52話セツナ部隊は王と王妃捕獲
場所は移りセツナ部隊が戦場を駆け巡ってる中。
━━━セツナside━━━
「えっ?おじいちゃん?」
セツナは部下と共に諜報兼工作活動をしながら走り抜けていたところを急停止し、グリムがいた場所を向いた。
虫の知らせだろうか、グリムが倒され行方不明になったのは知る由はないが、さすがは獣人の直感は鋭い。
「どうしました?セツナ様」
「いや、何でもない。先を急ごう。王と王妃もろとも見つけなくては。後、部隊長と呼べ(おじいちゃんが殺られる訳ないもん。きっと気のせいだもん)」
そう、自分に言い聞かせ事前の情報で掴んでいた王と王妃がいるはずの玉座の間(仮)にふんぞり反ってるはずだ。
「セツナ様ここです。話が真実ならここにいるはずです」
「だから、部隊長と呼べと言ってるだろ。まったくもう」
先に敵側陣地に侵入したいた部下が王と王妃がいるであろう、建物に先導した。
「ご苦労様、ここからは少数精鋭で行く。残りは見張りを、何かあれば無線で連絡を忘れるな」
もちろん、日常生活でも魔法を使用する世界で無線という科学は存在するはずはない。
どうして無線があるというと、ワタルが娯楽魔法"通販"で、そこそこ値は張ったが戦争では武力だけが力ではない。情報も武器としてなりえるのだ。
オウガ陣地に送信機を置き、セツナ部隊には受信機内蔵型のイヤホンマイクを渡してある。今後も戦争だけではなく、役に立つだろう。
「こちらサーマル1、捕獲目標確認出来ず」
「サーマル1了解した。捜索続行せよ」
「こちらサーマル2、捕獲目標発見。サーマル1~4は合流せよ」
「「「了解」」」
サーマル2と呼ばれていた部下その2のとこへセツナも合流し、発見した部屋へと案内してもらう。
(あそこです。セツ………部隊長)
セツナがあまりの形相で睨むものだから、途中で言い直した。
(よし、各員逃走経路を塞ぐ形で総員配置に着け)
王と王妃は玉座を模した椅子に座り、呑気にワインを片手に戦争風景を眺めている。
この部屋での戦力は王と王妃の隣に兵士一人ずつの二人と給仕の奴隷二人のみだ。王族の警護としては話にならない。どう見ても物凄く舐めきっている。
「フフフフフ、何度見ても人の死ぬのを見るのは最高じゃ。こんな楽しい娯楽は他にはないの」
「おーほほほほ、貴方は最高な事を考えつくわね。ただ、あの害獣を殺すために戦争を仕掛けるなんてね」
「奴隷や反逆者を殺す事も楽しいが…………同じ人間として良心の呵責があるからの。代わりに害獣共を殺す事は人道的じゃわい」
そんな一部始終を聞いていたセツナ部隊は例外なく、瞳はメラメラと燃え内心からはフツフツと殺気が漏れている。誰だって、楽しいという理由ってだけで同胞が殺される━━━そんな事があったら怒りを通り越すだろう。
(部隊長………俺、もう我慢出来ません)
(それは私もだよ。兵士二人は確実に殺せ。王と王妃は捕らえ、ワタルに渡す)
(ですが━━━)
(まぁ、待て。ワタルに渡せば、死よりも恐ろしい目に合わせると言っていたね。
なんでも、何回も自分が死ぬ場面を体験される?と言っていたよ)
ワタルに何回か説明されても、セツナには理解出来なかったが凄い事だけは理解出来た。さすがだ、とワタルをセツナは益々惚れ直したのだ。
(いいか、王と王妃だけは殺すなよ。出来れば、奴隷も解放したい…………任務遂行)
殺気と気配をゼロにし、先ずは護衛の兵士を殺す。戦いを長引かさないためだ。それが本来くノ一であるセツナの戦い方だ。部下もそれに習い、音も無く兵士の背後に廻り込み一撃で仕留める。
兵士が血を流し倒れてから数分間、誰もセツナ達の存在に気づかないでいた。
「うん?何か鉄の匂いがしないかの」
「戦場でたくさん死んだからではないの。あなた」
「それもそうか。フハハハハハ」
「ほれ、そこのグズ。さっさと、注ぎなさいよ」
「は、はい━━えっ!」
「何をしてる!そんなに死にたいのか」
王が振り向くと、そこには奴隷の姿は無く代わりに冷たくなった兵士があるのみであった。
「きゃあぁぁぁぁ」
「どうして、我が親衛隊が死んでる?誰かいる━━━」
「喋らないで。このゴミと一緒の空気を吸ってるだけで虫酸が走るから」
セツナは短刀を王の首筋に当て言葉を遮った。王妃の方は部下1に任せている。
後の部下二人には奴隷の首輪を外し奴隷を解放してもらっている。奴隷の首輪くらいの魔法具なら装着されている本人以外なら案外簡単に外せるのである。人間ではない我々獣人でもだ。
「き、貴様儂が誰か知っての狼藉か」
「聞こえなかったの?我々獣人より頭が悪いのね。私は喋るなと言ったのよ」
さらに、短刀を首筋に近づかせキラキラと鈍く光る。
「さぁ、歩きなさい。死にたくなかったらね」
そこに別の兵士が現れたが、何か様子が変だ。動きが、カクカクで生物の動きではない。それに気づいたセツナ達は、その兵士には何もせず様子を見ていた。
「おい、助けてくれ。助ければ褒美を出すぞ」
やっぱり、ゴミはゴミである。見た側から変だと分かるはずなんだが。
「そ、そそそそそれは出来ません。ただ、伝達の為に来ただけですから」
どうやら、この兵士は魔法によって作成された物らしい。誰かは不明だが、人形か死体を簡易的な操作系魔法により操ってるに過ぎない。強力な操作系魔法なら戦闘も可能だろうが、これにはどう見ても無理だろう。
「なっ、何を言ってる!儂が早く助けろと言ったら助けろ」
あぁ、今すぐに殺したいな。でも、ワタルの頼みでもあり殺す事を我慢する。
「その汚い口を開くな。見れば分かるだろ、あれは人間ではなく人形か何かだ。本当に何かを伝達する為だけに来たのを分からんのか」
「ぐっ………」
セツナ達も驚きはしたが、最初だけだ。直ぐに冷静になり周囲を分析する。
「どうやら、静かになった様ですね。では、失礼ながら………ごほん、あーあ、親父聞こえるか?」
人形兵士からは先程の声とは違い、女性っぽい声だが男っぽい話方だ。
「その声は!シャルロットか!シャルロットなのか。一体何処にいる?居るなら助けろ」
「そうそう喚くな。王という者がだらしないぞ。俺はもうこの国には居ねぇよ。とっくに国境を越えたからな」
「なっ!この国を裏切るきか」
「心外だな。裏切るも何も俺はとうの昔に故郷を捨てたからな」
セツナは、このグズから生まれたとは思えない程、シャルロットという人間は頭がとても良いと感心を持ったが━━
「シャルロットさんと言いましたか。あなたに聞きたい事があります」
「うん?なんだい?俺が話せる事なら話そう」
「儂の話はまだ終わっとらんぞ」
「五月蝿いよ。黙れよ、この国王が………黙らんと今直ぐに寝首を掻きに行くからな」
「なっ!」
王はパクパクとまるで、水槽に酸素が足りない金魚の様に開閉を繰り返してる。実の娘に罵倒され言葉にならないようだ。
「くっふはははは、最っ高な見せ物だな。この場面を劇にすれば、お客入るんじゃないか」
「隊長、それ良い考えっすね」
「そうだろそうだろ」
「ぐっ、五月蝿い黙れ」
セツナ達にも笑われ、王がキレるが━━━
「黙るのは、お前だ。この国王」
人形なのに、そこから放たれる殺気で国王とセツナ達も黙ってしまう。王妃は、もう泡を吹いて失神している。
「あぁ、悪い悪い。つい、そこの国王にイライラしてね。で、何かな?聞きたい事とは?」
先程とは嘘の様に、殺気が引いている。本人がいたら確実に"死"確定だろう。
「………ごくん。貴女と戦った獣人がいたはずだけど………」
人形であるが、間接的にこうして武神シャルロットと話してるのだ。ほぼ殺られたと思っていた。
「あぁ、グリムとか言う獣人?それなら戦ったぞ。いやー、強かったな。久しぶりにワクワクと楽しかった。もちろん、俺が勝ってグリムの身柄は預かってるぞ」
直感の半分は当たっていた。死んでいないと知り、少しばかり安堵した。
「ぐっ、私の………私の祖父だ」
「そうか、悪い事したな………悪い用にはしねぇから少しばかり、おめぇのじぃさんを貸してくれなか?」
相手はSランクだ。選択の余地はないのに等しい。
「わかった、死なないならそれで良い」
「そうか、話が分かるヤツで良かった。それで、おめぇの名前は?」
「セツナ………氷狼のセツナ」
「おぉ、氷狼とは珍しいな。じゃあな、セツナ。いつか会える事を楽しみしてるぞ。おっ、時間のようだ。では、近い内にまたな」
「シャルロット待て!この親不幸者が」
王の声は届いたか知らないが、王が怒鳴った瞬間に人形兵士は糸が切れたかの様に地面に倒れた。
死体ではなく、本当に人形のようだ。所謂、傀儡人形と言う物だ。
「くっ、くそが」
「おっと、暴れるなよ。素直に歩け」
セツナは王の背中に短刀を押し付け、歩かせた。王妃は相変わらず気絶してるので、二人かがりで運ぶ。
数分間、歩かせると舞踏会でも開催出来そうな広間に出た。
「よし、ここでいいかな?」
広間の真ん中に王と王妃を座らせると、セツナは呪文を唱えた。
「氷魔法"氷結牢"」
全部が氷で出来た檻が出現し、その檻の中に王と王妃がいる。
「そ、そんな馬鹿な!害獣に魔法が扱える訳が━━」
「はぁ!?それ何処の知識よ。人間の常識を私達に当てはめるな」
どうやら、広範囲のミサイルによる地獄絵図を見てないらしい。見てたら、そんな言葉は出てこないはずだ。
追加情報として魔法理論上、全生物は魔法を使えるらしい。この世界の豆知識だよ。
「ふぅ、おじいちゃんの事は残念だけど、ワタルは絶対勝つよね」
おじいちゃんは死んでないからね!と、何処からか聞こえた気がした。




