anemone's gift
「私は風の娘なのよ」
そう娘は言った。
「私からの祝福をあげるわ」
娘は微笑むと私に向かって手をかざした。
突風が私の周りを吹きぬける。
驚いて両腕で顔を覆った。
一体、何の祝福だというのか?
迷惑以外の何者でもない。
私は文句をいってやろうと顔を上げた。
しかしそこに広がっている風景に、私は唖然とする。
私は知らない場所に立っていた。
今までいた街の中ではない。
ここは森の中?
周りには木々と花々が咲き乱れている。
そして足元に咲く花は…
幻と言われている花であった。
植物学者の私は興奮した。
見ることも触れることも出来ないだろうと思っていた花。
それが今、目の前にある。
触れられる!
私はしゃがみこむと、そっとその花に触れた。
軟らかい感触。甘い香り。
なんて素晴らしいんだ!
私は夢中で花を観察した。
「どう?満足した?」
声をかけられてハッとする。
目の前に風の娘が立っている。
そして私も街に立っている。
「あの花は?」
あれはやはり夢だったのか?
「あれは過去の遠い風の記憶。貴方が求めていたものでしょう?」
ああ、過去の幻なのか。
それでも、一瞬でも、触れることが出来たのだから。
感謝をしなければ。
「ありがとう」
私がお礼を言うと、風の娘は嬉しそうに微笑んだ。