12 金髪とお昼
「・・・それ、美味いか?」
加賀が俺の昼飯を見て、怪訝な表情をしている。
何とも失礼なやつであった。無礼極まりないやつであった。
「その質問には答えかねる。何故なら味覚というものは人それぞれ多少とはいえ差異があり、必ずしも同一のーー」
「わかったわかった。で、お前はどう思うんだよ」
「マズいぞ」
簡潔に答え、俺はパクチー入りブラッドソーセージの燻製を頬張った。まっずッ!
「で、俺に何か用かよ。お前がいるから久遠寺くんたち来なかったじゃないか」
本来ならばいつも久遠寺くん、中田くん、後藤くんと四人で食べていたのに。
今日はこいつが昼になると早々に俺を誘いに来やがった。
久遠寺くんは加賀がいても気にしないだろうが、他の二人は気になったようだ。なので彼らは今日は俺抜きでお昼を食べている。
周りを見渡すと結構離れた場所でお昼を食べている三人の姿が確認できた。・・・あっちは楽しそうだなぁ。
「用っていうか、お前は俺に聞きたいこととかねえの?」
そう言われて少し考えてみる。
・・・・。
「いや、無いけど」
俺の言葉を聞いて、加賀は大きくため息を吐いた。
礼を失しているやつ、つまりは失礼なやつである。
「お前は昨日俺にボコにされてんだぜ? まさかさっき軽く謝っただけで納得したわけじゃねえだろう」
「・・・いや、人違いだったんだろ? 腕の痛みも引いたし、もう良いけど」
恨み言は繰り返さない。それがこの俺、相神零士くんの良いところさ。いつまでも細かいかと言ってると人生損するぜ。
「わかった、今のは無しだ。・・・お前、俺の能力のこと気にならねぇのか? なるよな?」
あー、そう言えばそんな感じのこと言ってたな。そういう話か。
「あったあった。屋上のフェンス軽く跳び越えたり、ゴリラ並みのパワーだったりしたよなぁ。あれ何なん?」
「だよなぁ! 気になるよなっ! 良いだろう、そこまで言うのなら教えてやるよ」
要するに話したかったのだろう。こいつ友達居なさそうだもんな。
「ーーそうあれはいつだったか。小学生五年の秋、十月の十一日のことだった」
えらく細かく覚えていますね。よっぽどその能力とやらが嬉しかったんだろうな。
水を差すのも可愛そうだし、大人しく聞いていよう。
「俺はその日、近所の公園でダチとサッカーをやっていたんだ。・・・そのうちの誰かがよ、道路の方に思いっきりボールを蹴っちまいやがってよ。俺はそれを追いかけたんだ」
大人しく聞いてようとか思ったけど、この話長くなるのかな。早く能力のことだけ教えてくれないかな。
「ボールを追いかけてたら、道路の真ん中に猫がいてよ。動かずに居るわけよ。そしたら案の定その猫に向かってダンプが迫ってきてたんだよ」
「おおっ。それをお前の凄い身体能力で助けたわけだな」
良い奴じゃないか。身を挺して猫を助けるなんて、ありがちな話だけど、中々できることじゃない。
「いや、その猫を見てたら俺が別のダンプに撥ねられたんだ。公園の茂みまで吹き飛ばされたぜ。気づいたら皆帰った後だった。」
まさかの轢き逃げッ!? 通報したほうが良いよ。そりゃそんな衝撃の事件が起きたら日時くらい正確に覚えてますよね。
「っで、その日家に帰ったら流石にダンプに撥ねられて無傷はおかしいなって思ってーー。それが最初だな」
「・・・そ、そうか。で、具体的にはどんなことが出来るんだ?」
意外にも可哀想な話だったので、話題転換を試みる。
「まずは力がメチャクチャ強くなる。本気なら昨日よりもっとパワーがでるぜ」
・・・だろうな。なんだかんだで手加減してる感じがしたしな。
「あと体が頑丈になるな・・・。前に喧嘩でナイフで刺されたことあったけど、殆ど刺さらなかった」
こいつはもう人間じゃないな。事故で死ぬことはきっとないだろう。
「で、お前はどんな能力なんだ?」
急に矛先を向けられて、一瞬何を言われてるのかわからなくなった。・・・っていうかーー。
「能力って何? 俺のはただの特技とかそんな感じのだと思うんだけど」
他人から見れば俺の力は未来予知とかに見えるだろうが、実際使える俺からすればあんなのは超能力とか神通力とかそういう超常的なものではない。
加賀の場合は明らかに人間を超えてる感じがするからそうなんだろうけど。
「能力は能力だろ。お前にも人とは違った特別な力があんだろ? ほら昨日だって屋上で使ってたんじゃねぇのかよ」
「確かに使ってたけど、俺のはなんて言うか予知とか予測とかそんな感じのやつだよ。でも能力とかそういう大仰なもんじゃないぞ」
「へぇ、予知ッ! 良いね、いかにも能力って感じの能力じゃねぇか」
だから違うって言うとるやろがい。高校生にもなってそんな子供みたいに目を輝かせるんじゃない。
「さっきも言ったけど、そんな大したもんじゃないよ。見えるのは大体一分先まで。使うとメチャクチャ疲れるし、ハズレることだってある」
「ん? 予知なのにハズレるのか」
「そうだよ。囲碁とか将棋ってあるだろ? あれって何手も先まで予測して打つじゃないか、俺の特技ってそれの延長みたいなものだよ、きっと」
だから当然俺の予測を上回ることが起きればハズレることだってある。複雑な状況で疲労感が増すのも脳に負担が掛かるからだ。少なくとも俺は自分の未来予測をそう解釈している。
「ふーん。見えるってのは直感でわかるって感じなのか?」
「いや、映像でちゃんと見えるぞ。時間をかければ精度も上がっていくし」
だから時間があればこいつに敗けることもなかっただろう。今度やったら俺が勝つ・・・多分。
「なるほどな。ま、そこそこ便利なんじゃねぇの? でも、俺のストーカー探しには役に立ちそうにねえなぁ」
おい待て。俺は手伝うつもりなんて微塵もないぞ。俺のことで手一杯だ。
しかし、同じストーカー被害に遭う身としては、同情を禁じ得ない。
友人ではないが、クラスメイトの一人としてこいつにエールを送ってやろう。
「ーーというわけで、このブラッドソーセージをやろう」
「いらん」
エールは届かなかった。無礼極まりないやつである。
やはり放課後の屋上は寒い。
俺は久遠寺くんの提案通り、屋上でラブレターの差出人を待つことにする。
・・・待つことにしたんだがーー。
「なんでお前もいるんだ?」
お前とはもちろん加賀のことである。
「水臭いこと言うなよ、俺も付き合うぜ」
答えになってないし、水臭いも何もこいつとは友達ですらない。
「で、お前の方のストーカーとやらはどうなの? まだ付けられてたりすんの?」
「ああ、今朝も昨日の帰りもずっとな」
加賀はそう言うと神妙な顔をした。
今朝もって・・・。俺も一緒にいたけど、何も感じなかったな。
こいつは身体能力だけじゃなくて感覚までも人間離れしてるのか。
「で、いつくんだよ。そのラブレターの差出人は」
知るかよ。大体お前がここにいたら来てたとしても出てこれないだろ。
すると俺のスマホにメールが届いた。
『こっちは誰も通らないよ』
久遠寺くんからだった。
久遠寺くんにはここへと上がる階段を廊下から見張ってもらっている。
このラブレターが本物にしろいたずらにしろ、誰かしら近くで確認に来るだろうと考えたからだ。
つまりは囮捜査だ。
『こっちも誰も来てないよ』
久遠寺くんにメールを返す。
それにしても寒い。今日も風が強いし、屋上だしな。
「そういやお前って、他に能力者の仲間とかいねぇの?」
「いないよ。というか能力じゃないし」
「そうか。てっきり他にも何人も仲間がいるのかと思ったぜ」
「加賀は? 能力者とか言うくらいだし、お前だけじゃないんだろ?」
まさか自称じゃないだろうな。さすがに恥ずかしいぞ。
「まぁな、割といるぜ。少ないけどな。・・・でも、仲間じゃねぇ」
意味深なことを言うと加賀はそのまま黙ってしまった。
俺はきっと話したくないんだろうと思い深くは聞かなかった。
聞かなくてもわかるし。どうせ嫌われてハブられたんだろう。
こうして、結局今日の放課後は何一つ収穫無く終わった。




