49話グリムVS武神中編
「何故だ?確実避けたはずだ」
自分の血を見てシャルロットは不思議に思う。
「何故だろうな、タネを明かしちゃつまらんだろ?」
「なら、攻めるのみだ。オラオラオラオラ」
高速で鋭いパンチやキックを繰り出し攻め捲るシャルロットだが、相手は獣人だ。容易く、ガードや回避されてしまう。
「人間にしとくには勿体無いですな。ガハハハハ」
「余裕で防がれちゃ説得力ないですよ」
「それもそうですな。ふむ、次はこちらからいきます」
またもや、グリムは牙狼拳を繰り出す。下手な剣よりも良く切れる爪は人間の一般兵ならバラバラになっているだろう。
完全に見切る事が出来なくとも、軽傷で済んでるのはシャルロットにしか出来ない芸当(人間の中では)である。
また、軽い切り傷を何ヵ所も作ったがシャルロットはニヤリ、と口角を上げ微笑んだ。
「なるほどなるほど、さすがは魔王の側近のことだけはある」
「その魔王様の側近と闘って、まだ立っている人間など初めてですな」
「「くっハハハハハ、どっちもバケモノです(だな)」」
「さて、牙狼拳の答え合わせだが………至ってシンプルだ。回避した瞬間に爪を伸ばしるだけなんだろう?それも、瞬速でな。俺じゃなかったら真っ二つだぞ」
シャルロットが自分の血を見て答える。そして、自分の血を微笑みながらペロッと美味しそうに舐めた。すると、細かい無数の傷痕がみるみると塞がっていく。
「スキル……いや、この感じは魔法━━回復系魔法か?それも違う気が………」
通常は、こんな短時間で傷が塞がる訳がないのだが………
「ほう、獣人は魔法に疎いと聞くが魔法に詳しいみたいだな」
「えぇ、儂が側に仕えてる方のお陰で詳しくなりましてな」
グリムが側に仕える方━━━魔王フランシスカ(フラン)の事を言ってるのだろう。
「だから、釈然としないのじゃ。回復系魔法としては呪文がないし、光や水の感じでは無かった………そうすると、普通では無いが………強化系魔法か?それにしては速すぎるし………ブツブツ」
まるで、フランの様に魔法の分析する。だが、答えはさっき言った中にあったのだが━━━
「フッハハハハハ、強化系魔法で正解だ。さすが、あの希代の大賢者の側近のだけはあるな」
希代の大賢者とは、魔法を携わる者や魔法使いならば知らない者はいないと言っても過言ではない、フランの数ある二ツ名である。もしも、ワタルの耳に入れば大爆笑するかもしれない。
「なんと!強化系魔法でしたか。しかし、それでも釈然としませんな。自然治癒力を強化しても、そんなに速く治るはずはありますまい」
「普通ならな」
「ま、まさか!」
グリムが大袈裟にリアクションをすると、シャルロットは上機嫌になり、饒舌となっていった。意外とチョロい?
「そうだ、俺は強化系魔法を極限まで高めている。俺には強化系しか魔法適性が無かったからな。だが、そのお陰で極められたのも事実だ。
強化系魔法は他の魔法と違って呪文を唱える必要無いしな。シンプル・イズ・ベストとは良く言ったものだ」
「いえ、しかしいくら強化系魔法でも魔法名は言うはずです。まさか、無詠唱をしてるのですか!」
武神が、まさかの魔法通とはグリムでも驚きを隠せない。ただの格闘バカでは無かったと考え直す事にした。
「何か失礼な事を思われたような感じがするが、その通りだ。無詠唱をしてる。その方が速くて俺の闘い方に合ってるからな」
無詠唱とは、別に詠唱をしてない訳ではない。口で言うのではなく、頭の中で思い浮かべるのだ。
実際に口で言うのと、頭の中に思い浮かべるのでは、頭の中で思い浮かべる方が断然難しい。ただし、難しい分発動が速いメリットもある。
「確かに驚きはしたが、所詮は強化だ。これなら、強化した治癒力でも追い付けまい」
「チェストぉぉぉ」とグリムは叫びながら、シャルロットの懐に飛び込むと、剥き出しの腹に向けて牙狼拳を放った。
だが、鋭く尖った爪は腹に食い込むが途中で止まる。
「なに!これ以上獣人の腕力で刺さらないだと、バケモノか!」
腹筋だけでグリムの右手を止めたのだ。しかも、抜こうとしても抜けない。致命的なミスだ。武神がこんな大きな隙を作るはずがないのに、勝ちを焦ってしまった。
「これで逃げられないわね」
シャルロットは両腕をおもいっきり拡げ、抱きつく様にグリムの背中に廻しホールドした。
「これでお仕舞い。死神の抱擁」
抱きつく形で徐々に腕の力を強めていき、最終的には相手が全身の骨が砕け血を吹き出すのである。まるで、死神がグリムの首筋に死の鎌を突きつけるように………
「うおぉぉぉぉ、くそ、この腕を解け」
全身に力を込めるが、シャルロットの腕力が益々増していきギシギシと骨が軋む音が鳴り響く。これ以上は死のカウントダウンまで間もなくだ。
「くそが、こんなところで死んでたまるか。奥の手を出すか。本当は使いたくなかったが、腹に背は変えられない」
グリムの全身の毛が、猫の逆毛が立つかの如く毛が剣山の様に硬く立っている。