32話ルリと契約する
トントン━━━━
「はーい、いらっしゃい。一人で来たようじゃの」
扉の外に誰もいない事を確認するルリ。
「それで何か用ですか?」
「あら、何か用がないと呼んだらだめかの?ワタルの嫁なのじゃし」
「いえ、呼んでくれて光栄です。しかし、フラン達に秘密で来たのが後ろめたいですけど」
そう言ったら背筋がブルッと悪寒が走った。
「あぅ、フランは怖いの・・・・たが、実は用があるのじゃ。我とも契約をやらんか?フランだけじゃズルいのじゃ」
幼い子供の様に駄々をこねる。逆にそれが普段の麗しい姿とギャップがあり、可愛いく思ってしまう。
「わ、分かりました。それで、俺がルリの血を飲めば良いのか?」
「うむ、それで合ってるのじゃ。直ぐやるか?」
「あぁ、血を飲むのは何回やっても慣れないな」
ルリは自分の人指し指を尖った爪て軽く切りワタルの口元に差し出した。血が人差し指をスーっと垂れてきたところでワタルが口に含んだ。
「チロッチュー・・・・ゴックン」
ドクンッドクン━━━ワタルの心臓の脈が早くなっていき体が暑苦しく立っているだけでも辛くバタンと床に倒れこんでしまった。
━━━夜王城の門外━━━
「あれ、ワタルはどこなのじゃ」
「そういえば、どこにいったんだろう」
「にゃんかコソコソとしていたよーにゃ」
「何で言わぬか!」
「あれ、魔王様方どうしました?」
「うん?そなたはキャロか。ワタルが何処かに行ってしまったのじゃ。まったく、妾に黙って後でお仕置きなのじゃ」
「ヤッハハハハ、会長も大変ですな。ふむ、私の魔眼でお調べしましょうか?」
「確か千里眼だったな。頼めるかの?」
「アイアイサー」
キャロは眼を瞑ると集中する。そして、数秒後眼を開けた。見つけたようだ。
「おや、どうやらルリ・ブラッド様のお部屋にいるもようですな。会長はなんか倒れてるようです・・・よ」
それを聞いたフランの周りにはドス黒いオーラが纏わりついてる。誰から見ても怒ってる。めっちゃ怒ってる。
「・・・・ワタルを迎えに行くが誰かついてくるか?」
「「「「いえいえ、行ってらしゃいませ」」」」
「そうか、では行ってくる」
フランが夜王城に戻ったのを確認すると━━━
「ぷはー、久しぶりだにゃ。あんにゃフランを見るのは、チビるとこだったにゃ」
へにゃへにゃと腰が抜けて座り込む黒猫。
「ハァハァ、まるでヘビに睨まれたカエルの気分ですよ。全く動けなかったです」
「魔王様が世界最強と言われる所以が分かった気がします」
Sランク商人キャロもさすがに死の覚悟をしたみたいだ。というか、冒険者やセツナ達と同じ武闘派ではないから、よく気絶しなかったもんだとセツナや黒猫は関心していた。
━━━ルリの部屋━━━
「こらー、この吸血魔何やっとんのじゃー」
扉を思いっきし蹴りぶっ壊してフランは入って来た。ぶっ壊れた扉はクルクルと飛んでいき、ベランダの窓ガラスを割り外に落ちていった。それを見ていたルリのこめかみに血管が浮き出て、明らかに怒っている。
「それはこっちのセリフじゃ!なに人の扉を壊してねん。このロリババア」
「なんじゃと、それを言うからお前もババアではないか!それにワタルに何をした!」
「これはワタルも了承したことよ。我と契約したのじゃ。そなたと同じようにな」
髪を掻き分けフランに指を指して言う。
「なっ!なんじゃと!」
信じられない気持ちでベッドに横たわるワタルとルリを向後に見て複雑な気分になっている。
今まではワタルと"契約"していたのはフランのみで、それでいて二人共に初めての行為で尊い物だったのをルリは汚したのだ。ただし、怒りはあるがワタルも了承してるのだ。
ワタルが強くなるのは嬉しいが、やっぱり嫉妬で怒りを感じる。嬉しさ半分、怒り半分で葛藤している。
「くっ、ワタルが了承したのじゃ。本当は嫌、嫌なのじゃが妾がおれるとしよう。それで、ワタルは大丈夫なのじゃろうな」
「えぇ、フランも契約をしたからわかってると思うけど、契約とは血を飲ました相手の体の構造を組み変える行為と言う事じゃな」
えっ!そうなのと今知ったと言う様な表情になるフラン。
「おいっ、魔王とあろう者が何で知らないのじゃ」
「だ、だってワタルが初めてで知らなかっただもん」
「はぁー、我々の様に魔族や吸血鬼等なら契約しても気絶しないだろうが、ワタルは人間じゃ。普通は耐えられずに死んでしまうはずじゃ」
あっ、そうなの。ヤベー!そうなると初めて会った日に死んでいてもおかしくなかったのか。
「・・・・・・・うん?死んでもおかしく無いのにお前はワタルに飲ませたのか?」
最初はルリの説明で脂汗をかいていたフランだが、ふと疑問に思った事を聞いてみた。
「ワタルが誰とも未契約なら我とてしなかったのじゃよ。しかし、すでにフランと契約していたお陰でワタルの体の構造は組み変わっていた。それで、気絶だけですんでると言う訳じゃな」
「うぅー、ワタルは無事なんじゃな」
「あぁ、無事じゃとも」
改めてワタルが無事だと知り、うっすらと目元に涙が溢れる寸前だった。