67話闇のゲーム"オセロ編"その2
「ふっははははは、たくさん取れたぞ」
「…………(本当に分かってないな。これでは素人同然だな)」
盤面を見ると、黒の方が圧倒的に多いが石を置く箇所が少ない。しかし、ムロイア王には圧倒的に多い黒の方が有利に見えるのだろう。それが、ワタルに角を取られる羽目になるのだ。
「むむ、また角を取られたか…………だが、まだ我の方が多いぞ」
「はぁ…………(いい加減気づかないものか)」
ムロイア王の手番になり、また考えもなしに多く取れる箇所に起き白が黒に変わっていく。が、これで次の黒は置く箇所が無くなってしまった。
ワタルは数は少ないが、次の黒が置けないように白を置く。そして、黒はパスして続けて白の番だ。
「なぬっ!我の置く所が無いではないか。ぐぬぬぬっ、パスじゃ」
白が置かれ黒が白に変わっていく。しかし、またもや黒の置く箇所が見当たらない。この異常な状況に気づいても良い頃だ。
「うむむむっ…………(まさか、嵌められたか!この戦局まで誘導されていたと申すか)」
「ふむ…………(やっと気づいたようだな。だが、もう遅い)」
端から見ると、白の逆転劇が始まったかのように見えるが見る人が見れば、ほぼ最初から白が有利なのは変わらない状況である。
「お主、ワタルと言ったかの?」
「うん?そうだ。物覚えが悪いのか、豚王よ」
今度は、はっきりと豚王とムロイア王に直接発言してしまい逆鱗に触れて激昂すると思ったのだが…………
「……………お主に…………ワタル殿に頼みがあるのだ」
おぉ体が震えてるが、どうにか怒りを抑えたようでしかも俺を殿付けで呼びやがった。どういう風の吹き回しだ。気持ち悪いし槍の雨でも降りそうだな。
「頼み?豚王が俺にどんな頼みがあるんだ?」
「この魔法を解くか、わざと負けて欲しいのだ。頼む、ワタル殿」
「き、貴様!ワタルに死ねと申すのか!」
フランがムロイア王に詰め寄ろうとし、セツナは氷魔法の呪文を唱えている。
「まぁまぁ、フラン落ち着いて。それにセツナ詠唱止めなさい(セツナのあの魔法を止めさせないと、何か嫌な感じがする)」
「チッ」
ワタルの命令でセツナは詠唱を中断し、部屋中に充満しそうになっていた冷気は散漫になった。
「しかし、ワタルよ。こいつはワタルに"死ね"と言ったようなものだぞ」
「それはそうだが、負けるつもりはないし大丈夫だ」
ワタルの言う通りで盤上では、黒から白の方が多くなっており物理的に逆転不可能な状況になっておる。つまり、ワタルの勝利がほぼ決定したようなものだ。
「閣下、ただいま戻りました」
どうやら、何処かに行っていた魔法使いが戻って来たようだ。まぁ何処に行って来たのか、おおよそのところ分かっている。
何故なら、ここにいる全員がワタルの魔法の中にいるのだ。よって、魔法の発動者であるワタルには、この中にいる限り全員の動きは感知出来るのだ。
「それでどうだったのじゃ?もちろん、解除出来るであろうな。お前は国随一の魔法の使い手なのじゃからな」
そんな期待の言葉を投げられる魔法使いだが、端から見ると蒼白になってるのが分かる。あぁ駄目だったんだなぁと予想がついてしまう。流石は俺の魔法のことだけはある。
「おい、どうした?黙ってないで何か話せ」
「……………でした」
「うん?」
「駄目でした。こんなの人間の魔法じゃない。まるで魔王か賢女のようだ。俺は…………お前の側近をやめる」
「何をふざけんな!」
魔法使いの襟を掴もうとムロイア王が立ち上がったとこで異変が起きた。座っている椅子から磁石でくっついているかの様に少しは離れるが直ぐに座っている状態に戻ってしまう。
「おい、これはどうなっているんだ!」
「オセロの対戦が終わるまで無理だぞ」
「なにっ!」
「それじゃ、これで終わりだな」
ワタルが最後の益に白を置くところで声が掛かる。
「ちょっと待ってくれ!」
「うん?何だ?」
「俺をお前の…………ワタル様の部下に加えてください」
「ふむ…………残念ながらこの魔法は俺自身でも解く事が出来ん。だが、お前自身が心の奥底で部下に加えて欲しいと願うなら…………普通の人生を送れるだろうな。そうなるように祈っておれ」
そう言うとパシッと白の石を置いた瞬間、真っ白く光り周囲を包み込んだ。