43話ムライア王国間戦争会議
獣王テンガの城に来たワタルは戦争の主要人が集まってるであろう会議室に向かった。
「おっ、みんな集まってるな」
「ワタル、遅いぞ。何処で道草くっていたのじゃ」
プンスカと怒るフランだがワタルにとっては怒る姿も可愛く見えてしまう。
「まぁまぁ、ごめんごめん。それよりも、何で此処に黒猫がいるんだ?」
「んーにゃ?ピーンと此処にいた方にゃ面白いと思ったからにゃ。猫は気まぐれなのにゃ」
はぁ、しょうがないな。黒猫が気まぐれなのは今始まった事じゃないしな。
「ワタル殿、会議を初めてもよろしいか?」
「テンガ、待たせて悪いな。初めても大丈夫だ」
「では、始めさせてもらう。戦争の流れは幽源の原の真ん中で獣王である儂とムライア王が少数の護衛を連れて行く。そこで、お互いに宣誓の言葉を述べたら、お互いの陣地に戻ると戦争開始じゃ」
「勝利条件は?まさか、どちらかが全滅するまで戦うのか?」
「夕刻までに参加人数の比率で生存者の割合が高い方が勝ちだ」
なるほど、確か獣王国オウガの参加人数が約千人、ムライア王国が王国兵士と募集した冒険者と傭兵を合わせて約一万人~五万人になる。
こちらは一人に付き最高五人を相手にするのか、人間よりも獣人の方が身体能力数倍高いしこれくらいではハンデにもならないか。俺は人間だけどね。
「ふむ、フランあっちの様子はどうだ?」
「巨大魔力砲は完成したそうなのじゃ。じゃが、それは妾が防ぐので問題ない」
世界最強の魔王が防ぐのだ。こんなに頼もしいことはないだろう。
「問題はそこじゃない。見間違いではなければ、Sランク冒険者がもう一人参加するやもしれぬ」
『!!』
会議室にいる全員が一斉に驚愕する。これでSランクは二人になった。
「誰なのだ?」
「武神シャルロット━━━拳一つでSランクに掛け上がった強者じゃな」
「何で彼奴が……むしろ、こんな政には無関心のはずだが」
「どうやら……ムライア王の娘だったのじゃ」
あの豚王に娘が二人だと!信じられない。一体全体どうなっているんだDNAは。
一回だけ雷姫に、フランの遠視魔法で見せて貰ったが豚王には一切合切似ていない。むしろ、街に歩いていたら十人が十人振り向くであろう美貌の持ち主だった。
「あの豚王には三人娘いるらしくてな、その三人目の娘も参加するらしいのじゃ」
なんだと!三姉妹だと!二人だけでも信じられないのに三人もいるのか。この世はどうなってしまったのか。
「ワタル殿、驚愕するのは分かるが先を進めてもよろしいか?」
「ああ、悪い。あまりの現実に頭が混乱していた」
「おそらく、この三姉妹が一番の戦力になると思われる。誰が相手をするかだが………」
「武神は儂がお相手しよう」
「大丈夫か?相手はSランクだぞ」
「なーに、儂とて魔王フランシスカ様の側近を支えてきたんじゃ。それに、ランクは人間が独自につけた物じゃし、どれ程信頼出来るかこの際に見切わせてもらう」
「それじゃ、武神はグリムに任せるとして、後の二人は━━━」
「はいはーい、私が風姫の方をやるにゃ」
意外なヤツが自ら立候補してきた。不信な目でワタルが黒猫を━━━いや、会議室にいる全員が黒猫を見詰めていた。本当に信頼がない黒猫である。やる時はやるが、やらない時は本当にやらないからな。
「みんな酷いにゃ。私にゃってやる時はやるにゃ」
それは分かってるんだけど、やる時とやらない時の差が雲泥の差だしな。
「本当に任せても良いんだな?」
「言ったからには任せるにゃ。猫に二言はないにゃ」
「そこまで言うのなら任せるとしよう。ただし、やらなかったら………」
「分かってるにゃ。分かってるにゃから、そんな目で見ないでくれにゃ」
ワタルに冷えた目で見られ居心地が悪くてソッポを向く黒猫。
「はぁ、それじゃ雷姫を俺が戦う」
「儂は?」
「テンガは大将なんだから陣地に居てくれ。けして、自分から戦おうとするなよ」
ショボーンとイジケテいる。
「戦えないのか」
「当たり前だ。大将は陣地でふんぞり返っていればいいんだよ」
「どうにかならないか?」
「ならねぇよ。それで負けたらどうすんだ」
うぐっと言葉を詰まるテンガ。
「先に進めるがいいな。次は近衛兵の育ち具合だが━━━報告を」
「うむ、儂からは期限が短いため納得はしてないがギリギリ合格点と言ったとこだ。武器もワタル殿が調達してくれたお陰で充分にですぞ」
「次は私だね。私の諜報兼工作部隊はどうにか私について来れるにはなったね。ワタルが考案した爆弾の使い方も叩き込んだから完璧だよ」
相手が人間の国ならそれで充分だろう。全員がセツナの足について行けるなら人間にとっては地獄だろうな。ミレイヌには存在しなかった爆弾もムライア王国には脅威になるだろう。その代わりにあっちには魔法があるのだからおあいこである。
「よし、良くやってくれた。後は本番を待つのみだ」
「ワタルに誉められたよ」
バサバサとセツナの喜びに共鳴するかの様に尻尾が大きく振られる。その尻尾がワタルの背中に当たり、痛いの四割くすぐったいの六割程だ。
「セツナ部隊に作戦の一つとして頼みたい事がある」
「セツナ部隊………何か響きが格好いいの。それで何?」
「戦争当日、諜報兼工作活動やりながらで良いから豚王と王妃、可能なら幹部達を戦争が終わり次第に俺の目の前に連れて来れる様にしておいてくれ」
「了解です」
これで会議は終了し、本当に明後日を待つのみになった。