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パンドラ

 誤字報告、ありがとうございます。

 修正致しました。

 この世界には多くの神々がおり、それぞれを奉る者達がいる。

 その教会は、癒しの神クルメルトを奉じた場所だった。


 教会には孤児院があり、親を亡くした子供達が暮らしていた。

 クルメルトの教会はその大半が同じく孤児院を運営しているが、それはクルメルトが司る「癒し」という権能を倣っての事である。


 その教会に一人の女性がいた。

 彼女の名はカタリナ。

 クルメルトの敬虔な信者である。


 彼女は孤児院の庭で、子供達の洗濯物を干していた。


「カタリナお姉ちゃん」


 そんな彼女へ声をかけたのは、一人の少女だった。

 さらさらとした長い銀髪の少女である。


 彼女はその可愛らしい顔に笑顔をいっぱいに浮かべ、カタリナへ声をかけた。

 次いで、カタリナの体に軽い衝撃が走る。

 少女がカタリナへ後ろから抱きついたのだ。


「クラリス。洗濯の邪魔をしてはいけませんよ」


 そう注意するカタリナだったが、その表情は穏やかな笑みだった。


「はーい」


 カタリナの話をしっかりと聞いているのかいないのか、間延びした返事をするクラリス。


「じゃあ、お手伝いする。いいでしょ?」

「いつもは嫌がるのに、どうしたんですか?」


 カタリナは不思議そうに訊ねた。


「うん……」


 すると、不意にクラリスの表情が曇った。


「あのね、もうお姉ちゃんと一緒に居られなくなるから」


 カタリナは洗濯物を干す手を止め、クラリスへ向き直った。


「もしかして、里親が見つかったのですか?」


 問いかけると、クラリスは唇を引き結んだ。

 そして、小さく頷く。


「おめでとうございます」

「うん……ありがとう」


 礼を言うクラリスだったが、その表情は晴れない。


「……でも私、本当はここにいたいんだ。お姉ちゃんや、みんなと一緒に暮らしていたい」

「いけませんよ。もっと喜ばなくては……」


 カタリナはそう嗜める。


 本当は、カタリナも彼女がいなくなる事に寂しさを覚えていた。

 しかし、孤児院は決して裕福ではない。

 食事も育ち盛りの子供達にとってあまりにも乏しいものだろう。

 そんな孤児院で育つよりも、しっかりとした両親に愛情を注がれながら暮らす方が子供達にとってはいいはずだ。


「これはきっとクルメルトが繋いでくれた縁でしょう。あなたはこれから、幸せになるのです」


 実際、この孤児院の子供達は頻繁に引き取られていく。

 これはきっと神の思し召しがあるからに違いないとカタリナは思っていた。


「うん。わかってる。私、幸せになるね」


 クラリスは笑顔で言った。




 教会の聖堂には、クルメルトを象ったステンドグラスがある。

 カタリナはそれに向けて祈りを捧げた。


 クラリスの里親が見つかった事への感謝だ。

 孤児院の子供達に里親が見つかるたび、カタリナはこうして感謝の祈りを捧げていた。


 各国が戦に明け暮れる今の時勢、こうして子供を引き取ってくれる者が現れる事は奇跡に近い。

 そこに神の加護を感じずにはいられなかった。

 だからこそ彼女は、心からの感謝を捧げるのである。


 祈りを終え、立ち上がる。

 振り返ると、一人の男性が立っていた。


「クラヴィス神父」


 カタリナは笑みを向ける。


「また、祈りを捧げていたのですか?」


 クラヴィスはカタリナへ優しい笑みを返す。


「はい。神の思し召しを感じたので」

「そうですね。たびたび良縁が舞い込むのは、きっと神の力あっての事でしょう」

「では、今回の申し出も?」


 カタリナが訊ねると、神父は頷いた。


「町の資産家のようです」

「まぁ」


 裕福な家庭に引き取られるならば、これほど喜ばしい事は無い。

 きっとクラリスは、こことは比べ物にならない良い暮らしができるだろう。


「明日には迎えが来るそうです」

「明日、ですか」


 ずいぶんと早い。

 彼女との別れを惜しむ時間もそれだけ短いという事だ。


 彼女がいなくなる事には寂しさを覚える。

 しかし、彼女の幸せの前ではそんな事など瑣末な事である。


 きっとそれは考えるべき事ではないだろう。


 カタリナの孤児達へ抱く愛情は強い。

 ここで世話をした子供達には皆、慈しみを以って接している。

 それは引き取られていった子供達も同じ事。

 ここを去って会う機会が無くとも、その顔も名前も声だって全て憶えている。


 だからこそ、別れの寂しさも強いのである。


 子供達が幸せであればいい。

 カタリナは子供達が引き取られていくたび、そう自分に言い聞かせて寂しさを押し殺していた。


「わかりました」




 夕食時。

 カタリナは子供達と共に食卓を囲んだ。


 クラヴィス神父はいない。

 彼は今教会におらず、外へ出かけている。


 教会経営の一助とするべく、援助の申し出を受けている者を探しに外へ出ている事が多かった。

 食事を共にする事はほぼない。


 用意された食事は、野菜のスープとパンだけ。

 これが普段の食事である。

 日々の食事を賄うには、どうしても質素なものとなってしまうのだ。


「ほら、これやるよ」


 クラリスの隣に座っていた男の子が、自分のスープからベーコンを取ってクラリスのスープへ移した。


「いいの? ありがとう」

「これが最後だからな。餞別ってやつだ」

「うん」


 それを皮切りに、他の子供達も自分の食事を少しずつクラリスへ分け与え始めた。

 皆、ただでさえ今の食事だけでは足りないだろうに。


「私のも」


 カタリナは自分のパンをクラリスに渡した。


「ありがとう。カタリナお姉ちゃん」


 そんな夕食の時間が過ぎ……。


「ねぇ、カタリナお姉ちゃん。お話聞かせて」


 クラリスはカタリナにそう強請った。


「いいですよ」

「お膝の上に座っていい?」

「ええ」


 他の子供がそれに不満を漏らす。


「えー! きょうはわたしのばんだったのに!」

「ごめんなさいね」


 カタリナは苦笑して謝る。

 こうしてクラリスの我侭わがままを聞く事も最後だろう。


 そう思うと叶えてやりたいと思った。


「悪いわね、ベル」


 そう言ってクラリスはいたずらっぽい笑みを向ける。


 暖炉を前に子供達は集まって、カタリナはその中心に座る。

 話を聞かせる時には、いつもこうしていた。


 カタリナは膝の上にクラリスを座らせて、神々の逸話を聞かせる。


 今日はクルメルトの逸話だ。

 クラリスの門出に……。

 この話は相応しいと思ったのだ。


 クルメルトは癒しの神。

 あらゆる者に慈しみを与え、そしてその幸せを願う神だ。


 かつてのクルメルトはその権能を惜しみなく使い、全ての人間が癒しの恩恵を受けて幸せに暮らしていた。


 しかし調和の神リブラールが主神になり、クルメルトは全ての人間へ癒しを与える事ができなくなった。

 それでも癒しを与え続けたクルメルトは拘束具を着けられ、今やその権能の殆どを封じられている。

 だからこそ、この世界の者全てが幸せになる事はできない。

 しかし慈悲深いクルメルトはわずかに残った権能によって、人々が不幸に陥っても希望だけは残るようにしたのだという。

 そんなクルメルトを称える逸話である。


「どうして、全ての人を幸せにしてはいけないの?」


 子供の一人が訊ねる。


「リブラールは調和の神。幸せばかりでは、調和が取れないという事なのでしょう」


 カタリナはそれに答えを返した。


 幸と不幸。

 喜びと悲しみ。

 癒しと苦痛。


 あらゆる物には、対称となる要素がある。

 揺れ動くそれらの要素を一定に保つ事が、調和を取るという事なのだろう。


「調和なんて取れなくていいのに。私は幸せだけがほしいよ」


 クラリスはそう呟く。


「主神には主神の考えがあるのでしょう。神の考えを量る事は、人にとって難しいものです」

「ふぅん」


 釈然としない様子でクラリスは言う。

 そのままカタリナの膝を枕代わりに寝そべった。


 クラリスの見上げる目と目が合った。


「眠くなったのなら、お部屋へ戻って眠らなくちゃいけませんよ」

「ううん。眠くなったわけじゃないの。こうしていたいの」


 注意はしたけれど、カタリナもこうしていたいと思った。

 これが最後になるだろう。

 もう少し、彼女と一緒にいる時間が長く続いてほしかった。


 とはいえ、眠くないというのは嘘だろう。

 その目は、少しずつ落ちようとしていた。


「お姉ちゃん。世界が調和に保たれているなら、私は幸せにも不幸にもならないのかな?」


 クラリスは、カタリナの手を取った。

 ぎゅっと握る。


 クラリスはよく、こうしてカタリナに甘えてくる。

 カタリナもその手をぎゅっと握り返した。


「いいえ。あなたは、これから幸せになるのですよ」

「そうなんだ。私は幸せになるんだ。……だったら調和を取るために私は、その後で不幸になるのかな?」

「今までの苦節があったからこそ、今幸せが来たのですよ」

「そうは思えないよ。私、今の自分が不幸だと思った事なんてないもん……」


 クラリスは言うと、瞳を閉じた。


「ねぇ……お姉ちゃん。私を放さないで」

「……」


 クラリスはそのまま、眠りに落ちた。




 翌日の朝早く、カタリナはクラリスを起こした。

 身支度を整える。

 殆どない彼女の私物を荷物にまとめ、身嗜みを整える。


 彼女は綺麗な色の銀髪をしているが、ろくに手入れをしないためその髪は指通りが悪かった。

 それを丁寧に櫛で梳いていった。

 その間にぼんやりとしていたクラリスの意識も明瞭になっていく。


「髪を梳いてもらうのも、これが最後かぁ……」


 呟くクラリス。

 それを聞いて、カタリナは寂しさを覚えた。


「ずっとお別れというわけじゃないでしょう。あなたが大人になったら、また会いに来てくれればいい」

「そっか。そうだね」


 まだ他の子供達が眠っている時間、二人教会の外で待っていると迎えは来た。

 迎えの馬車は黒塗りで、貴族が使うような豪華なものだ。

 それを見るだけでも、里親の経済力がわかる。


「お迎えにあがりましたよ」


 そう言ったのは、御者の男だった。

 御者台から下り立つと、その男の伸長はカタリナよりも低かった。

 仕立ての良い服を着て、頭にはシルクハットを被っていた。

 そのシルクハットを脱いで頭を下げると、てっぺんだけ禿げた頭が見える。


「あの、あなたが養父様ですか?」


 御者の男はヒヒッとおかしそうに笑う。


「いえ、あっしはただの使いです。旦那様はお忙しい身の上ですからね」

「そうですか……」


 できるなら、どんな人間がクラリスの親となるのか、それを自分の目で確かめたかった。

 それが適わず、残念だった。


「ささ、行きましょう」


 そう言って、御者の男は急かす。

 すると、クラリスはカタリナの顔を見上げた。


 そして、カタリナに抱きつく。

 カタリナもその肩へそっと腕を回す。


「いつか大人になったら、私。お姉ちゃんに会いに来るから」

「ええ。楽しみに待っています」


 しばし抱き合っていると、クラリスはそっと身を離した。

 馬車の方へ向かう。


「じゃあね」

「ええ。また、会いましょう」


 馬車に乗り、御者が馬を走らせる。

 遠ざかる車窓には、クラリスの姿。

 彼女はカタリナへ手を振った。

 カタリナもまたそれに手を振り返す。


 曇りそうな表情を笑顔でかき消し、その姿が見えなくなるまでカタリナは見送り続けた。




 その日は雨が降っていた。

 やんちゃでいつも外へ遊びに出る子供達が、それを躊躇うほどの強い雨だった。


 カタリナは聖堂で祈りを捧げていた。

 来訪者があったのは、その時であった。


 カタリナは顔を上げ、聖堂の入り口を見やる。

 するとそこには一人の男性がいた。


 大柄な金髪の男性。

 口元には髭を蓄え、服装は着古したシャツとパンツだった。

 あまり風体が良いとは言えなかった。


 それでも、カタリナはそんな彼の来訪を厭わなかった。

 笑みを浮かべて出迎える。


「参拝でしょうか?」

「ああ」


 男性は答える。

 しかし、すぐに顔をそらして苦笑する。


「……と言いたいが、実際は雨宿りかな」


 参拝ではない理由で訪れた事に、少しの罪悪感を覚えている様子だった。

 そんな姿を見ると、悪い人間には思えなかった。


「構いませんよ。それがあなたにとっての救いとなるのなら、きっとクルメルト様も喜ばれる事でしょう」

「だといいがな」


 短く答え、男性はクルメルトを象ったステンドグラスを見上げた。


「クルメルト……。力を封じられた癒しの神」

「よくご存知ですね」

「たまたま、知っていただけさ。わずかに残った力だけで、最後に希望だけを残す、か」


 ジョエルは苦笑する。


「まるでパンドラの箱だ。いや、唯一希望だけが存在しているならば逆かな」

「パンドラ?」

「異世界の逸話だよ」


 異世界……。

 この男性は召喚者なのだろうか?

 もしくは、別の誰かから聞いたのか。


 カタリナは疑問に思う。


「全ての災厄を封じた箱があり、パンドラという女性がそれを好奇心で開けてしまう。封じられた災厄は再び世界へ散り、パンドラは急いで蓋を閉めたが希望だけが箱の中に残った」

「希望が、災厄なのですか?」

「解釈はいろいろあるが……。私見から言えば、希望とは踏み台なのかもしれない」

「踏み台?」

「高い所から落ちた方が、衝撃は強い。希望という物は、少しでも高い場所から絶望の底へ落ちるために少しずつ、階段のように積み上げられていく踏み台なのかもしれない。私には、そう思えるんだ」


 カタリナはその意味を理解した。


「かもしれません。でも、そうとは限らないはずです」

「そうだな」


 男性は優しくカタリナに微笑みかけた。


「あの、あなたのお名前は?」


 思わず、カタリナは訊ねていた。


「ジョエルだ」

「ジョエル……さん」


 教わった名前を反芻する。

 そんな時だった。


 バタバタと男の子が一人、聖堂へ駆け込んできた。

 男の子は、カタリナとジョエルに気付く。


「お姉ちゃん! ……と、もじゃもじゃ!」


 ジョエルを見て戸惑いつつも、男の子はそう声を上げた。


「こらっ。お客様にそんな事を言ってはいけません!」

「えー! だってもじゃもじゃだもん!」

「それに、聖堂ではもっと静かにしなさい」

「だってもたもたしてたら、隠れる前に見つかっちゃうじゃん!」

「かくれんぼですか? 聖堂で遊んではいけないと言ったはずでしょう?」


 この雨で外に出られないから、建物の中で遊ぶ事にしたらしい。

 終わった時に、孤児院がどれだけ散らかっているかカタリナは少し心配になった。


「だから誰も探しに来ない!」


 えへん、と胸を張って男の子は得意げに答えた。


「それはルールを守って遊んでいる子に失礼でしょう。だから、戻りなさい」

「えー」

「ほら、早く」


 不満そうな男の子の背を押して、孤児院の方へと戻らせる。

 そうして一息吐き、ジョエルに向き直る。


「すみません。失礼な事を言ってしまいました」

「いいさ。本当の事だ」


 そう言って、ジョエルは自分の髭を摘む。


「最近は忙しくて、身嗜みを整える暇も無かった」

「はぁ……」


 カタリナは恐縮した様子で答える。

 そんな彼女に、ジョエルは微笑む。


「子供に好かれているようだ」

「そうでしょうか? みんな、やんちゃで言う事を聞いてくれませんが」

「慕われているからこそ、言いたい事を口にしてもらえるのだよ。私はそう思うね」

「だと、嬉しいですね」


 照れてはにかみ、カタリナは答えた。


「そして君自身も、子供達を慈しんでいる。そう見えた」

「それは、そうですね。できればずっとみんなの成長を見守っていきたい」


 そう言って、カタリナは苦笑する。


「でもみんなには、幸せになってほしい。そのためには、ここでずっといるわけにはいかないでしょう」

「どうして?」

「孤児院は貧しいので。食べ物も少ないし、健やかに育てられるとは思えない。だから、一人でも多く里親に引き取ってもらうべきなんです」

「なるほど」

「幸い、クルメルトの加護があるのか、その申し出も少なくないんですよ」


 沈みそうだった表情を笑顔に変え、カタリナは続けた。


「子供達がいなくなる事は寂しい。引き取られた子は幸せに暮らせているのか、それも気になります。けれど、みんなそれで幸せになるのならそれが一番いい」


 ジョエルは不思議な表情になった。

 笑みではあるが、どこか苦痛を感じているようにも見えた。


「ああ。そうだな。きっと、みんな幸せに暮らしている。シスターがそう願っているなら」

「はい」


 カタリナはその言葉を素直に受け取った。

 事実、それを願っていた。

 そうであってくれるならいい。

 自分の手を離れても、幸せであってほしい。

 いや、むしろここに居た時以上の幸福が子供達を包んでいてほしい。


 そう強く願っていた。


 その後、ジョエルはしばらく聖堂に留まった。

 その間、カタリナはジョエルと話をした。

 教会の事や孤児院の事、それにクルメルトの逸話。

 そして雨が止むと、ジョエルは聖堂を出て行った。




 その翌日の事だった。

 カタリナは一人、町へ買出しに出かけていた。


 食料品を仕入れ、そして古着の店にも顔を出す。

 みんなよく動き回るから、服もすぐぼろぼろになってしまう。


 クラリスの里親が、彼女を引き取る際に寄付金をくれたのでそれで思い切って古着も買っておこうと思ったのだ。

 その寄付金も節約しなければ、すぐに底をついてしまうだろうが。


 そんな時だった。


「おい。あんた」


 強い口調で声をかけられる。

 カタリナが振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。


 前に見た仕立ての良い服こそ着ていないが、彼はクラリスを迎えに来た馬車の御者である。


 彼は怒りの形相を浮かべ、カタリナへ詰め寄った。


「約束と違うじゃねぇか!」


 そう怒鳴りつける。


「な、何の話です?」

「とぼけるんじゃねぇ! 約束じゃ、分け前は金貨一枚だって話だろうが! 銀貨三枚しかもらってねぇぞ!」

「分け前?」


 何故彼が怒っているのか。

 何の分け前なのか。


 カタリナには何もわからなかった。

 ただただ戸惑うばかりである。


「あのクラリスとかいうガキを運ぶ仕事だろうが!」

「クラリスを、運ぶ? あなたはクラリスの里親に雇われた方ではないのですか?」

「はぁ? 里親だぁ? ああそうだな。そうやって子供騙くらかして奴隷商に売ってるがな――!」


 奴隷商?


 その言葉に、カタリナは逆に男へ詰め寄った。


「どういう事です!? 奴隷商ですって? あの子は、資産家の里親に引き取られて……。奴隷商になんて……」


 鼓動が早い。

 肌寒い気候だというのに、体が熱を発して汗が止まらない。


 クラリスが奴隷商へ売られた?

 そんな馬鹿な……。

 そんな事、あるはずが……。


「何を誤魔化そうとしてやがる! 全部承知の事だろうが!」


 男は怒鳴り返し、そしてクラリスに手を伸ばした。


「いや!」


 カタリナはそれを突き飛ばし、走り出した。


「待て! 金をよこせ!」


 男の声が背中を打つ。


 カタリナはその場から逃げ出したかった。


 息が切れて苦しくなっても立ち止まらず、彼女は足を留めなかった。

 その苦しみ以上に、あの男が言った話への不安が彼女を駆り立てたから。


 何かの間違いだ。

 そんなはずはない。

 クラリスは今、里親の庇護下で幸せに暮らしているんだ。


 そう思いながらも、不安は紛れない。

 しかしその道中で、カタリナは考えを変えた。


 あの男の言葉を嘘だと断じたいのは、自分がそう思いたいからだけだ。

 もし、あの男の話が本当だとしたら、自分の願望に何の意味がある。

 クラリスが本当に奴隷にされてしまったのだとしたら、自分を誤魔化すよりも彼女の安否を心配するべきだ。


 しかし、自分にはどうしていいのかわからなかった。

 彼女の安否を確認するためには、何をどうすればいいのか。

 何もわからない。


 教会へ帰り着く。

 神父の部屋へと駆け込んだ。


 彼女には、そうして一番信頼できる人物と相談する事しかできなかった。


「クラヴィス神父! クラリスが奴隷商に売られたって!」


 カタリナが言うと、クラヴィスは険しい表情になった。


「落ち着きなさい。どういう事です?」


 問われ、カタリナは町であった事を伝える。

 クラヴィスは強張った表情のままそれを聞いた。


「それが本当なら、大変な事です。私達は騙されたのかもしれない。でもとりあえず、君は落ち着きなさい」


 クラヴィスはそう言うと立ち上がる。


「どこへ?」


 彼が部屋から出て行こうとしている事に不安を覚え、カタリナは訊ねた。


「町の衛兵に相談してきます。その男の言葉が本当ならば、これは大規模な組織の関わった犯罪かもしれません。私達だけでは対処できない」

「それは……。……はい。そうですね。お願いします」

「あなたはここで待っていてください」

「私も行きます」


 カタリナは申し出る。

 しかし、クラヴィスはそれを断った。


「君に声をかけた男が近くにいるかもしれない。私はあまり荒事が得意でないから、何かあった時に君を守れる自信が無い。わかってほしい」


 そう言われると、カタリナは引き下がる事しかできなかった。

 確かに、またあの男と出くわす事を考えると恐怖があった。


 本当は、誰かそばにいてほしかった。

 けれど、クラヴィスの言葉ももっともに思えた。


「お願いします。クラリスの安否を……」

「任せてください」


 クラヴィスは言うと、部屋から出て行った。


 カタリナはしばらく部屋の中で佇んでいたが……。

 じっとしている事に耐えられなくなり、部屋を出た。


 聖堂へ向かう。

 ステンドグラスを前に跪き、祈りを捧げる。


 どうか……。

 どうか、クラリスをお守りください……。

 彼女が無事でありますように……。

 私に希望を与えてください……。


 それからどれだけ経っただろう。

 カタリナにとってその時間は、あまりにも長く感じた。


 そしてその時間は、唐突に終わりを告げた。


 聖堂の扉が叩き壊される音がした。

 斧で少しずつ壊されていく扉を前に身が竦む。

 数人の男達の姿が、斧で開かれた部分から見える。

 怒声が浴びせられ、聖堂に響く。


 逃げ出そうとした時には遅かった。

 男達が聖堂へと押し入り、カタリナは頭に袋を被せられて捕らわれた。


「やめて!」


 カタリナの言葉を聞く者はいない。

 男達に容赦はなかった。


 カタリナがどれだけ足掻こうと意味はなく、彼女はどこかへと連れて行かれる。

 馬車に乗せられ、そのままどこかへ物のように運ばれた。


 がたごとと馬車に揺られ、そして彼女は馬車から運び出されると……。

 どさりと、と硬い地面の上へ投げ出された。


 扉が閉じ、鍵をかけられる音が響いた。


 拘束などはされなかった。

 あるのは頭の袋だけ。

 袋を取る。


 周囲を見ると、そこは知らない部屋だった。


 冷たい石畳。

 湿気が多く、酷い臭いが充満している。


「ここは、どこ……」


 闇に沈む室内は、どうなっているのか把握しにくかった。


「お、ね……ちゃ……」


 かすかな声が上がる。

 幼い声だった。


 すぐに思ったのは、それがクラリスの声なのではないかという事。

 しかし、思い直すとクラリスの声とは違う気がする。


 ただ、それでも聞き覚えがある。


 声のした方へ目を凝らす。

 そして闇の中、次第にそれが像を結び始めた。


「ひっ……」


 思わず、そんな声を漏らした。


 そこにいたのは、何かよくわからないものだった。

 両手を壁の枷へ繋がれた何かだ。


 体の小さなそれに足はない。

 そしてカタリナへ向けられる顔は、半分が人の形を保っていなかった。


 だがそのもう半分。

 人の形を保っていた方の顔をカタリナは覚えていた。


「ミリア……?」


 それは二週間前、クラリスより以前に引き取られていった孤児の女の子だった。


「どうして……」


 こんな姿に……。


「お姉……ちゃん……?」

「おねえ……たすけ、て……」

「痛いよ……お姉ちゃん……」


 ミリアの声とは別の声が、周囲から聞こえ始める。

 その声の主を確かめるために、カタリナは周囲を見回す。


 予感があった。

 悪い予感が……。


 そこはおおよそ、この世の現実とは思えない場所だった。

 それを全て把握し、理解した時……。


 カタリナは戦慄と猛烈な吐き気を覚えた。


 そこに多くの子供達がいた。

 皆、部屋に枷で捕らえられ……。

 そして、誰もが人としての形を損なっていた。


 拘束されていない子もいる。

 しかしそれは、拘束する必要もない状態だったからだ。


 カタリナは別れを経た子供達の事を憶えている。

 子供達との思い出、別れ際のやり取り、そしてどんな気持ちで見送ったのかも……。


 それら全てを塗り潰すように、今の子供達の姿が脳裏に焼きつく。


 子供達は皆、あらゆるものを失っていた。

 体の自由も、形も、笑みすら……。

 全ては損なわれていた。


 残されているのは、苦しみだけだ。


 何があったのか?

 何をされたのか?


 そんな、みんな幸せになれたと思っていたのに……。

 幸せになれると思ったから、私はみんなを笑顔で見送ったのに……。


 送り出していたその場所が、こんな……。

 こんな……。


「ああ……あ、ああああああぁぁぁぁ……」


 カタリナはうずくまり、声を上げた。

 肺腑の……いや、臓腑の全てを吐き出すように声を上げた。


 膝を折り、体を抱き、そのまま石畳の床へ身を横たえる。


 酷く寒かった。

 体が凍えている。

 それは石の床の冷たさが、私の体から熱を奪ったから……。


 いや、違う。

 寒さは、体の内側から染み出しているようだった。

 体の奥から徐々に広がり、全てを染めていく。


 寒さは動く気力を奪い、カタリナはぴくりとも体を動かせなくなった。

 声をあげる事もできず、涙を流す事しかできなかった。


 彼女を呼ぶ子供達の声を耳に……。

 胎児のように身を丸め、全てから目をそらすようにして意識を失った。




 カタリナが捕らえられた部屋の扉が、開かれる。

 いや、それは開かれたというよりも強引にこじ開けられたという方が正しいだろう。


 部屋の外の明かりが部屋へ入り込み、カタリナを照らす。


 カタリナはその光で目をかすかに開けた。


「シスター……。助けに来た」


 声に顔を上げると、そこにはジョエルがいた。


「あなたは……」


 見知った顔。

 そして、助けに来たという言葉。


 カタリナはわずかばかりの安心を得た。


 カタリナは体を起き上がらせると、周囲を見やる。

 そこには子供達がいる。

 外の明かりに照らされ、鮮明に映し出されたその姿に、これが悪夢ではなく現実である事を突きつけられる。


 カタリナはジョエルの顔を見上げた。

 その瞳から、ポロポロと涙が零れ出てくる。


「ジョエルさん……。子供達が……」


 そう声を出すカタリナに、ジョエルは痛ましい表情で接する。


「ああ。わかっている。すまない。助けられなかった……」


 悔やむように、続ける。


「私はここで何が行われているのか知っていた。けれど、魔法で妨害されて探し当てる事ができなかった。連れて行かれたあなたを追いかけるまで」


 ジョエルは、カタリナの手を掴んで立たせる。


「ここを出よう」

「待ってください。この子達を……」

「今は置いていくしかない」

「でも……」


 躊躇いを見せるカタリナの手をジョエルは両手で包むようにして掴んだ。

 温かい大きな手だ。


「私を信じてくれ。もう、これ以上この子達を苦しませるような事はしない。必ず助け出す。だが今は、連れて行けない。私一人ではこの子達を連れて守り切る自信がないんだ。五体満足で動ける君一人で精一杯だ。だから君だけを連れて行く」


 その言葉はジョエルの本心だった。

 真剣な眼差しで語られる言葉に、カタリナも気付く。


 彼が本気でそれを口にしている事がわかった。


「大丈夫だ。この場にこの子達を残していっても、危険はないだろう。信じてほしい」

「わかりました……」


 言い募るジョエルに、カタリナは答えた。


「でも、この子達だけじゃないんです。まだ、クラリスが……」


 口にして気付く。


 そうだ。

 この部屋の中にクラリスはいない。

 もしかしたら、クラリスはまだ無事なのかもしれない。


「なら探そう。もうこれ以上、犠牲は出さない」

「……はい。お願いします」


 クルメルトよ。

 どうか、癒しを……。

 希望をお残しください。


 そう願い、カタリナは部屋から出るジョエルの背を追った。

 その直前に足を留め、振り返る。


「必ず戻ってくるから」


 胸中のあらゆる気持ちを押し込め、部屋の子供達が安心できるように、精一杯に優しい口調で語りかける。

 そして今度こそ部屋を出た。


 ジョエルは早足で廊下を歩いた。

 その歩き方には怒りが滲み出しているようだった。

 全身に力みがある。


 カタリナはその歩調に置いていかれぬよう、必死でそれを追った。


「あなたは、何者なのですか?」

「殺し屋だ」


 殺し屋。

 確かに、彼は人を殺していた。


 カタリナが捕らえられていた部屋。

 そこから出ると、死体が一つ転がっていた。

 その死体には頭がなかった。

 その有様には、カタリナも思わず目を背けた。


 多分あれは、このジョエルがやったのだろう。


「ここを経営している人間を殺しに来た」

「経営? ここは何なんです?」

「見世物小屋だ」


 侮蔑を含んだ声色でジョエルは答えた。


「見世物……小屋……?」

「ここでは毎夜、ショーが開かれているんだ。人の苦しみを観せるためのショーが」

「人の苦しみ……」


 カタリナは、子供達の姿を思い起こした。

 あのような体にされるまで、あの子達はどれだけの苦しみを味わったのだろう。

 殺されるでもなく、ただただ苦しませるためだけの加害に晒され……。

 だからこそ、あの子達は今も生きていた。


 そんな子供達の事を思うと、また涙が溢れそうになる。


「何故、あの子達はそんな場所に……。あの子達は、里親に引き取られていったはずなのに」

「……この組織は里親を装い、ショーに出る子供達を調達していた。それだけの事さ」


 答えるジョエル。

 彼の前に、行く手を遮る者が二人。


「何だお前は! 何でここにいる!」


 この施設の人間なのだろう。

 ジョエルとカタリナを見つけて、怒声を浴びせる。


 しかし、ジョエルはうろたえる様子もなく、歩みを止めなかった。


 おもむろに男達へ近づくと、一人を殴り上げた。

 殴られた男の体が宙へ浮き、天井へぶつかった。

 頭が天井にぶつかって潰れる。


 そしてもう一人の拳を受け止め、そのまま強く握る。

 熟れたトマトのように、拳が潰れた。


 男が激しい痛みに悲鳴を上げる。


「人を探している。クラリスという子だ。どこにいる?」

「し、知らねぇ!」

「なら、ここを仕切っている奴はどこだ?」

「ボスなら自分の部屋だ!」

「そうか。どちらへ行けばいい?」


 この通路だ、と男は指差す。


「わかった」


 ジョエルは言うと、男の顔を殴った。

 殴られた顔が弾け、潰えた。


 その凄まじい力に、カタリナは驚き、息を呑む。

 あまりにも容易に命が消える光景に、吐き気すら覚えた。


「行くぞ」

「は、はい」


 動じる事無く進み続けるジョエルをカタリナは追う。


 それから何度か施設の人間と遭遇したが、そのたびにジョエルはその者達を容易く排除した。

 その都度、ジョエルは道を聞いてそれを元に施設内を進んだ。


 ジョエルが作り出す殺戮の光景は、到底許容できるものではなかった。

 しかし、カタリナにそれを止める事はできなかった。


 きっとクラリスを助けられるとすれば、彼だけだ。

 そのためにも、その許容しがたい行為をカタリナは容認した。

 それは罪深い事であろうと自覚していたが、クラリスを助けたいという一心から心の苦痛に彼女は耐えた。


 そして、ある一室に辿り着く。

 部屋の前にいる護衛らしき二人の男を殴り殺すと、ジョエルは扉を蹴破って中へ押し入る。


「なんだ?」


 部屋の中では、書斎机に着いた男が一人。

 仕立ての良い服を着たその大柄な男の手元には、金貨があった。

 袋に詰められていたそれらを数え、積み上げていたようだ。


「ここの経営者だな?」


 ジョエルの問いに男は答えなかった。


「ああ。そうだ。これからショーが始まる。挨拶に出なきゃならん。だから客人は通すな、と外の奴に言っておいたはずだがな」


 代わりにそう問い返す。


「なら、もういない。次はお前だ」


 男の問いにジョエルが答えると、男は立ち上がった。


「どこのチンピラか知らねぇが、耳障りに吼えやがって。身の程を教えてやる」


 男はジョエルに近づく。

 男は大きく、立ち上がるとジョエルを見下ろすほどだった。


 男の拳がジョエルの顔面を殴りつける。

 連続で、何度も顔や胴体を殴った。

 しかし、ジョエルはそれにまったく動じなかった。


 続く連打の中、緩慢にも思える動作で足を軽く上げ、ローキックを放った。


「ぐぎぃっ!」


 男の脛が折れ、痛みから悲鳴が上がる。

 そのまま尻餅を着いた。


 そんな男の髪を掴み、顔を上げさせる。


「や、やめろ! た、助けてくれ!」


 苦痛に歪む男の顔に、ジョエルは顔を近づけた。


「お前が助かる道はもうない。だが、死ぬ前に語ってもらおうか」

「助けろ! でなけりゃ何も――」


 ジョエルは喚く男の頬をつねり、そのまま引きちぎった。

 抓られた部分の肉だけが指の形に削ぎ取られる。


「いぎゃぁっ!」

「答えなければ苦しみが長引くぞ」


 それから男はしばらく渋り続けたが、何度か肉を引きちぎられると折れた。


「答える! 何が聞きたいんだ!」

「クラリスという女の子はどこにいる?」

「女のガキなんざ、ここにいくらでもいる!」


 答える男に、カタリナは口を挟む。


「銀髪の子です! 最近、ここに来たはずです!」


 弱りきっているとはいえ、男に声をかける事は恐ろしかった。

 それでも、カタリナは勇気を振り絞って声を上げた。


「銀髪……?」


 そう呟くと、男はにやっと笑った。


「なるほど……。わかったぜ。ちゃんと生きてるよ」

「本当ですか!?」

「ああ」


 答えを聞いて、カタリナは安心した。


 ジョエルは男の胸倉を掴み、強引に引き起こす。


「案内しろ」


 そして引きずるようにして、部屋を出た。

 男に部屋へと案内される。


「本当なら、子供部屋に放り込んでやる所だがな……。ちょっと、処遇に困ってここに置いといたんだ」


 子供部屋。

 そう聞いて、カタリナは自分が目を覚ました部屋を思い起こした。

 あそこがそうなんだとすれば……。


 あそこにいた子供達は皆、すでに……。

 なら、クラリスも……。


 嫌な予感がした。

 少しでも早く確かめたくて、カタリナは扉を開ける。

 鍵はかかっていなかった。


 室内に明かりは無く、真っ暗だった。

 それでもすぐに、カタリナはクラリスを見つけた。


 入り口から差し込んだ光が、丁度クラリスを照らしたから。

 クラリスは、椅子に座った状態でうな垂れていた。


 一見してそれがクラリスだとは思えなかった。

 しかしそれは彼女が原型を失っているからではなく、彼女の顔と銀髪が見えなかったからだ。

 彼女は俯き、頭には帽子を被っていた。


「クラリス……」


 名を呼ぶ。

 返事はない。


 まさか、死んでいるんじゃないか。

 そう思い、カタリナは彼女に駆け寄った。


 それでも反応が返ってこず、クラリスの肩と頬に手をやった。

 頬にやった手で彼女の顔を上げさせる。


 そうして見たクラリスの顔は、カタリナのよく知るものだった。


 しかし……。

 そこに知性の色は見出せなかった。


 意識がないというわけではない。

 目は開いている。

 呼吸も感じる。


 だが、それだけだ。


 目の前にカタリナがいるのに視線は向けられず、それどころか焦点が合っていない。

 口からは言葉が出ず、代わりによだれが垂れていた。


「クラリス……?」

「彼女は昨日のショーに出たんだよ」


 男が答えた。


「ショー?」

「面白かったぜ」


 その時の事を思い出したのか、男は笑みを浮かべた。


「苦しんでいる様子も、悲鳴を上げる事もなかった。でも、楽しかった。あんなのは初めてだ」

「何を……彼女に何をしたんです?」


 恐る恐る、カタリナは訊ねた。


「ショーマンは召喚者でな。医療系の能力を持ってた。何でも、医療に関する高度な知識と技術を得る事ができる、だったか?」

「召喚者……」

「そいつは、人の体の構造を熟知していた。無論、それは脳も対象内だ」


 言いながら、男は自分の頭を指差した。


「どこが何の機能を持っているのか……。どこを切除すれば何を失うか、何を残せば生きていられるかを完璧に把握していた。奴はそれを大勢の前で実演したのさ」


 カタリナはクラリスへ向く。

 その帽子を外した。


 そこには剃髪された頭がある。

 あの美しかった銀糸の髪がなかった。

 それを円形に横断する傷跡があった。

 カタリナは息を呑む。


「最初はおしゃべりだったその子も、ショーが進行していくと共に口数が少なくなっていった。表情も消えて、最後にはそうなった。言葉の話し方も、表情の作り方も、何もかもそれを記憶していた部分が全部なくなっちまったのさ。もうその子は、何の記憶も持っていない。ただ息をしているだけだ」

「何故、そんな事を!」

「その不幸な子供達の牧場を運営している人間が何を言ってやがる」

「え?」


 牧場?


「事情を知るにはもう十分だ」


 ジョエルは言うと、男の首を捻り折った。

 男は事切れ、屍となる。


「牧場とは、どういう事ですか?」

「悪党の戯言だ。気にする話じゃない」


 ジョエルは答える。

 しかし、本当にそうだろうか?

 カタリナは男の言った言葉の真意に、なんとなく気付いた。


 彼の語った牧場が思う通りのものだとすれば、その運営者というのは恐らく……。


「ここを出よう。シスター」


 促すジョエル。

 しかし、カタリナは彼に背を向けてクラリスへ向いた。


 クラリスは生きていた。

 こんな場所に送られて、それでも命がある事は喜ばしい事なのかもしれない。

 これはクルメルトの加護だろうか?

 残された希望だというのだろうか?


 こんなものが?


 何もかもを失った、ただ息をしているだけの存在。

 果たして今の状態は、生きていると言えるのだろうか?

 記憶が残っていないのなら、それは本当にクラリスと呼べるのだろうか?


 それを人間と言えるのだろうか?

 これは本当に希望なのか?

 こんなものは、何も残っていないのと同じなんじゃないのか?


 カタリナの細い指が、クラリスの首へと伸びる。

 首へ絡みついた指に力が込められていく。


 その様を見て、ジョエルは止めようとしなかった。

 ただ、痛ましさに表情かおを顰めるだけだった。


 彼は、彼女の意図を理解していた。


 こんな状態で生きるくらいなら、もはや殺してやった方がいい。

 そう思ったのだ。

 尊厳死という考えを知るジョエルは、彼女の考えを理解できた。


 首を強く絞められるクラリスの口から、かすかに空気の漏れる音が鳴る。

 それでも表情は変わらない。

 苦しみなど感じていないようだった。

 いや、感じていてもそれに対しての反応を忘れてしまっているのかもしれない。


 この期に及び、クラリスの表情は何の感情も映さなかった。


 もはやこれは、クラリスではない。

 生きていないのも同然だ。

 だと言うのに……。


 表情のないその顔に、ありし日の笑顔が重なった。

 カタリナの指から、力が失われる。


「あぁ……」


 代わりに、嗚咽が口から漏れる。


「どうして……どうして……」


 涙を流しながら何度も呟く。


 さっきから、幾度も涙を流していたのに。

 だというのに、涙が枯れる様子もない。


 殺せなかった。

 この状態のまま生きる事を哀れに思いながらも、終わらせる事ができなかった。

 そうしようとしても、彼女との思い出が次々に蘇り、今まで築き上げていた関係が彼女の手から力を奪った。


 そんな彼女のそばに、ジョエルは跪く。


「当然の事だよ。シスター」


 そう言って、カタリナの肩へ手をやる。


「そんな事はできなくていい。彼女もここから連れて行こう」


 カタリナはジョエルの顔を見上げると、鼻を小さくすすった。

 小さく頷く。


「ただ、その前にやらなくちゃならない事ができた。もう少し、付き合ってほしい」


 そう告げたジョエルの表情は、決意に満ちていた。




 ショーの会場は、それほど広くなかった。

 その狭さの中で少しでもスペースを確保するためか、観客席が舞台へ向けて円形に並べられている。


 席は全て、人で埋まっていた。

 皆、仕立ての良い服を着た紳士淑女達である。

 客の年齢層は若者から老人まで幅広い。


 しかし皆、一様に興奮を内へ孕んでいるようだった。

 楽しげに笑い、表情は期待に満ちている。

 その様子は無邪気にすら見えた。


 その様を、足元に死体の転がる舞台の裾からカタリナとジョエルは見ていた。

 死体はここの職員で、ジョエルが殺した者だ。


 自身は気付いていないが、そういった光景を見てもカタリナは動じなくなっていた。

 それ以上に、今の彼女は別のものへ衝撃を受けていた。


 ショーの観客達が、ショーへ向ける熱情にである。


 これがただのショーならば、その光景に何もおかしな事はない。

 しかし彼らが期待するショーは、人の苦痛を見せるための物だ。

 それをここに集う皆が求めているのだと思うと、それは狂気以外の何物でもなかった。


 それとも、これを異常だと感じる自分こそが異常なのだろうか?

 自分だけが狂っているからこそ、この光景に狂気を覚えるのだろうか?


「私が受けた依頼は、このショーの経営者を殺す事。本来、彼らは標的ではない。だが、根絶するべきだと私は思った」

「何故?」

「一言で言うなら義憤だ。それが唯一、私を動かす行動理念だから。この場を求める人間がいる限り、経営者を消した所で再びこのショーは誰かが後を継いで運営するだろう。ならば、求める人間を全て消す」


 答えるジョエルの声には、強い怒気が含まれていた。


「客には知った顔が多い。この国の政治、その中枢に関わる人間ばかりだ」

「そんな人間がこの場所に? 残酷なショーを見たがっているのですか?」

「彼らがどんな気持ちなのか、それを察する事はできない。だが、事実だ。この場にいる者を皆殺せば、この国の政治は大きな打撃を受ける事だろう。その影響は、大衆にも及ぶかもしれない。だがそれでも、私はこいつらを殺したい」


 その言葉に対しカタリナは、理解を示す自分の存在に気付いた。

 人の命の重み以上に、自分の感情を尊重している自分がいる。


 子供達もクラリスも、皆ここに集う人間の餌食になった。

 それに対する怒りは彼女の道徳心を凌駕した。


 だからこそ、ジョエルの言葉を否定しない。

 止める事はない。


 むしろそれを望んですらいた。


「軽蔑するか? 個人の感情のために多数を犠牲にしようとする私を」

「いえ、それが軽蔑されるべき事であるなら、私もまた軽蔑されるべき人間でしょう」


 その言葉で、カタリナが自分に理解を示してくれている事をジョエルは悟った。


 ジョエルは舞台袖から、舞台へと歩み出た。


 観衆の眼差しが、ジョエルへと注がれる。

 これから何があるのだろう?

 この男がいったい、これから何をするのだろう?

 そんな期待に満ちた眼差しだ。


 ジョエルは一度深く呼吸すると、動いた。


 観客席の中央。

 一人の客の胸に、ジョエルの拳が突き刺さっていた。


「は?」


 期待と困惑がない交ぜになった奇妙な表情を浮かべ、胸を貫かれた男性客は事切れた。

 そのままジョエルは腕を振るう。

 男性客の体が宙を舞い、血液を撒き散らしながら、舞台上へ弧を描き落ちた。


 男性客の死体が、観衆の目の当たりとなる。


 いち早くその事態を認識した客の口から悲鳴が上がった。

 悲鳴は連鎖し、大きな物へなっていく。


 客達は席を立ち、出入り口へ向かう。


 しかしジョエルがそちらを睨むと、目から光線が迸る。

 赤いその光線を受けた者は、体が両断された。

 そのまま光線は入り口の上方を穿ち、崩落する。

 崩落の瓦礫に、数人の客が押しつぶされて臓腑と鮮血を散らす。


 それだけでなく、光線はそのまま次々と人の体を切り刻んでいった。

 一人として、部屋から逃げ出せる者はいなかった。

 着実に、次々と死体が出来上がっていく。


 逃げ場を失った客達は、改めてジョエルを直視した。

 直視せざるを得なかった。


 そしてそんな客達をジョエルは、一方的に虐殺する。


 無造作に、容易く、淡々と、ジョエルは客を殺していった。

 歯向かう者もあった。

 しかし、ジョエルはそれを受けても物ともせず、反撃して殺した。

 常人に抗えぬその力は、さながら天災……。


 いや、神々しいと形容できるほどかもしれない。


 もはや誰にも抗う事など出来ない。

 ただ、死を待つ事しかできない。

 それでも生に執着し、足掻く者達をジョエルは……殺していった。

 命乞いも聞こえぬように、足元に這い出る男の頭を踏み潰した。

 攻撃を仕掛けてくる男の顔を掴み、地面へ叩きつける。

 逃げようとする男の両腕を掴み、力任せに引き千切った。


 舞台が血に濡れていく。

 子供達が流していた血を塗りつぶすように、客達の血が流されていく。


 そして血に塗れる舞台で、生きている人間はジョエルとカタリナだけになった。




 クラヴィス神父が再び教会へ訪れたのは、カタリナがさらわれた翌日の事である。

 衛兵に連絡すると言い、教会を出た彼はそれから今まで一度も戻ってこなかった。


 彼は教会へ入ると、自室へと向かった。

 部屋の異変は、足を踏み入れるとすぐにわかった。


 彼女、カタリナがいたから。

 カタリナは、テーブルを前に席へ着いていた。


「カタリナ」


 そう呼ぶ声には、隠しきれない驚きがあった。


「無事だったのか……」


 クラヴィスは笑顔を作って言う。

 対して、カタリナは表情を消したままだった。


 そしてそこでクラヴィスは気付いた。

 彼女の前。

 テーブルの上に、見覚えのある袋が置かれている事に……。


「それは……」


 その袋がそこにある事に驚くと、そんな彼の前でカタリナは袋へ手をやった。


「たいした額ですね」


 カタリナは口を開く。


「これだけあれば、子供達にももっと良い暮らしがさせられたのに……」


 袋の中には、金貨がみっしりと詰まっていた。


 中は全て金貨であり……。

 一袋だけでも、今の孤児院の生活水準ならば十年は運営していけるほどの額があった。


 その袋を見て、クラヴィスは部屋のタンスへ目をやった。

 その金貨は、タンス奥の隠し金庫に隠していたものだった。


 開け放たれたタンスの奥には、強引にこじ開けられた金庫の扉が見えた。


 金庫には、さらに三つの袋があった。

 どれもいっぱいに金貨が詰められている。


「……とにかく、よかったよ。君が無事で……」


 クラヴィスは笑顔のまま、カタリナに声をかける。


「私の事を連中に処分させようとしたのは、あなたなのに?」


 カタリナの言葉に、クラヴィスの表情が引きつる。


「何の話だ……。僕は……」

「売っていたんでしょう? 子供達を……」


 ショーの経営者は、孤児院を牧場だと言った。

 その意味する所を考えれば、答えは簡単だった。

 御者の男が言っていた事も、あれは真実だったのだ。


 この孤児院の子供達は、里親など探していなかった。

 子供達は里親ではなく、あのショーの出演者として売られていた。


 その証拠が、この金貨だ。

 この男はこれを孤児院のために使うでもなく、私財を潤すためだけに隠し持っていた。

 それが何よりの証明だ。


 この男は私利私欲のため、里親に子供を引き渡すという名目で人身売買を行っていた。

 この孤児院は、身寄りのない子供を育てて出荷するためのまさしく牧場だったのだ。


「誤解があるようだよ。カタリナ」


 クラヴィスは言いながら、護身用に提げていた短剣へ目をやり、柄を握った。


 カタリナは良い目くらましになり、何より商品《子供達》の品質管理に長けていた。

 とても便利な人間であったが、騒ぎたてられても面倒だ。

 そこまで知られたのなら、ここで死んでもらおう。


 そう思い、短剣へやった視線を再びカタリナへ戻す。


 と、彼女の姿が目前に迫っていた。

 体ごとぶつかられ、衝撃が走る。

 次いで、鋭い痛みが腹に走った。


 カタリナの手には短剣が握られていた。

 柄を両手で握り締め、全体重を乗せてその刃をクラヴィスの体へと突き入れていた。

 クラヴィスの手から、抜き放ったばかりの短剣が落ちる。


 そのまま、クラヴィスの体は力を失って背後の壁へ寄りかかる。

 カタリナもそれを追うように、刃を押し込む。


「てめぇ……この……」


 内臓を傷つけられたのか、喀血しながらクラヴィスは悪態を吐く。

 そんな彼の顔を見上げ、カタリナは口を開く。


「不思議ですね……。人の命は尊い物だと思っていたのに、あなたを刺す事に何もためらいを感じられなかった。……私は、おかしくなってしまったんでしょうかね?」


 クラヴィスの足が力なく折れ、背を壁につけたままずるずると体を落とす。

 その間もカタリナは、短剣へ込める力を緩めなかった。


「く……そ……」


 完全に座り込んだクラヴィスの口から、力なくそんな言葉が漏れた。

 顔を俯け、その目から光が消える。


 カタリナが立ち上がったのは、それから十分ほど経ってからだった。

 それまでカタリナは、血に濡れた短剣を放す事ができなかった。


 ようやく手を放すと、彼女の手は生乾きの血液で汚れていた。


 彼を殺しても、何の罪悪感も覚えなかった。

 後悔を感じなかった。

 いや、厳密には後悔がある。

 何故、もっと早くこうしなかったのか。

 もっと早くこうしていれば、子供達は……。


 後悔が彼女の嗚咽を呼ぶ。


 多くの子供達が、地獄へと落とされた。

 それはきっと、あの施設にいた子供達だけじゃないだろう。

 それ以前に送られた子供達はすでに、生きてはいない。


 けれど、それを成したのは神でも邪神でもない。

 そんなものはいなかった。

 神様は何もしてくれなかった。


 それを成したのは一人の人間だ。

 そこには善も悪もなく……。


 ただただ、損得勘定があっただけ……。


 それだけだった。

 それだけのために、子供達は……!


 それからカタリナは、涙を流し続けた。


 どれだけ時間が経っただろう?


「シスター」


 声をかけられる。

 見ると、ジョエルが立っていた。

 彼が部屋に入ってきた事に、カタリナは気付かなかった。


「ジョエル様……。ありがとうございます。あなたのおかげで、少しは報われた……」


 果たしてそうなのだろうか?

 口にしつつ、カタリナは疑問に思う。


 本当はこんな報復などより、平穏な暮らしこそ子供達は望んでいたはずだ。

 この報復で、彼らの苦痛が取り除かれる事はないのだから。


「礼を言わないでくれ、シスター」


 ジョエルは顔を顰めて答えた。

 その表情は次第に、歪んでいく。


「私は、あなたの心を守りたかった」


 表情を悔恨に染め、ジョエルは言葉を搾り出した。




 ジェクトにあるクルメルトの教会。

 そこに不動は訪れた。


 そんな彼を一人の青年が出迎える。


「参拝の方でしょうか?」

「……いや、シスター・カタリナに用事がある」

「お名前は?」

「不動だ」

「聞き及んでおります。案内致します」


 青年は頷き、不動を案内する。

 彼は教会の中へ入らず、建物の外を周るようにしてどこかへ向かう。


 前を歩くその青年を不動は観察する。


 彼の動作にはどこか不自然さがあった。

 よく見ると、袖から覗く彼の片手は金属でできていた。

 恐らく、義手だろう。

 動作を見るに、義手だけではないかもしれない。


 一人のシスターとすれ違う。

 笑顔で会釈した彼女の顔半分は、仮面で隠されていた。


 そうして、不動が案内された先にカタリナはいた。

 彼女の前には、車椅子に座る女性の姿がある。

 カタリナの手には、その取っ手が握られていた。


 綺麗な銀髪が印象的な女性だった。

 よく手入れをされているのか、一層にその艶やかな髪は美しく映える。


「失礼します」


 そう言って、案内してくれた青年はどこかへ行った。


「ちょーちょ、ちょーちょ」


 車椅子に座った女性は、目の前を飛ぶ蝶へ手を伸ばそうとしている。

 しかし、あまり上手く体を動かせないようだった。


 それが気に入らないようだ。

 何やら呻き始めた。


「まま……」


 カタリナの事をそう呼ぶ。

 呼ばれたカタリナは、車椅子のブレーキをかけて彼女の前に回った。


「はい。一緒に居ますよ」

「まま!」


 カタリナが女性を抱きしめると、女性は嬉しそうに声を上げた。


 ふと、カタリナは不動の存在に気付く。


「仕事の報告に来た」

「そうですか。少し、待ってもらっていいですか?」

「ああ」


 不動が答えると、カタリナは女性を慰めるように背中を優しくさすった。


「人の脳は、代替機能があるそうですね」


 不意に、カタリナは言う。


「たとえ、どこかが欠損しても欠損した機能を補うように、他の部分がその機能を担うようになる」

「らしいな」

「この子は最初、何も言葉を話せなくなっていたんです。話せないどころか、何もできなかった。それが今はよく動くし、喋りもする。大変ですよ」


 そう言いつつ、カタリナは嬉しそうだ。

 その表情が曇る。


「でも、完全に元通りとなれるかはわからない。もう元に戻らないのだとしたら、彼女にとってこの状態は幸運なのかどうか……」

「……抱きしめていてはわからないだろう。彼女はとても嬉しそうに笑っている」


 不動が言う通り、女性の表情は柔らかな笑顔だった。


「そうですか」


 カタリナの表情が和らぐ。


「これは、希望なのかしら?」


 小さく呟く。


「フドウさん。もし、医療系の能力を持つ召喚者を見つけたら、殺さずに私へ知らせてくれませんか? それは私の標的まとかもしれませんから」


 カタリナはそう提案する。


 カタリナは子供の事を一番に考えていると、不動は思っていた。

 殺しに対して積極的な意欲があるようには思えなかった。

 しかし、そんな彼女にも執着すべき標的がいるようだ。


 ふと、山城やまぎの事を思い浮かべたが、彼は医者の知識を持っていても能力は鑑定系だ。


「構わない」


 不動が答えると、カタリナはニコリと笑った。

 カタリナは立ち上がる。

 カタリナが離れていく事に不満そうな女性の頭を優しく撫でてなだめると、不動へ向き直った。


「では、お仕事の話をしましょうか」

 直接的なダメージを追うものであるなら、能力でも魔法でもジョエルは滅法強いのですが。

 感覚を惑わせる類のものに対してはポンコツです。


 手がかりを求めたジョエルは探りを入れるために教会へ訪れました。

 その際に一度カタリナも疑っていましたが、直接会ってその考えを改めました。

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