89話強欲に知識というオモチャを与えしワタル
「魔法には興味ありませんが、ワタル殿の魔法は実に興味深い」
ワタルの手をニギニギと握りズイズイと近寄って来る。何て言うかウザく感じる。自分の興味がある事にはとことん追及するが、興味が無いとまったく何もしない。
典型的な自己チューだ。自分が中心だと疑いもしないから余計に質が悪い。
「魔王様から聞いた話ですと娯楽魔法を使えるようですね。その中に通販とやらに興味を持ちまして、是非とも使って頂きたい」
確かにこの世界ミレイヌでは絶対に手に入らない物ばかり買えるから興味を持ったのだろう。知識欲の塊みたいなマモンならノドから手が出る程欲しい能力のはずだ。
一応周りには内緒にしてきた魔法だがフランの仲間なら大丈夫だろうとワタルは通販のウィンドウ画面を見せてやった。
「こ、ここここここれが噂に聞いた通販なのですね。成る程、確かに見たことの無い物ばかりですわね。試しに買っても良いわよね。ダメって言っても買うから。ていうか、買わせろ」
キラリーンと子供のような煌めいた瞳で駄々を言うマモン。あぁ~、俺が日本にいた頃、オモチャを買って欲しいとそのオモチャの前で床に寝そべり手足をジタバタとその場から動かない子供がいたな。
その子供と一緒で何かしら買わない限り画面の前からけして動こうとしないだろう。良くいるよね、体ばかり大きくなって中身は子供ってヤツ。
マモンって恐らく興味を持つ事に対しては頭廻るのに中身が子供化するとワタルは感じている。
「はぁ、分かりました。何でも買っても良いですよ」
ため息をつきながらも何か買わせないと、ここから一生出られないと思う。というか、俺の事を追い掛けつきまとうと予想が出来てしまう。
フランの次に魔王に近いとされる幹部にストーカー紛いの事されたら安心して眠れやしない。
「ヤホォーイ、えぇとどれにしようかな。神様の言う通り━━━」
神様ってお前は魔族じゃないのか。ていうか、良くそんな選び方知ってんな。多分、白猫が教えたんだろうな。
「ワタル殿、決めました。これにします」
マモンが指した物は"ノートパソコン"であった。今現在ワタルの財力では余裕だけれど、結構高い買い物であり、そんなにホイホイと買い与える物ではない。
だけど、マモンのキラキラした瞳に俺は陥落して画面をタッチしお金を支払った。そうすると、突然何処からともかく段ボール箱が出現した。
「おぉ、聞いた通りに現れるのですね。これは実に興味深い。さて、早速開けてみましょう」
子供のようにワクワク顔で段ボール箱を無造作に開けて中身を確かめるマモン。この光景を目にするとこれが魔王城の幹部だとは到底思えない。
「ほぉ、これがノートパソコンとやらですか。して、どうやって使うのですかな?」
『分からずにして買ったのかよ。余裕はあるけど高いんだぞ』とワタルは思いながらため息を吐きノートパソコンを奪い使い方を説明する事にした。
「ワタル殿、そんなにため息を吐いたら幸せが逃げ出すわよ」
「………(誰のせいだ、誰の)」
とは口が割けても言えない。こんな自己チューなマモンだが実力的には遥かにワタルよりマモンの方が上なのを肌で感じ取っていた。
「ここが起動するスイッチで、立ち上がるまで少し待ってて下さい━━━」
電気を使う電化製品は、この世界だと電気の代わりに使用者の魔力を消費して使える。
どういう理屈で電気の代わりに魔力で使えるようになるのか理解出来ないが、魔法だからとそこんところは考えないようにした。ファンタジーだから何でもありと考える事にしたのだ。
「ほぉほぉ、この魔道具は………いや、ワタル殿の世界ではデンカセイヒンだったか。これでワタル殿がいた世界の知識が分かるのだな」
鼻息荒く興奮するようノートパソコンの画面をこれでもかって程凝視する。でもまぁ研究者の中には中身を知りたくて分解したがる輩もいるから、それと比べたらまだマシなのかも。
「えぇ、キーワードを入力してもらえれば、知りたい事何でもじゃないけど知れますよ」
そして、何故かキーボードの文字がこちら側の文字へと代わっている。後で知った事だが、ローマ字とこちらの文字数は同じでキーボードのキー数も変わらずに文字を入力出来るらしい。
「ふむ、まるで誰でも高度な光魔法を使えるみたいな感じわね。こんなのが世間に広まったら世界がひっくり返るわ。このノートパソコンとやらというデンカセイヒンは魔王様以外誰にも教えちゃダメよ」
そこまでかの事か?まぁ確かに地球では今現在誰でも使ってる物だが、元々は軍が開発したものだと聞いた事がある。
マモンの忠告を守り、けしてノートパソコンを含め電化製品類は表には出さないよう心に誓うワタルであった。
予告通りに更新出来ました。
次回は、更新日未定です。