50話グリムVS武神後編
グリムの二ツ名を覚えているだろうか?
実は二ツ名の由来となったとあるスキルがある。それこそがグリムの最強最悪のスキルで奥の手━━切り札ということになる。そう、それこそが━━━
「うおぉぉぉぉ、スキル発動"狂狼"」
全身の体毛が紅く染まり聳え立っている。瞳はギラリと怒り狂った猛獣としか表現しようがない。
腕や足の筋肉なんかは数倍にムキムキと膨れて、今にも破裂しそうだ。そして、スキル発動した時の風圧でシャルロットのホールドは解け後方へ吹き飛ばされた。
「ガルルウゥゥゥゥ、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
吹き飛ばされたシャルロットはスキル発動したグリムを見ると驚愕した。グリムの体格が二回り程大きくなっており、吹き飛ばされた直後よりも体毛が血で染まったかの様に赤く染色している。
その変化したグリムを見るやいなやシャルロットはジリっ………ジリっ、と後退した。
自分でも信じられない程に恐怖を感じてしまっている。生まれてから現在まで恐怖は一切合切感じた事がないのにである。
吹き飛ばされたダメージは無いが………体が………足が…………本能的に危険過ぎると頭の中でアラームを鳴らしている。
周りにいる兵士達も変貌したグリムの恐怖で泡を吹いて倒れる始末だ。
「この俺が恐怖だと!そんな訳あるか!」
(逃げろ逃げろ逃げろ、逃げないと死ぬぞ)
頭では恐怖を制しようとするが、体は本能的に"逃げろ"と何度も告げている。相反する頭と体の命令で動けないでいた。
「動け………動けよ。俺の体………くっ、動けえぇぇぇぇぇぇ」
シャルロットの体内にある魔力━━━というよりは、気が溢れ体が恐怖を克服したかの様に動いたのである。
目の前まで迫って来ていた狂戦士化したグリムに攻撃を、スレスレで避けた代わりにグリムの5倍はありそうな岩が粉々に砕け散っていた。
「ハァハァ、よし、俺はまだ戦える。こんな面白い戦いを、こんなつまらない終り方してたまるか」
シャルロットは手や足の指先から体全身を、くまなく動かし最後に右手をおもいっきし握り締め自分自身を鼓舞した。
「ガルルウゥゥゥゥ、どうやら恐怖から抜け出せたようだな。そうでなくては楽しくない」
「なにっ!俺を鍛えるために、わざとその姿になったというのか!」
「いや、それは違うぞ。あのまま圧死しそうだったからだ。べっ、別にお前のタメじゃないんだからな」
ぷい、と視線を反らす。
「ほぉ、それが俗に言うツンデレと言うものか。勉強になる。(可愛いな。あの耳と尻尾………超触りたい)」
「はぁーっ!誰がツンデレか!ガルルウゥゥゥゥ、本当に殺すぞ」
口では否定はするが、目が泳ぎまくっている。というか、そんな顔でツンデレても気持ちわる━━━ゴホンゴホン、余計に怖くなるだけだ。
「さぁ、戦いの続きをしましょ。(あぁーん、狂狼グリムを俺の物にしたい。あの耳と尻尾をモフモフしたい)」
うっとりとした視線を耳や尻尾を初めとして、隅々まで見渡した。それはもう、絶対に逃がしてなるものかと狩人の様な瞳で。
「ガルルウゥゥゥゥ、血祭りに挙げてやる(な、なんだ?この悪寒は!それに、あのネットリした視線は一体なんだ!早く倒さないと、嫌な予感がする)」
「そちらが本気で行くなら、こちらも本気でやらないと失礼だな」
「ガルゥ!あれで本気でなかったのか。死ぬ思いだったぞ」
「ハアァァァァダアァァっ、強化魔法"武神の衣"」
シャルロットの周りに魔力が青白く目に見える程濃く噴出されて、某アニメのパワーアップシーンに似ている。
魔力の噴出が落ち着くと、シャルロットの周りに魔法の名前通りに青白い衣を纏ってるように光ってる。
「では、行きます。シュワッチャッ」
グリムの前からシャルロットが消え、数秒後に武神の衣でパワーアップされたストレートパンチをグリムの腹にもろ喰らわせた。
パワーアップされてはいるが、ただのストレートパンチなのは変わらない、だが威力が桁違いだ。
一撃で20階の高層ビルを崩壊させる威力をもっている。普通の人間が喰らえば肉片どころか骨を粉々に砕け散るだろう。
「グヘァ━━━━」
そんな威力のパンチを受けてもグリムは数㍍後退しただけで耐えきった。
「ペッ、流石にこれは効きました。人間としては最強でしょうな」
あの威力だからか口内を切って血を吐き出した。
「何を言ってやがる。お前を倒して生物最強だ。(そして、モフモフしまくるんだからな♪)」
「そっちこそ何を言ってるのですがな。上には上がいるのですよ」
「それは魔王の事を言ってるのか?魔法の大天才ではあると思うけれどよ。武闘派ではないんだろ?」
「いえいえ、そんなに事ありませんよ。儂なんざ赤子同然です。もし、魔王フランシスカ様を倒すのであれば………星を砕く程ではないと無理ですな。ガルルウゥゥゥゥ」
比喩ではない。それは物理的に無理と言ってるのと同じだ。もし、出来てやったとしても星自体がなくなれば、やった本人も死んでしまう。
そういう話をしながらジリっジリと距離を詰め、シャルロットの隙を伺っている。