29話タナトスの戴冠式・前編
夜王城で次期夜の王・タナトスの戴冠式当日、ワタル一行も訪れていた。
「あっ、テンガだ。おーい」
「おっ、ワタル殿も来たのだな」
「おい、妾もいるんじゃがな。テン坊」
「わ、わかっておるわい。魔王よ、そう威圧するではない」
フランの威圧にビビるテンガ。
「それにしても、まさに馬子にも衣装だな。ドレスを着るとこうまで代わるとは━━━」
「あぁん、何か言ったか?テン坊よ。耳が遠くて聞こえなかったが、もう一回言ってくれぬか」
「な、何にも言ってないぞ!」
フランやセツナ、普段着物を崩して着ている黒猫も珍しくドレスを着ている。
これらは全てワタルが通販でお金は掛かったものの取り寄せたのである。
「テンガ、余計な事は言うなよ。命がいくつあっても足りないぞ。俺が選んだんだ。似合わないはずないだろう」
「あ、あぁそうだな」
「何二人してコソコソ話してるのじゃ?」
「いやなに、フランのドレス姿とても似合ってると話してただけだよ。いやー、俺の目は間違いではなかった。フランは何着ても似合うな」
「そ、そうか!当たり前じゃ。妾はワタルの妻じゃぞ」
そんな話を聞いていたテンガは『何だこのバカップル━━━いや、バカ夫婦』と若干引いてた。
「ワタル、私はどうかな・・・少し下がスースーするけど」
「うん、セツナも似合ってるな。普段はもっと露出が多いくノ一衣装着てるのに、ドレスの方が露出少ないと思うけど・・・」
「す、スカートは履きなれないの。うー、スースーして落ち着かないよ」
「まぁ、その内慣れるだろ」
慣れるまで時間はいるだろうが、スカートを押さえるため若干前のめりになって胸の谷間がチラチラ見え少しエロく見えてしまう。ワタルはそれを他人に見せたくないため、然り気無くガードするのである。
「ニャハハハハ、みんな落ち着きがないなゃ。この流れからワタシも聞くにゃ。ワタル、ワタシはどうかにゃ」
「普段の黒猫を知ってると、見違えたほどに変わるものだね」
「それは褒め言葉かにゃ?似合ってるのかにゃ」
「あぁ、似合ってる似合ってる」
「普段からグータラしてるから余計にそう見えるのよ・・・ボソッ」
「あぁん、にゃにか言ったかにゃ?」
「何も言ってないわよ」
セツナ、余計な事言うな。俺もそう思ってるが敢えて口に出さずにしてるのに。
「マスター、私はどうでしょう?」
みんなにつられてか桜花までも聞いてきた。
「普段は黒猫と同じで着物だけど、新鮮味があって良いな。大和撫子みたいだ。」
「あ、ありがとうございます」
「グリム、大和撫子ってなんじゃ?」
「確か女性の容姿に対する褒め言葉だと記憶しております」
「私も大和撫子と呼ばれてみたいのです」
「「ジーーーー」」
「・・・・今さら呼んでもしょうがないだろうし、後で別の形で━━━」
「「やったー」」
フランとセツナはグッジョブと親指を立てた。
ワタルは早まったと後悔するが、フランとセツナなら『まぁ、良いか』と自分の嫁には甘いのである。
「それにゃら、ワタシもご相伴にあずかるにゃん」
「なんで、黒猫まで━━━━」
「二人だけズルいにゃん。ワタシだけ遊びだったのにゃん?」
「ぐっ、しょうがないな」
「やったにゃん」
「おっ、ワタル殿もうそろそろ始まるそうですぞ」
司会進行役の吸血鬼が現れた。
『皆様、大変忙しいところをお越し頂きありがとうございます。ただいまから、タナトス・ブラッド様の戴冠式を開催いたします。それでは、タナトス・ブラッド様のご入場でございます』
右奥の扉が開き、王子らしく綺麗な身嗜みでマントを羽織ってるタナトスがゆっくりと歩きながら登場した。
吸血鬼なので違うだろうが神官ぽい衣装を着た吸血鬼の前までタナトスは進み片膝を床につき頭を下げた。
『タナトス・ブラッドは邪悪なる資質に対し魔神の御前での戴冠の儀を以て、我はこの者に獣王国オウガ夜の王と宣言する』
王冠が運ばれタナトスの前で停まると神官が王冠をタナトスの頭に被せ一メートルはありそうな大剣を両手で垂直に構えた。
大剣の腹をタナトスの右肩に触れる形で数秒間静止し、大剣を起こす。これにて戴冠式は終わりである。
出席した皆の拍手が反響するとタナトスは立ち上がり、この場を後にする。
「いやー、戴冠式初めて見たけど圧巻だったな」
「フッフーン、妾の戴冠式の方が凄かったのじゃ。ワタルにも見せたかったのじゃ」
「何年前の話してるのにゃ。もう、100年前にゃ。ババアなのを自覚してるにゃ?」
おい、黒猫それ禁句ではないか!とワタルは思うが遅かった。どんな世界でも年齢に関する事は禁句なのは変わらない。
「・・・・うふふふふふ」
ただ笑ってるはずなのに周囲の気温が-10℃は下がった気がする。
「黒猫、後でお仕置きなのじゃ」
「にゃ!にゃんで」
えっ!何で驚く。明らかに自分のせいなのに。口は災いの元だ。
数分間、話してるとタナトスが去った右奥の扉が開き、様々な楽器持った吸血鬼達が入って、それぞれの配置に着くと演奏が始まった。舞踏会の始まりである。