33話精神と魂の狭間の新な住人
━━━精神と魂の狭間━━━
「うっ・・・・ここは精神と魂の狭間か。さてと、シズカはどこにいるかな?」
周りを見渡すと距離は分からないが、うっすらと炎っぽい明かりが見えた。
その場所から動かないでいたら炎の明かりが徐々に大きくなっていく事に声が聞こえて来る。
「アユムー、どこー?」
「ここだよー、シズカ」
「アユム、えへへへっ」
アユムを見つけると走り、アユムの胸に飛び込んでアユムを押し倒した。
「痛たたたたっ、シズカ大丈夫かい?」
「うん、アユムが受け止めてくれたからね。えへへへっ」
アユムはシズカを起こす時に、もう一人シズカと同じ位に幼い少女が立っていた。
「シズカ、この子はいったい?」
「うん、あのね。突然現れたの」
「突然現れた?」
「うん、急に目の前に現れたの。いきなりだったからビックリしたよ」
急に目の前に人が現れたら驚くわな。さて、この女の子は誰なのか聞いてみるか。
「君の名前は何て言うのかな?」
「???」
意味が分からないのか首を横に傾ける目の前の女の子。良く見たらルリに似ていた。ルリを幼くしたような女の子だ。
アユムの頭にある考えが浮かんだ。
(もしかしたら、契約を結ぶとその人が幼くなった感じの子が精神と魂の狭間に現れるのか?)
「その考え合ってると思うよ。アユム」
「また、俺の心の声を聞いたのか」
「てへっ、ごめんね」
「この子の心の声は聞けるか?」
「えーとね、名前の意味が分からないみたい」
そう聞くとアユムはルリ似の女の子に向き直り、目線を合わせてコミュニケーションを取れるか試してみた。
「声は出せるかい?」
ルリ似の女の子に聞いたらコクンと頷いた。
「ここはどこ?」
「ここは精神と魂の狭間っていう所だ」
「名前ってなーに?」
「えーと、物や人を呼ぶ時に何て言って呼んだら良いか困るだろう。名前が合ったらどんな物とか誰なのかとか分かり安くするのが名前だ。例えば、俺はアユムでこの子がシズカだ」
ナデナデとシズカの頭を撫でる。
「ゴロゴロにゃー、アユムの手気持ち良い」
シズカが気持ちよさそうに体をアユムに委ねてるので撫でるのを続行する。
「今の説明で分かったかい?」
当たり前の事を説明するのは難しい。例えば、掛け算や割り算を微分積分で説明するみたいなものだと思う。
「なんとなく・・・・分かった」
「そうか・・・・もし、名前が欲しいなら俺・アユムやシズカみたいに名前をプレゼントしてあげる」
何か良い名前がないか考えるアユム━━━━単純だが、ルリと契約して生まれた子だ。この名前しか思いつかなかった。
「ルル・・・・君の名前はルルだ」
ただ、最後の文字をずらしただけだ。
「ルル・・・・私の名前はルル」
何度も噛み締めながら自分のルルと言う名前を繰り返しす。
「ありがとう、このルルと言う名前・・・・大事にする」
そう言った瞬間、ルルの目元から涙がスーっと垂れていた。
「あれ、おかしいな。何故か涙が流れるよ」
「きっと、それは嬉しいからだよ」
ポンポンとアユムの手がルルの頭に乗せられる。
「嬉しい?嬉しくても涙って出るの?」
「あぁ、そうだよ。悲しいだけじゃなくて、嬉しくても出るんだよ」
「うっ、うぇぇぇぇん」
涙腺が決壊した様にルルの涙が次々と溢れて、アユムの胸元に抱きついた。アユムはルルが落ち着くまで自分の胸を貸した。
「グスンっ」
「ほらっ、チーンって」
「チーン」
ポケットからティッシュを取り出し、ルルの鼻水を拭いてやった。
「ありがとう、アユム」
「アユムは優しいんだよ」
「今日はお土産あるんだ」
お土産と聞いたシズカは目をキラキラと期待し、一方ルルは何の事だか分からないと首を横に傾ける。
「ルル、口をあーんと開けて」
ルルの口に暗褐色の物体をポイっと放り投げた。パクっと口を閉じたルルは幸せそうな顔して味わっている。
「んー、甘くてとろけて美味しい」
「アユム!私も」
ルルと同じく口をあーんと開け待っている。ポイっと放り投げるとシズカも幸せそうな顔でうっとりと微笑んでいる。まるで、小動物の餌付けしてるみたいで、アユムも楽しくなってきた。無くなるまであげ続けたのである。
「アユム、今度来る時もこれ持ってきて欲しい」
「私も賛成なの」
「あぁ、分かった。これはチョコレートって言うんだよ」
「チョコレート、覚えた」
「チョコレート甘くて美味しいね」
シズカはチョコの美味しさの余韻に浸ってるのか口の周りを舌でなめている。
「さて、次はこれをやろうか」
アユムが懐から出したのはチェス盤とチェスの駒である。
「チェスと言う遊戯だよ」
ルルにチェスのルールをやりながら教えた。
「はい、チェックメイト」
「むぅー、悔しい。もう一回」
「アユム、大人気ないの」
ルルの希望通りにもう一度勝負してみた。この時ルルの目付きが変わったのを見逃し後悔する事になる。
「アユム、チェック」
「なにっ!」
「アユム、流石に手を抜き過ぎだと思うの」
いや、そんなはずはない。油断はあったかもしれないが二回目で負けるなと合ってたまるか!
「なら、ここだ」
キングを逃がすアユム、だがそれも罠だった。
「アユム、チェックメイト」
「なっ!」
「アユム、大人気ないと言ったけど、流石にそれはないよ」
シズカはまだ分かってない。ルルは一回のプレイでルールを全て理解し、十や二十ではきかない程読んでいたのだ。
「手を抜いていたのか、シズカやってみな。きっと負けるから」
「あっはははは、そんなはずないよ。よし、先輩の意地を見せるよ」
「シズカ先輩、よろしくお願いします」
アユムはルルがニヤリと口角を上げたのを見逃さなかった。
最初はシズカが有利だと思いきや数分後、ルルがシズカを追い詰めていた。
「ちょっ、タンマ━━━」
「タンマは無しです。チェックメイト」
「なーーーー!私の先輩の威厳が」
まぁ、元々無いと思うけど・・・・
そして、シズカがルルに勝つまでチェスは続くのである。