25話桜花の紅茶
魔力痛の痛みが引き翌日には起き上がれるようになったワタル。
誰よりも早く起き着替え朝食を桜花と共に作ってる最中だ。
「マスター、これで良いですか?」
「そうそう、上手じゃないか」
「あ、ありがとうございます。マスター」
紅茶を淹れる桜花は、まるで花の周りを飛ぶ蝶のように美しい。
最初はぎこちない様子で紅茶を恐る恐る淹れていたが、ワタルが先生となり、今となっては高級店並みに上達していた。今はまだ紅茶しか淹れられないが、これこらもワタルが持てる料理技術を教えていくつもりだ。それが桜花の願いだ。
「あ、ワタルもう大丈夫なのか?」
「あぁ、もう嘘のように痛くないな」
まだ、眠気が抜けないフランが一階に降りて来た。心配そうな顔でワタルの胸元に顔を押し付け抱き付いてきた。小動物のようで可愛い。
「そう、良かったの。ん、この匂いは紅茶か?」
「そうそう、桜花が淹れたんだよ。修行の成果を見てくれ」
「ほぉ、どれどれ....」
「どうですか?フラン様」
ドキドキっバグバクと緊張している。こっちまで桜花の心音が聴こえてきそうだ。
「これは!!」
驚愕に表情でもう一度口を含むと━━━
「うわぁー、何だこれは!これが紅茶なのか。フルーツのような香りに滑らかな口当たりと爽やかな渋み。もしかして、最高級の茶葉を使ってるのじゃな?」
舌には自信満々とあるふうに答えるフラン。
「いや、安物の紅茶だよ。桜花の淹れ方がプロ並みなんだよ。いや~、本当に教えがいがあったな」
「本当なのか!これが安物だと!」
「あぁ、淹れ方が悪いと最高級でも不味くなるさ。これは桜花の淹れ方が良かったのさ」
「ま、マスター褒めすぎです」
満更でもない様子で微かに頬を紅く染める桜花。
「そうか!それでは、他の料理も楽しみじゃのー」
「いや、それはまだ━━━━紅茶の淹れ方しか教えてないから無理だ。これから教えていくつもりだから味見を頼む」
「そうか残念じゃの。これからの楽しみが増えたと考えて我慢するかの。それで今回はなんじゃ?」
・朝食メニュー
・具たくさんのホットサンド
・ふわふわトロトロのオムレツ
・イチゴのムース
・桜花の紅茶
「━━━になります」
「ほぉ、なるほどの。妾はこのホットサンドが気になるのじゃ。サンドイッチがどうやったら温かくなるのか想像が出来ん。早よう出せ。気になって我慢出来ん」
「もう少し待てって。もうそろそろ、みんなが起きてくるから」
そう話してるとバタバタとダイニングに向かってくる音が複数聴こえてきた。
「おはようございます。フラン様、ワタル殿」
「ふにゃー、おはようにゃ。ふわー、まだ眠いにゃ」
「おはよう、ワタル。今日は早いのよ。せっかく、何時もの朝みたいにキスしようとしたのに」
おい、ちょっと待て!いつもの朝だと言ったか。
「おい、セツナいつもの朝とはどういう事だ?」
ワタルの言葉にセツナがギクッとビクつき、「あっ、しまった」とつい口が滑った事に気付き、キョロキョロと目が泳ぎ始めた。
「な、何のことかな?」
今さら惚けるセツナ。みんなが聞いているから後の祭である。
「ほぉ、今さら惚けるのか。そうかそうか、じゃあしょうがないね」
ワタルの言葉にホッとするのも束の間、ワタルの次に発した言葉に固まった。
「黒猫みたいに"言霊"を付加しようか」
「おぉ~、それは良いかもしれないの」
フランがニヤニヤしながら言う。
「フラン様、ワタル様それはご勘弁を。黒猫のバカみたいには成りたくないです」
フランとワタルに土下座をして謝罪する。黒猫の二の舞にはなりたくない。
「この小娘、にゃにか言ったにゃ!」
「五月蝿いわね。静かにしてよ、この猫ババァ」
「にゃ、にゃにゃにゃにゃ!このワタシをババァ呼ばわりにゃと」
憤慨する黒猫に対しセツナと言うと━━━
「お前なんかババァで充分よ。やり過ぎでワタルに"言霊"をかけられたくせに」
「ぐぬぬぬぬっ」
まだ、セツナと黒猫が言い争いを止める気配がないので、ワタルの額に血管が浮き出てキレる寸前である。
それに気づいたフランは止めようとするが、既に遅し。
「おい、お前らいい加減にしろ!」
セツナと黒猫の頭上にワタル拳骨がクリームヒットした。
「「痛っ!!」」
セツナと黒猫共に頭を押さえ涙目でうずくまっている。まるで、生まれたての小鹿のようだ。
「せっかくの料理が冷めるだろうが!いつまで喧嘩してんだ。二人共に一生"言霊"をかけてやろうか」
「「それだけはご勘弁を」」
「なら、席につけ。ご飯にするぞ。フランとグリムは席に着いて待ってるんだ」
((い、いつのまに!))
「まったく、セツナと黒猫が口喧嘩したせいで少し冷めたじゃないか。でも、さすがワタルじゃの。冷めても美味しいのじゃ。このホットサンドとやらは外はカリカリで中は様々な具材で色んな味が混ざり合い、何とも言えぬ味じゃの」
「これは!!この紅茶もワタル殿が淹れたのか?」
「いいえ、これは桜花が淹れました。俺が教えました。まさか、ここまでになるとは驚きました」
「ま、マスター褒めすぎです」
「いやいや、本当に美味しいですぞ。桜花殿、また淹れてくれると嬉しいですな」
ウンウンとみんなで頷いている。
「みんなして本当に褒めすぎですよーー」
桜花は照れすぎてダイニングからピューンと出ていってしまった。
最初の頃の桜花は無表情に近い感情を表に出さない性格だったが、最近は感情を出せるようになり今のように照れたりするようになった。
「まぁ~、俺から見たらまだだけどね」
「厳しいのー。これで充分じゃと思うのじゃが━━━」
「俺も味や香りは申し分もないと思うよ。だけど、問題は応用がきくのかのとオリジナリティーだね。この二つが出来れば、もう教えることはないね」
「ほぅ、なるほどの」
「ちと、厳しすぎやせんか?ワタル殿」
「桜花からの願いなんだ。自分から教えて欲しいと━━━なら、教えるからには俺の持てる料理の技術をたたき込んでやるつもりだ」
桜花の話で盛り上がってる内に食事は終わり、ワタルと戻ってきた桜花で食器の片付けをしている。後のメンバーは席に座ったまま食休みとして紅茶を飲んでいる。
「今日の予定はどうなってるだ?」
「儂とセツナで兵士の戦闘訓練ですぞ。戦争までには、そこそこ使えるようにしてみせますぞ」
「ほどほどにな。それで....黒猫はいつの間にか居ないと。フランは監視だよな」
「そうじゃ。どうやら、ギリギリで兵器が完成するらしいのじゃ。ただ、妾が守るから心配いらないからの」
「そうか。まるで守り神みたいだな」
フラン程に鉄壁の防御を任せる人材は世界中探せど居ないだろう。
「ワタルは今日どうするのじゃ?」
「ん、俺かい?闇反魔法の練習でもしよかと」
「妾も一緒に行ってはダメかの?魔法の事なら妾じゃろ」
「いや、悪いけど一人で練習したいんだ」
ワタルが断るとシュンと落ち込むフランだが、ワタルはすれ違い様にある紙を渡されると嘘のように立ち直った。
ワタルはそのまま出掛け、セツナとグリムは訓練に行ったのである。
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