51話グリムVS武神決着
隙を伺う中、グリムは内心焦っていた。スキル:狂狼は制限時間付きのスキルであり、その時間以上使用すると体が時間経過するにつれ崩壊していく。故に普段は使用を禁止しており、諸刃の剣なのだ。
「ぐふっ」
と、グリムは血を吐き出した。シャルロットの一撃を喰らったせいでもあるが、狂狼の制限時間が近づいてきてるのだ。およそ残り十分ってとこだろう。
「ガルルウゥゥゥゥ"狼牙脚"━━━"狼功砲"」
目に止まらない程の速さで足から斬擊を繰り出しシャルロットを襲う。だが、紙一重で避けられた時に土煙が舞い、グリムを見失ってしまう。
その土煙に紛れシャルロットの後方から、狼顔の形をした光線を発射したが、やはり相手はSランクだ。片手で防ぐどころか彼方へと弾き飛ばしたのだ。
だが、それもグリムの陽動であり、光線の光で目眩ましをした隙にシャルロットの懐に忍び込み、両腕を垂直に重なる様に前に出して拳をシャルロットの腹当たりに軽く当てた。
「ガルゥ、喰らえ。"狼王弾"」
「がふぅ」
初めて膝を付き口から血を吐き出した。
この技は拳から"気"を相手の体内に流し内を壊す技である。つまりは、内臓破壊の技で魔力ではなく"気"だから、防御はほぼ不可能だ。
もし、ワタルが喰らえば多少は"気"を外に受け流せるが重症は確実だろう。それだけ凶悪な技なのだ。
「ガルルウゥゥゥゥ、これで立てまい」
グリムは息を切らし、フラフラと地面に座る。狼王弾は一発撃つのに体力をゴッソリ持っていかれるのだ。そんな理由で、さすがのグリムでも疲れたようで息を整えるのに時間が掛かっている状態だ。
シャルロットはというと、膝を付き顔を下に向けたまま、数分間動かないままでいた。良く耳を澄まして聞かないと聞こえないが「スゥースゥー」と呼吸をリズム感良く行っているようで死んではいないようだ。
この呼吸音にグリムが気付けなかったのは、ミスであった。獣人なら気付くべきだった。
何故なら、シャルロットは強化魔法にのみ集中しており、自然治癒の強化で体内を徐々に回復していく。
「ハァハァ、ワタル殿と黒猫の戦闘は気になるが………魔王様の所に武神を連れて戻るとするかの」
時間がきて狂狼を解いたグリムは運ぶためにシャルロットに近よってみるが、そこで違和感を感じた。後、三歩で触れるまでで歩みを止め様子を伺う。
歩みを止めた数秒後、シュンとグリムの頬に何かが当たり、ツーーっと頬に血が垂れる。
何が起こったのか理解出来ないが、グリムは本能的に後退する。
「痛いじゃないの、ワンちゃん」
何も無かったかの様に立ち上がるシャルロットにグリムは驚愕を隠せない。今まで受けた傷が綺麗さっぱり消えてるのである。
「わ、ワンちゃんって儂のことか?(それにしても、やはりSランクといことか)」
「そうよ、その耳に尻尾………ふさふさして可愛いじゃないのよ」
「そ、そうか」
「うふふふふ、絶対にお前を俺のものにしてやる」
狂狼が解けた後では、グリムの力は普通の獣人以下と成り下がっている。
「ハァハァ(ここは一旦後退した方が………)」
チラっチラっと逃げ道を確認しつつ後退するが、それを許す武神じゃない。一気にグリムの懐に潜り込み蹴り倒し踏みつける。
「グハッ」
「この武神様が逃がすと思ってるの?甘過ぎるよ。戦争や政には興味は無かったが、お前みたいなワンちゃんと出会えた事には感謝だな」
ここまでなのか。いや、ここで諦めたらワタル殿や魔王フランシスカ様に顔向けが出来ぬ。力を振り絞り立ち上がろうとはするが、シャルロットも足に力を込めグリムを立ち上がろとさせない。
「まだ諦めてないのか。殺す積もりはないのだ。儂のものになれば、毎晩モフモフとしまくるんだからな」
モフモフと言う言葉は分からんが、それは絶対にイーーーーヤーーーだーーー。と、本能的にそう脳内で叫ぶ。
「くっ、この…………」
「ほぉ、まだ抵抗するか。ほーれ」
グリムの腹に想いっきり蹴りを入れ地面を転がる。
「ぐふっ、儂は魔王様の側近………こんなとこで殺られて━━━いや、お前のものになってたまるか」
と、最後の力を振り絞りグリムは、鋭利な爪を伸ばしシャルロットに斬り掛かった。
「うおっ、危ねぇな」
爪ではシャルロット自身は傷を一つもつけられなかったが代わりに━━━
「まだそんな元気があったか」
ポトッ━━━と、何かが落ちた。
「うん?」
シャルロットが下を見ると、そこにあったのは自分がしてるハズのビキニアーマー上だった。
「ななななななななな」
落ちたビキニアーマー上を見ると、片紐とサイドベルトが鋭い刃物で切られたかの様にバッサリと切れてた。原因は言わずもながら、グリムの爪だろう。
「………おい、見たか?」
ここはどう答えようか。見てないと言っても信じられないと思うし………うーん、どうしよう。
「…………」
「おい、何か言えよ」
「………何か」
「ふざけてるのか」
「………す、すまん。見た」
「………い━━」
「い?」
「いぃぃぃぃぃやぁぁあああぁぁああ」
左腕で胸を隠しながら、右手と両足による目に止まらぬ連擊の嵐がグリムを襲った。それも、スキルの連擊倍率が無意識で発動した。連擊数というと、シャルロット自身も驚く新記録が出たのだ。グリムにとっては嫌な記録だが。
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ
「ちょっ、止め」
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ
「………死ぬ」
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ
「…………」
すまない、ワタル殿……フランシスカ様……それに我が孫セツナ戻れぬやもしれぬ。ワタル殿とセツナよ、フランシスカ様を頼んだぞ。あぁ、セツナの子供を拝みたかったなぁ。と、心中で思ったところで完全に意識を手放した。
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ
「ハァハァ、あっ、ヤベ………死んでねぇよな」
シャルロットはグリムの口元に手を当て呼吸をしてるのを確認し、ホッと安心した。
意識がないグリムを肩に担いで、その場からシャルロットとグリムは消えた。
こうして、グリムは消息不明━━━行方不明になったのである。




