56話ワタルVS雷姫・前編
━━━ワタルside━━━
黒猫が風姫ルーを雷姫リリーから引き離したのを見届け妹の後を追い掛けさせないようにワタル自身が壁のように雷姫リリーの前を遮る。
「くっ、そこを退きなさい」
「それは出来ない相談だ。お前の相手は俺だ」
刀形態の桜花を雷姫リリーに向けるワタル。
折角、一対一に持ち込めたのに追わせるバカが何処にいるのだ。ここは俺と戦ってもらう。
「あなたを瞬殺にしてルーの後を追います。ルーが殺られてしまいます」
うん?どうやら黒猫の事をご存知のようだが、そんなに脅威と感じる程か?
ワタルから見た黒猫は殆どがぐうたらで気分屋なとこしか知らない。一回だけワタルを操ろうとした件はあるが、それはもうワタルの頭から消えてしまっている。
ただ、フランの幹部だという事実で「大丈夫か」と判断した次第である。まぁ、当の本人もやる気だしてる様だし連れてきたのだ。
「ほぉ、瞬殺とは面白い事を言うものだ。姫様なのにギャグを言うのだな」
「??ギャグがなんなのか分かりませが、バカにされたのはわかりました」
「なら、これを見ても瞬殺という言葉は言えますかな?」
ワタルはフランから借りた眼鏡型で容姿の認識をずらす魔法具を外すと数秒後、雷姫リリーは驚愕した。
「なっ!お前、あの時召喚された元勇者候補か!何故、害獣共と一緒にいるのだ。それに死んだと報告があったはずだ」
死んだ事になってたのか。なら、豚王の目の前に出たらさぞや驚くだろうな。いやー、今から楽しみだ。
「死んでないから、ここにいるのですよ。この戦争は俺にとって復讐です」
「復讐?父上は寛大で、お前にも金と情報を与えて下さったでしょ」
「はぁー?知らない土地に召喚され、国外追放されて恨むなというのがおかしいだろ」
「だから、お金と情報をくれたのでしょ?恨むのはお門違いではなくて」
「ふん、あんな端金貰ったくらいで"恨むな"なんて?それこそ違うと思うぞ」
当時、豚王から貰ったお金が金貨20枚=20万円相当だ。今考えても安過ぎだと思う。仮にも豚王は王様だろ?ケチすぎるだろうよ よ。あぁ、今思い出しただけでイライラしてくる。
「妹を助けるんだろ?なら、さっさと殺ろうぜ」
「………望むところだ。私と戦う事を後悔するがいい。元勇者候補風情が」
雷姫リリーは、あの場には居なかったせいで勘違いをしている。当日魔法使い部隊が調べた結果、ワタルは勇者になるには能力不足という判定がくだった。だが、雷姫リリーがいれば判定は逆になっていただろう。
何故なら、ワタルの固有魔法:娯楽魔法の脅威に雷姫リリー自身が何故か分からないが理解したかもしれないのだから。
しかし、もう過去の話━━かもという出来事は存在しない。雷姫リリーがワタルの召喚された時にいれば、ワタルは勇者となっていたかもなんて誰にも分からない。
「「はああぁぁぁぁ」」
ガッキイィィィィン
ワタルは下段から振り上げ、雷姫リリーは上段から振り下ろし刃と刃が交差した。凄まじい音と交差する度に白と黒の雷鳴が轟く。それはまるで綺麗な花火を打ち上げてるかのよう。
「くっ!我が愛剣タケノミカヅチの一撃を防ぐとは!そのような力を持って何故勇者になってない」
「それはそっちの落ち度だろ。俺の能力を見逃したのはそっちなんだから。確か、ローブの男だったような」
「魔法使い部隊部隊長か?」
「あぁー、確かそんな言ってた気がするな」
ワタルは嘘をついた。本当はローブなのはうっすら覚えてるが、名前なんか覚えてない。敢えて話にのってみた。その方が面白くなりそうだから。
「後でお仕置きですね」
御愁傷様です。ごめんなさい、と心の内で謝っとく。
「そうと分ければ、今からこっちにつかない?父様に言ってあげる」
「…………そっちに行ったら、俺に何かメリットあるのか?」
雷姫リリーの提案にワタルが質問してきて、ニヤリと雷姫リリーの口角が上がった。少しでも考えてくれた事にこちら側に引き込めるかもしれないと思ったに違いない。
「報酬と確かな地位をお約束します。そして、害獣の国オウガの一部の土地を差し上げます」
「…………魅力的だな」
「では━━━」
「だが、断る」
「なっ!」
「いぇい、相手に希望を持たせて敢えて断る。一度は言ってみたい言葉トップテンの内一つを言えたぜ」
「時間の無駄でしたわね」
「はん、最初から分かってたくせに。やっぱり、豚王の娘か」
ザッシュッガキガキィィィィン
「おっ、危なぁ。怒ったのか」
「怒ってません」
「いや、絶対怒ってるだろ」
「怒ってないったら怒ってません。"雷弾撃"」
怒りにまかせて雷の斬撃がガトリングガンのように飛んで来る。が、高速でワタルは飛行して回避する。
しかし、雷の斬撃はコントロールは可能のようで前後左右360度どんな方向からも襲ってくる。
「くっ、しつこい」
桜花でも雷の斬撃を弾こうとするが『マスター、ダメです。魔法無効化出来るマスターでも、これは完璧に無効化出来ません』と忠告してくる。
「なに!無効化出来ないたと」
『はい、これは魔法とは似て非なる物です』
「………仙術か」
『いいえ、それとも違います。どちらかと言うと上位的な何かだと思います』
「くそ、これじゃ近づけ………ない」
回避している中で気づかなかった。ワタルの周囲に雷の障壁が覆っていた。




