77話次は外さない
遥は一目散に駆け出し、ジョブスとの距離を詰める。あっという間に二十mとの距離を詰め、後三mというところでジョブスの前から遥の姿が消えた。
「なに!一体何処に行った?!」
「早いな。風姫の記憶は無いはずなのに、風魔法を上手く扱ってやがる」
ワタルは遥の戦い方を見て素直な感想をもらす。遥は足首周辺に風の魔力を纏い、まるで風で作った靴を履いてるかのように脚力を上げてる。あれじゃぁ、常人では反応出来ないはずだ。
「はぁぁぁぁ、もらいました」
ジョブスの後ろ斜め上から遥が現れ勢いに任せスサノオを突き刺そうとする。だが、ジョブスもプロである。遥の殺気で気付き大剣でスサノオを弾いた。
「ぐぅっ(なんて速さと重さなんだ!足りないのは経験だけで、俺より強いんじゃないか?自信なくすぜ、まったく)」
「ちっ、惜しいな。さすがは試験菅でプロって感じかな。じゃぁ次行くよ」
「ちょっと待った」
駆けようとした瞬間、ジョブスから待ったを掛けられた。今まで積み重ねてきた経験からの直感で、このまま続けていたら自分が殺されると思ったらしい。
「合格だ。これを持って受付に行ってくれ。そうすれば、Dランクのギルドカードが貰えるはずだ」
「えっ!もう終わりですか?何か呆気ないというか……でも、嬉しいです(ニコニコ)」
ジョブスの思った事を遥はつゆ知らずに合格証を受け取り喜んだ。笑顔に関しては今の年相応なのだが、身体能力は大人顔負け以上でランクB以上S未満といったところだ。後はジョブスが思ったように足りないのは経験だろう。もしかしたら年齢が退行?したおかげで最年少Sランク冒険者も夢ではない。
「ふぅー、次は君だな。えーと、ナツキといったか」
「はい、よろしくお願いします」
「何処からでも来い」
「はい、行きます」
バチバチバチバチ
と夏希の周囲に電気が迸る。元の世界でワタルと一緒に道場で習ってたクセで気合いを入れた。そのせいか雷の魔力が集まり常人の魔法使いでは到底扱えず暴走してしまう量の魔力を放出してる。
「ほう、これは凄いな。この量の魔力を扱える人間なんぞ一種のバケモノだな。あれを食らったら、あの試験菅死ぬぞ」
「フランが誉める程とはな」
魔法の大天才である魔王フランシスカにそこまで言わせるとは、この試験もう合格でいいんじゃね?あの試験菅が不敏でしょうがないのだが。
「そぉりゃぁぁぁぁ」
夏希から動いた。遥と比べる以前にスピードが段違いで初速だけで速すぎて姿が消えた風に見える。
夏希が使用したのは、属性強化魔法と呼ばれる高等魔法の一つだ。自分自身に属性魔法を付与し文字通りに強化する魔法だ。強化と聞いて地味に聞こえるがコントロールが難しく使ってる者は少数なのだ。大多数が遠距離で距離を保ちながら初級魔法を撃ってるか、前衛に守られながら中・大魔法を放つかである。
魔法にもランクがあり、属性強化魔法の雷と光はAランク、その他はBランクだ。雷と光だけAランクの理由は、パワーとかそんなの関係なしにスピードが速すぎて体が耐えられず普通は死んでしまうからである。
なので、雷と光の属性強化魔法は存在するだけで使える者は本来いないはずなのだが、夏希が何故か使えてしまってるのも事実なのだ。
因みに遥が使ったのも風の属性強化魔法である。風もそこそこ速いが耐えられる程度なので問題ない。
だが、到底そのスピードを使いこなすには長年の経験が必要で一朝一夕で取得出来るものではない。
だから、経験が少ない夏希はもちろんこうなる。
「うっきゃぁぁぁぁ」
どっかぁぁぁあん
と、自分のスピードのコントロールを誤ってあらぬ方向が違う壁にぶつかり破壊した。
「いったたたた」
壁が壊れたというのにかすり傷程度で済んでる。属性強化魔法の影響なのだろうか。
それもあるかもしれないが雷姫時の身体能力は残ってる影響が大きいだろう(遥もそうだ)。ただ、魔法の使い方を忘れてるだけで。
因みにワタルの闇反魔法"闇心"も属性強化魔法に分類されるらしいとフランは確信してる。
「あっはははは、失敗失敗………でも、次は決める」
右手にタケノミカヅチを、左手で自分の頭を擦り今度は外さないようジョブスに気持ち的なロックオンを睨み付けるように定める。最初と同じく初速が速すぎて姿がまたも消えた。これを見極められるのは………フランかワタルを除けばSランク冒険者しかないだろう。
「………そこだ」
やはりそこはプロのようで長年の直感と経験で夏希の太刀筋を受け止めた。だが、それが間違いだった。受け止めるのではなく、避けるべきだった。
バチバチ━━━スパァァァァァン
タケノミカヅチがジョブスの大剣をバターのように切断し、直接はジョブスには当たりはしなかったが切断した余波で後方の壁へと吹き飛ばされた。




