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作者「十部で終わらせるけどオケ?」友人「ダメ」

 つまりは、だ。我が城を含む古代遺跡から発掘される数々の先人の知恵が、新たな世界の発展を妨げている。

 ろくな下積みもせずに上澄みだけを掬った形である為に、下積みが重要となる高等魔術が廃れ、そのまま忘れ去られた訳だ。

 【不動】や【浮游】だけでなく、その他数々の高等魔術が闇に葬られている。


 新世界を生きる者共は、安全放置の付いた危険物を、良く理解しないままに振り回しているようだ。


 はっはっはっ! 全く持って笑えぬ話だ。あぁ、ちっとも笑えぬとも。我が尊敬した人類が、こうも愚かを曝していると、悲しくて悲しくて頭に来る。


 我を滅すべく送り込まれた者達を知っているだけに、我が激情は止まるところを知らない。


「魔王様ー。どー、どー」


 ふしゅるるるる。この場に居る人間を一人残らず抹殺したい。


「するー? するよー」


「お願いだから止めて!」


 悲鳴を上げるようにして止めに来るのはトレジャーハンターの片割れである。年若く見えるが既に成人しているらしい。今の世の中は成人とする年齢が酷く下がっていた。旧世界の価値観からすれば、まだまだ子供である。


 そんな我等は、トレジャーギルドなる組合組織に来ている。なんでも、我の存在を報告したらしい。仕事熱心なものだ。思わず感心してしまうぞ。


「あのさ、私が言うのもなんだけど、本当に報告して良かったの?」


 酷く言いづらそうに、年若い元気娘が訊ねてくる。


 鼻で笑ってやった。


「ムカつく! 何それ! 一応心配してあげてるんだよ! きみが本当に古代の魔王本人としても、見た目相応に弱体化してるんだよ!?」


 はっ! それは余計なお世話と言うものだ。我は王ぞ? 著しく弱体化したからと、何をこそこそする必要がある。王が王らしく堂々として何が悪い!


「こいつっ! 人の親切を……!」


 要らんわ。


「見た目は可愛いんだから子供らしく愛想良くしなよ!」


 王が愛想を振り撒くのは民草のみだ。我の愛想は全てナージャに振り撒かれる。貴様等の分など持ち合わせておらん!


「えへへー。魔王様ー、笑ってー」


 はっはっはっ!


「もうやだこの二人……」


 そうしてナージャと戯れていると、待合室の扉が開かれた。入って来たのは元気娘の片割れと、高価らしい布を多く使った衣服を纏う偉丈夫。


 その男が、唐突に片膝を付いた。


「御初に御目に掛かります。魔王陛下」


 貴人の姿に、二人の娘は驚きを露にするが、我の心はどうしようもなく冷めてしまった。同胞でもなければ民草でもない男に礼を尽くされる。正しく滑稽であろう。


 良い。我は貴様の王でなければ要人でもないのだ。


「えぇ、その通りでございます。ですが、私は多くの古文書の解読に努めて参りました。古代の人間、そして貴方様の種族問わずに」


 そうか。


「まことに勝手ながら、貴方様は尊敬に値すると私は判断したのです。どうか、私めの勝手を御許し下さい」


 それで気が済むのなら勝手にするが良い。貴様の下らんご挨拶に、寝起きの我を連れて来た訳ではなかろう。


「はい。我々の会議の結果、魔王陛下を魔術学園に幽閉する事が決まりました。学園で教鞭を振る教職員は誰もがエリート。そこなら弱体化している魔王陛下が何を画策しようと、どうとでも出来ると判断したようです」


 そうか。何処ぞの僻地へと送られると思っていたが、学園なる施設があるのか。


「世界中の才ある者達が集まる最高峰の学舎でございます」


 最高峰……。期待出来そうにないな。


 元気娘から軽く聞いた限りだが、高等魔術が廃れている時点で程度が知れている。才ある者というからには、中等魔術ぐらいは使えて欲しいが、どうしても期待が薄くなってしまう。


 幾ら我の魔力が雀の涙程しか無くとも、現代を征服する事は容易である。征服したとしても意味などない上に、その後の後始末が厄介ときた。掌握するだけ損である。


 それに、攻め入る理由は既に失われている。必要があったとしても、やはり今の世を征服しても旨味がない。そもそもやる気が出ない。


 その国の技術が欲しいから攻める。食糧が無いから攻める。国土が欲しいから攻める。宗教上の理由で攻める。


 国も民草も失った我に、唯一残っているのは家来が一人。わざわざ国を相手取る必要はない。


「ところで」


 と、元気娘が口を開いた。


「魔王とナージャの角は隠さなくて良いの?」


「せめてですますを付けなさい」


「隠さなくて良いのですか?」


「……」


 元気娘に問われて、貴人はとても言いづらそうに顔をしかめた。出来れば言いたくないが、言わなければ成らない事だと一目で分かる顔である。


 誤魔化す事は許さん。述べよ。


「……はい。大変申し訳無いのですが、魔王陛下の様に、角の有る人間は世間一般より人間の成り損い。『劣等種』と呼ばれ、蔑まれているのです」


 ほう?


「正式には『有角種』。人里離れた森や山岳に隠れ住んでるんだけど、度々襲撃されて奴隷にされてる、ます」


「所謂、人種差別、というものですね」


 ほほう?


 く、くくく、ふぁああああはははははははははは!! そうかそうかそういう事か! ようやく合点が行ったぞ! かぁーーーーっははははははは!!!


 しいんと静まり返った待合室に、子供の無邪気な笑い声が響いている。それは心の底から楽し気で、自分のものだと一瞬気が付かなかった。それ程に我は歓喜に打ち震えている。この一瞬の為に長い時間を耐え抜いてきたのだと思えて仕方がない。


 喜べナージャ! 無駄ではなかった! 無為ではなかった!! 我等は世界に受け入れられた! 我等の種は世界に組み込まれた!! 我等の悲願は成就されたっ!!! これ程喜ばしい事はない!

 嗚呼! 神よ! 天におわす我等の神よ! ありがとう!! 心の底からありがとう!!! 数々の犠牲に、ありがとう!!!


「良かったねー、魔王様。良かったよー」


 涙ぐむナージャの手を取って、喜びを表すようにくるくると回って見せる。体が子供サイズだからこそ出来る芸当だった。待合室はそれ程広くはない。そんな簡単な事にも気付かない程有頂天で我等ははしゃいだ。


 どうしようもない高揚感が落ち着いたのは一時間後だった。疲れた。ぶっ通しではしゃぎ回ったから体力を使い果たした。ふぅ。


「魔王陛下、それで、その、有角種が差別されている件の方は……」


 どうでも良い。


「どうでも、とは?」


 我等の時代の書物を読み、貴様が何処まで我等の目的を理解しているかは知らないが、既に望みは叶ったのだ。ならば、我がこれ以上何かをするつもりはない。全ては当人達、そして現代人の問題である。我は飽く迄も、偶々生きている過去の王に過ぎぬ。

 納得したか?


「……はい」


 口を酸っぱくしてもう一度言おう。

 我は貴様の王でなければ要人でもない。

 分かったな?


「……はい。大変良く、分かりました」


 ならば良い。


 こうして、我とナージャの学園行きが決まった。

 我等の種が世界に組み込まれている事実を知った今、世界が一度終わりを迎えていてもどうでも良い事だった。

 滅びが必然であるのなら、元々の世界を捨てた我等は『難民』ではなくただの『逃亡者』だとしても、気にもならなかった。

 歴史や文化が途絶えた理由を理解した今、我が現代で積極的に動く事はない。


 あながち、我の新世界呼びも的外れではなかったようだ。

 友人が本気で分かってない様子だったのでネタばらし。貴人は隠れ有角種です。脇道用の人物なので、再登場するかは謎である。

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