら、僕は眠りに着く事が多かった。

 それは僕だけに限らなかった事だろう。

 みんな、部屋に戻るとベッドに身を横たえて、そのまま黙り込む。


 ただし、亮二だけは例外だった。


「お前ら、今日何人殺したよ?」


 亮二は僕と同じ二段ベッドの下側を寝床にしていた。

 彼は歯形の付いたパンを手に、そんな問いを僕達へ投げた。


 その問いに、答える声はない。


「俺は百人以上だ。へへ、すげぇだろ?」


 すると、彼は続けて言った。

 その声には、自慢するような響きがあった。


 答える声はない。

 それでも、彼の言葉は続く。


「いい世界だよな。ここは」


 本心から言っているのだろう。

 それがわかる気色を含んだ声。


「こんな強い力が貰えて、人を殺したって捕まらない。まぁ、今が捕まってるみたいなもんだけどな」


 ははは、と冗談めかして亮二は笑った。


「人を殺す事、辛くないの?」


 僕は訊ねる。

 思いがけない事だったのか、亮二は「ん?」と声を漏らしてから答える。


「人を殺す事なんて簡単だ。今はこの能力がある」


 そう言って、亮二は手の甲から爪のような刃を伸ばした。


「こいつを軽く振るだけで、羊羹切るみたいに人の体を真っ二つにできるんだぜ。まぁ、能力のないお前には、難しい事かも知れないけどな」


 亮二はからかうように、僕へ笑いかけた。

 彼が言う通り、僕には召喚によって得られるはずの能力がなかった。


 本来なら、誰もが能力を得られるはずである。

 それは時折あるケースだ。

 主にその理由はまだ使い方を習熟していない、もしくは他の能力者に奪われたという理由が考えられる。

 それから今に至るまで発現しなかったから、おそらく僕の能力は後者なのだろう。


「そうじゃなくて、気持ちが辛くならないのかなって……」

「自分が死ぬわけじゃねぇんだ。どこに辛くなる要素があるんだ?」


 どうやら彼は、あまり共感性に優れた人間ではないらしい。


 ただそれは羨ましい事でもあった。

 殊更、こんな状況であるなら……。


 人の痛みを理解できないという事は、戦場では有益な素養だっただろう。


 会話が途切れる。


「……おい、紫。一発ヤらせろよ」


 不意に、亮二はそんな事を言った。


「……嫌です」


 さすがに無視する事に危機感を覚えたのか、紫ははっきりと拒絶の意思を示した。


「へへへ。そう言うなよ」


 亮二は、ベッドから立ち上がった。

 紫の方へ向かっていく。


 紫も起き上がると、ベッドの上を後ずさった。


「やめろ」


 紫の二段ベッド、その上段で寝ていた幸樹がベッドから亮二を見下ろして言った。


「何だよ? やる気かよ?」

「必要ならばな」

「やれると思うのか? 俺は、ここの全員相手にしても勝つ自信があるんだぜ?」


 その言葉は誇張でもハッタリでもなく、事実だった。

 彼にはそれだけの実力があった。


 召喚者達は四人一組の部隊で運用されている。

 その部隊の人員は、それぞれの能力差を考慮されてバランスよく配分されていた。


 召喚者というのは、特筆する能力を持つ戦力。

 尖った力を持っている。

 それを特化するでもなく、平均した戦力に統合するという事は個性を殺す恐れのある配慮である。


 が、それにも理由はある。

 そもそも、四人一組の部隊を別々に運用しているのは、召喚者の反乱を危惧しての事だ。

 召喚者全員を集め、徒党を組んで反乱を起こされでもすれば、如何に首輪があったとしても止められない可能性があるとイーガの首脳は認識しているのだろう。


 だから、最低限の戦力をまとめて運用しているのだ。


 そして、亮二はイーガにいる召喚者達の中で、もっとも優れた者だった。

 もっとも能力に優れていない僕と同じ部隊の割り当てになったのもそのためだ。


 最強と最弱を組み込む事で、戦力の均一化を図っている……。

 いや、それは僕だけじゃなかったのだろう。


 紫もまた、その当時は能力が発現していないと認識されていた。

 幸樹は偽神ぎしんマンデルコアの加護者である事が確認されていたが、マンデルコアの加護者は往々にしてその力を発揮するまで時間がかかる。

 経験を積まなければ、通常の人間とそれほど変わらないのだ。


 だから、この部隊はほとんど亮二の過剰な戦力へマイナス要素を付与するための配置と言えた。


「いつまでも、変わらないと思うな……。俺は『経験』を積んでいる……!」


 亮二の言葉に、幸樹は怯む事無く返した。


 マンデルコアの加護者は、ゲームキャラクターのように経験値を得てレベルアップする事ができる。

 個人の経験、それに加えてパーティ経験値を付与されて亮二が殺した分の経験値も幸樹に加算される。


 幸樹の言葉もあながちハッタリではないのかもしれない。


「おもしれぇや」


 自分を睨む幸樹に対して、亮二は笑いかけた。


「やめて!」


 強い口調で、紫が告げた。


 その一言で、一触即発の空気が明らかに弛緩した。


 そんな時だった。

 部屋のドアから音がする。

 鍵束のゆれる音、そして鍵の開錠される音だ。


 そうして開かれたドアの前には、一人の兵士が立っていた。


「02番、09番。出ろ」


 番号を告げられる。

 02番は幸樹、09番は亮二の事だ。

 戦争奴隷は、皆番号で管理されていた。


 兵士の言葉は日本語ではないが、首輪には翻訳の機能もついているらしく、兵士の言葉が日本語に変換されて聞こえた。


「ちっ」


 亮二は舌打ちする。

 どれだけ強力な能力を持っていても、首輪で命を握られている以上彼はイーガの一兵卒にすら逆らえない。

 この国で僕達は、誰よりも底辺の存在だった。


「喜べ。お前達は、戦勝の宴へ参加を許された」

「宴?」


 兵士の言葉に、幸樹は訝しげな声で訊ね返した。


「将軍閣下は、この度の勝利に満足なされている。目覚しい活躍をした貴様らを労いたいとの事だ」


 兵士の言葉に幸樹は顔を顰めたが、亮二は嬉しそうに笑った。


 こうして優秀な召喚者を宴に招待するのは、懐柔する目的があったからだろう。

 戦争奴隷としてではなく、将に取り立てるなどして自国の人間とする意図があったのだ。

 戦争奴隷として反感を抱かせるよりも、実力に見合う者を取り立てて厚遇、勢力に取り込む方が反抗も少なく運用できる。

 そういう考えがあっての事だ。


 働きによって奴隷の身分から解放されるという前例があれば、他の召喚者達の中にも逆らうより積極的に貢献しようと思う者が出てくる。

 結果として、召喚者達を扱いやすくなるのである。


 現に、多くの国で同じ手法が用いられ、戦争奴隷から将になった召喚者は多い。


 亮二と幸樹が宴へ招待されたのも、懐柔の前段階としてだろう。


 二人が兵士に連れられ、部屋を出て行く。

 再び、ドアの鍵が閉じられる。

 その音が響き、室内は静かになった。


 残されたのは不動と紫。

 二人は黙り込んでいた。


「これから、どうなるのかしらね……。ずっと、こんな毎日が続くのかしら……」


 そんな中、紫が呟く。


「……わからない」


 嘘でも、「大丈夫だよ」と慰めるべきだったかもしれない。

 けれど、僕は素直な感想を述べる事しかできなかった。

 その言葉には、僕自身の抱く不安も含まれていた。


「そうね」


 紫が返すと、また二人揃って黙り込んだ。


「でも、何とかなるわ。生きてさえいれば、きっと……方法があるはず……」


 根拠のない言葉ではあった。

 彼女は、僕を慰めようとしてくれたのかもしれない。

 僕にできなかった事を彼女はしてくれたのかもしれなかった。

 そう思えば、情けなさを覚える。


 でも、彼女の口から出たその言葉を聞くと……。

 僕は不思議と、心が安らぐ思いだった。


「だから、今は休みましょう」

「うん」

「体が元気なら、今の折れてしまいそうな心だっていつか治るわ」

「そうだね」


 出会ってからそれほど時間は経っていないのに、彼女と一緒にいると安心するのだ。

 それは今まで、彼女が折れそうな僕の心をその都度慰めてくれていたからだ。

 僕はその居心地の良さを心の支えにしていた。


 思えば僕は、彼女にずっと助けられてきていたんだ。

 きっと彼女がいなければ、僕の心はもっと酷い状態になっていただろう。


 彼女は僕の心を守ってくれる。

 だったら僕も、彼女を守るべきなんだろう。


 それがどれだけ恐ろしい事でも、それはしなくちゃいけない事なんだ。

 立ち向かっていかなくちゃいけない事なんだ。


 敵の刃からも、僕達に振りかかる運命からも、彼女を守りたい。

 たとえこの命に代えても、彼女だけは……。


 僕はそう思った。

 不動「亮二くんが羊羹を切る事なんてあるの?」

 田中「好物だったからな」


 片山かたやま 幸樹こうき

 高校二年生。

 優等生で成績がよく、文武両道の少年。

 人付き合いは苦手だが、人当たりは良い。

 気難しい所があり、感情的な部分を見せる事もある。


 能力『チート(ソードファイター)』

 数種類あるマンデルコアの加護の内の一つ。

 剣技に特化したスキルとパラメータ上昇率を持つ。

 戦士系下位クラスの中では体力と防御力が比較的低く、攻撃とすばやさが高い。

 使いにくいスキルが多く、しかし使いこなせれば無類の強さを誇る。

 プレイヤースキルに左右されやすいクラス。

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