38話Sランク商人としての初仕事
タルは朝食を早々に済ませ、Sランク商人キャロと会う約束をした商会ワタル((仮)で元商会キャットテール)獣王国ガオウ支店に来ていた。
「いらっしゃいませ。あっ、会長」
「キャロと約束してるのだがいるか?」
「はーい、ただいま」
店員が急ぎ足で階段を昇っていき、数秒後キャロが姿を現した。
「会長、お待たせしましたの」
キャロがワタルにお辞儀をし、二階の部屋へと案内した。まぁ、所謂執務室的な部屋だ。
「どうぞ、こちらにお座り下さい。昨日、約束しましたが今日はどのようなご用件ですの?」
「まずは、戦争まで日がそんなに無いというか三日後だ。武器の調達は出来てるのか?」
「はい、既に城に配達済みであります」
「そうか、ご苦労。次に確認だが、初めて会った時の事を覚えてるか?」
「はい、今でも目を瞑ると鮮明に思い出せます。あれは運命な出逢いでしたわ」
キャロが目を瞑りワタルと出逢った事を思い出してるのだろう。何故か時折、頬を赤く染めるのだが、嫌な予感しかしないので敢えてスルーしとく。
「その時に渡した遊具が何個か合ったろ?それは、どのくらい拡散しているのだ?」
「あれは………それはもう全国的に遊ばれてますのよ。はい」
どれくらいの売上とどこで何個売れたかの書類を見せてくれるまで、こんな短時間でそんなに売れないだろうと思っていたが、先日自分の口座の残高を確認した事を忘れていたワタルは再度驚くことになった。いや、口座の残高を確認したよりも驚く。
「この短時間でここまでよく広まったものだな」
ワタルが驚いたのは売上よりも、その売れた場所の分布である。全国というよりも世界中に━━━世界地図に書かれてる国々全てが真っ赤になっていた。
「はい、お陰様で売上は未だに上昇中嬉しい限りですの」
「もちろん、ムライア王国の王族にも広まってるか」
「はいですの。流行には敏感で夢中になってると聞いておりますの。一般人より数倍高く購入して頂き、私共はウハウハですわ」
「そうか、なら使えるな」
「あら、何かする気ですの」
「なーに、ムライア王国はその流行とやらに死ぬ事になるとはなと思ってな」
「………??」
何の事か分からないと首を傾げるキャロを見たワタルは簡潔に説明したというか省いた。
「簡単に言うとな、キャロのお陰でこの戦争に勝てるという事だ」
「何の事か分かりませが、役に立てて嬉しゅうござます。それなら………」
キャロは席を立ちワタルの横に腰を下ろし、腕を組み顔をワタルの肩に軽く乗せた。
「我が儘なのは重々承知ですが………私を一人の女として見て頂けないでしょうか」
キャロの突然の告白にワタルは数秒間、頭が真っ白になりキャロの腕を払い立ち上がった。
「………悪い、俺帰るわ」
執務室の扉へと歩くとキャロが止めた。
「ま、待って下さい」
ワタルの背中から腕を回し抱きしめ、ワタルの背中にはキャロの形が良い胸を変え当たる。男だったら興奮する場面だろうが━━━
「うおぉぉーりゃあぁぁーー」
「えっ!ぎゃあぁぁーー」
きっ決まったあぁぁぁーーーー、スーーープレックスだあぁぁーーー。
「ぐへぇ?!」
キャロがワタルを抱きしめたまま、後ろに海老反りにワタルの頭から床に頭からダイブすると『ぼきっ』と何か鳴ったらいけない音がなった。
「きゃあぁぁーー、会長ーーー」
ワタルの首が変な方向に曲がっており、辛うじて息はしてるがキャロが揺すっても起きない。
実はただ気絶しているのではなく、いつも通りに"精神と魂の狭間"に行っていた。
━━━━精神と魂の狭間━━━━
「うっ………ここは………何かで気絶したのか。でも、どうして気絶したのか思い出せない」
思い出そうと考えると頭痛がして思考が停止する。ここから帰ってからキャロ聞いて見ることにした。キャロ自身が原因なので話すとは到底思えないがアユムはそのことを知らない。
どうしても、思い出せないので歩こうとしたところに二人分の足音が聞こえてきた。シズカとルルだろうか?
「アユム、また会えて嬉しい」
「うれしい」
「あぁ、俺も嬉しいよ。なぁ、何で俺が気絶したのか分かるか?」
「「…………」」
シズカとルルはお互い顔を見合わせフルフルと「知らない」と答えた。
チョンチョンとルルがシズカの袖を引っ張った。
(ねぇ、アユムに言わなくてもいいの?)
おそらく、この二人は名前は知らないがアユムが気絶した原因を知ってる。ルルはその事をアユムに伝えなくても良いのかとシズカに相談する。
(………知らない方が幸せな事もあるんだよ)
まるで大人な事を言うシズカにルルは頭に「???」を浮かべ首を傾ける。
「うん?どうした、二人共」
「「何でもない」」
「そうか、それよりも首の辺りが痛いんだよな」
「ギクッ………ここに来る時にでもぶつけたんじゃないかな」
「そうなのかな?」
「そうなんだよ。それよりも、今日はお土産ないの?」
シズカは話題を反らそうと必死のとアユムがいつも持ってくるお土産屋━━━美味しいお菓子に目がないのだ。これで話題が反れれば万々歳なのだ。
ルルも前回食べたチョコの味が忘れられないのか、あんまり表情豊かな方ではないのだが目が星がキラキラと出そうな程輝かせている。
ワタルはそう言われゴソゴソと宝部屋の中を探すのである。




