付き合ってる?
翌日も、俺と瞳は朝から図書館で待ち合わせをしていた。
春休み期間中とはいえ、毎日二人揃ってやってくるので、三十歳ぐらいの女性の職員さんともすっかり顔なじみになってしまった。
たぶん、本当に仲の良いカップルと思われているだろう。
しかしこの日は、ちょっといつもと様子が違うと感じたかもしれない。
俺は前日のダイレクトメッセージの件が引っかかっていたし、瞳もなんだか元気がなさげだった。
いつもの対面の席について、俺が
「表情が暗いけど、なにかあったのか?」
と尋ねると、
「……うん、ちょっと……和也君こそ、何か悩んでない?」
と、逆に心配されてしまった。
「ああ……いや、悩んでいるっていう程じゃないけど、昨日、気になるダイレクトメッセージを受け取ったんだ。瞳、『ヒカル』っていうユーザー、知ってるか?」
「ヒカル? うん、知ってる。私が小説を投稿し始めた当初から、感想とか書いてくれる人だよ。それも感想欄にじゃなくて、いっつもメッセージで送ってくれて、私も返信して、もう親友みたいになってるんだけど……和也君にもメッセージが送信されたの?」
「ああ……」
俺はそう言って、印刷したその内容を見せた。
「……へえ、ヒカル、相互リンクだけで和也君が共同執筆者だって気付いたんだ。さすが。……うん、和也君の凄さも分かってくれてる見たいね……最後の、HTMとKZYって、何? 何かの暗号?」
瞳はこの意味にすぐには気付かなかったようだ。
「分からないか? 『瞳』と、『和也』っていう意味に取れないか?」
「……なるほど、そう読めなくもないね……え、ちょっと待って。どうしてヒカルが、私と和也君の名前、知ってるの?」
「……やっぱり、君が教えた訳じゃなかったか。本名、公開してないよな?」
「うん、私が前に公開してたのは、住んでいる地域と歳と、あと、性別だけ。変なメールが来たことがあったから、それもやめたけど」
うん、公開しすぎだ。同じ地域の女子高生で、ラノベが趣味とくれば、それをネタにして「会いたい」と切り出して、言葉巧みに二人きりで出会おうとする輩が現れるかもしれない。
……まあ、今実際にラノベという題材で毎日会っている俺が言えたものではないが。
「……ということは、ひょっとしてこのヒカルっていう人は、元々瞳の知り合いなんじゃないか? 君は、自分がラノベを書いているって言うこと、誰かに言ったりしたか?」
「うん。少なくとも、同級生はみんな知っていると思うよ。和也君はクラスメイトに話してないの?」
……ちょっと頭痛くなってきた。
確かに瞳の小説は普通のファンタジーものだから、趣味で書いているって言って、見られたとしても、そんなに恥ずかしいものじゃない。しかし……。
「……俺の場合、ちょっと広めたくない内容だったから」
「……そういえば、そんなこと言ってたね。女の子いっぱい出てくる、ハーレムっぽい内容だし……でも、私はラブコメ系でいいお話だと思ったけど……」
瞳が相互リンクしたことで、『ヒカル』のようにカンのいい人なら、共同執筆者は『コッティ』だと気付かれてしまうだろう。
そして、そのコッティの正体は、下手をすれば毎日図書館で打ち合わせしている俺だと言うこともばれてしまう……今のところ、俺たちが毎日会っていることは誰にも気付かれていないはずだが。
「……うーん、だとしたら誰かな? 私は、ヒカルって、敬語使ってくるし、年下の男の子だと思ってたけど……」
「あ、そうか、女子高だから同級生はみんな女か……いや、その弟ってこともあり得るんじゃないか?」
「そうね……でも、だったらどうして、和也くんにだけ、HTMとかKZYとか、暗号みたいな名前送ったのかしら?」
そう言われると、変な気がする。
正体が分かっているならば、普通に瞳とか、和也とか、名前を書いてきても良かったような気がするが……。
「……あ、わかった! 名前の読み方は分かっているけど、漢字が分からなかったんだ!」
「……なるほど……でも、それだったら普通はカタカナにするんじゃないか?」
「そうかしら? ローマ字っぽい方が、可愛くない?」
……うん、いかにもちょっと天然の瞳っぽい発想だ。
「どうかな……女の子だったらともかく……いや、待てよ。女の子って可能性もあるんじゃないか? ヒカルっていう名前は、男でも女でも使える」
「……そうね。うーん……正体は分からないけど、別に変な事書かれてるわけじゃないから、気にしなくてもいいんじゃない? ……それよりも、私は、和也君が、どういう関係って返したのかが気になるんだけど……」
瞳は、ちょっと困り顔になっている。
「まだ返事していない。一応、君にも見せておこうと思って」
「そっか……ありがと、気を使ってくれたのね……それで、和也君はどう返事をしようと思っていたの?」
真剣な表情で、俺の顔をのぞき込む瞳。
至近距離に存在する綺麗な小顔に、心臓が早鐘を打つのが分かる。
「その……えっと……友達だって送ろうとは思ってるけど……単なる、じゃなくて、その……付き合っているっていうか……」
……言ってしまった。
自分自身、ものすごく顔が熱くなっているのが分かる。
すると、彼女も一瞬、大きく目を見開いて、赤くなった。
しかし、すぐまた困ったような顔になって、下を向いた。
「……嬉しいけど、それはちょっと、まずい、かな……」
……えっ!?
サッと血の気が引くのが分かった――。




