88話強欲の部屋が実は日本だった件
食事会は無事に終わり、俺はフラン達と一旦別れ白猫の案内で強欲のマモンがいるという"ラボ"の扉前まで来ていた。
「ここがマモン様の"ラボ"でございますにゃ。恐らくワタル様はお気に入られるだろうと思われますにゃ」
「それはどういう━━━」
「お入りになさればお分かりになるにゃと、私はお戻りににゃりますので」
白猫はお辞儀して去ってしまった。扉はまぁ普通だ。何の仕掛けも魔法の類いも感じられない。フランと比べるとまだまだだが、俺は魔法を使うようになってから魔法に関する探知が自然と出来るようになっていた。
「よし、開けてみるか。失礼します」
ギィ~っと開けて見ると、そこにはワタルとしては見慣れた光景でもここではあり得ない物が鎮座しており、ついバタンと閉じてしまった。もう一度開けると━━━
「ヤッパリ目の錯覚ではなかったぁぁぁぁ」
ワタルの目の前に広がるのは、実際目の当たりする事はないがテレビの取材とかで見た事のある研究室そのまんまな光景である。この一室だけファンタジーから現実に戻った感がある。
客室もそうだが、これも白猫の仕業なのか。そうとしか考えられない。
「おや、いらっしゃい。私は強欲を冠する悪魔マモンだ。ワタル殿を歓迎します」
部屋の奥から食事会とは違い黒のビスチェに膝元まである白衣を着た強欲のマモンが現れた。白衣は前を開けており、ビスチェだけに少し目のやり場に困る。
「どうも、ワタルです。この度は料理の数々美味しかったです。あれらは全部マモン様が?」
「マモンで結構です。魔王様のお客人なのですからな。あの料理は私の研究の成果の一つに過ぎません。
本来料理や食物なら暴食の役目なんだが、何せ食べてばかりだからな。私が研究しレシピを料理長に渡して作らせているのですよ」
「た、大変なんですね」
意外に苦労性なのか。こう話してると意外に気が合うように思えてきた。強欲だからもっとこう「お金が地位が男がもっと欲しい」とか言いそうなイメージをしていました。すみません。
「意外そうな顔してるな。"強欲"だからこう言って欲しいのかな?お金が欲しい、地位が欲しい、そして━━━」
バンっ
「ワタルお前が欲しい」
最後の言葉でマモンに壁ドンと顎クイをやられた。普通は男と女が逆だが、ワタルはドキューンとドキドキしてる。目の前にあるマモンの顔から目線が外せないまま動けない。
「ぷっあっははははは、ワタル殿冗談だ」
マモンが急に笑いだし離れてくれた。冗談だと分かったがワタルは腰を抜かして座り込んでしまう。あんまり知られてないが、魔族は例外なく悪戯好きな種族なのだ。
「まぁ前の強欲なら分からなかったかもな。大の男好きなヤツだったから。ワタル殿なら今頃、喰われてたかもな」
そう聞いたら今の強欲がマモンさんで本当に良かったと思える。前のヤツは男好きという事は女性だったのだろうか?逆に男なら誰得な展開になっていた事だと思う。例外的に腐女子や貴腐人なら喜ぶところか大好物な光景になっていただろう。
「それでマモンさん、最初から気になっていたんですが、この部屋ってもしかして………」
「ワタル殿なら分かってくれると信じていたよ。白猫様に頼んでご用意して貰った物ばかりだ。気に入ってくれたかね」
実際に戻ってはいないが久し振りに元の世界に戻ったと感じる事が出来て嬉しくは思う。それに中を見渡すと、部屋の窓から日本庭園らしき庭が存在してる事が確認出来る。
ワタル何かの見間違いかと何度も瞳を擦り何度も見た。そう目が充血するまで見てやった。
「えっ!何で窓の外に日本庭園があるんだ。ここ魔族領だよな(何か一番似合わない気がする)」
「私の趣味です。白猫様から地球、それも日本の風景の映像を見せて貰い作っちゃいました」
そんなに簡単に作れるものなのか?確か職人がいた気がするが、これは職人顔負けだな。詳しくない俺でも美しいと思える。
「私は強欲です。私が欲するのは知識です。ワタル様達の故郷である地球の知識が欲しいのです」
つまり知識欲ってことか。今はまだ良いが、もし核兵器の知識が知られたらとんでもない事にならないか?想像するだけでも恐ろしい。
「ご安心を。私は兵器の知識は要りません。そんな物を欲するのは愚か者がする事です。私が欲しいのは娯楽に繋がる知識です。例えば、漫画は素晴らしいですね。地球の人間達は何であんな話を考えつくのでしょう。実に興味深いです」
「そ、そうですか」
マモンが興奮ぎみに近寄って来るもんだからワタルは引いてる。まぁ気持ちは分かる。日本人ならヤッパリ和風な光景ってホッと安堵するもんである。
この反応からしてマモンったもしかしたら、オタクなのか。強いて言えば地球オタクと言えば良いのか。まぁ地球の事を知ってるなら親近感がわくってもんだ。
次回は多分4月11日予定