24話 黒猫に飴と鞭
タナトスとの模擬戦が終わってその日の夜。
タナトスが夜の王になるための戴冠式の準備に時間が掛かるとして2日暇を貰い、夜の女王━━いや、もうすぐで夜の王か。夜の王の城....夜王城を後にし、みんなで家に帰ることにした。
元夜の女王・ルリはタナトスの戴冠式が終わってから合流する事になっている。ルリ本人としては今すぐ行きたい様子だったが、タナトスや周りの従者が止めたのだ。
「ふん~、いろんな事がありすぎて疲れますたな」
背伸びと首をコリコリと鳴らしながら歩いているワタル。
「それにしたも、いつ使えるようになったのじゃ?闇反魔法を。タナトスに使っていたのそうなんじゃろ」
「ん、あれね。黒猫のおかげと言うか原因だね。何をしたかと━━━もごもご」
黒猫がワタルの言葉にビクッと体が反応し、ワタルの背後から口を押さえた。
「まぁ、結果オーライにゃ。にゃははははは」
(背後で黒猫の豊満な胸が当たってラッキーだけど....もうそろそろ息が━━━━)
だんだんワタルの顔が青白く変色していく。
「にゃーーーー、ワタル!」
「ちょっと、黒猫何してんのじゃ」
「ワタル~、しっかりして!」
(あぁ~、意識が遠のいでいく)
意識を完全に手離した。
「うっ、ここは....俺の寝室?何があったけ?」
天井を見上げながら記憶を辿ってみる。
(わざとじゃないと思うけど、黒猫に窒息されそうだった)
スゥスゥ....スヤスヤ
「ワタル~、そこはだめなのじゃ....スヤスヤ」
フランが椅子に座りながら寝言を呟いているのを聞いてしまい、ワタル苦笑している。
寝言からワタルの夢を見てるのは確かだが、明らかにエロい事してそうで怖いな。
「....ツンっツン....起きないな。それにしても、フランの頬っぺた柔らかいな」
ツンツンツンツン
「んにゃ....」
「....」
頬っぺたをツンツンしてる途中で起きてしまい、フランと目が合った。
「ふはぁ~、ワタルやっと起きたのか。心配したぞ」
「看病してくれたようだね。フランありがとう。俺はどのくらい寝てた?」
「んーそうじゃな。一時間くらいかの」
「そうか、みんなに心配させただろうから下に降りよう」
下に降りようと部屋を出ようとした瞬間、フランに肩を捕まれた。
「待つのよ。先ほど私に何をしてたのかな?ちゃんと説明なさい」
ギクッ、しっかりとバレていらしゃっる。つい、調子にのり過ぎたかな。
「あ~えーと、寝てるフランが可愛いくて、つい頬を突っついてしまいました。すみませんでした」
全力で土下座をするワタル。あの獣王や夜の王子を倒したとは思えない程情けなく写る。今の状況を見れば信じられないだろう。
「わ、私が可愛いからやったのだな....それなら許しても....良いかな」
自分が問い質したのに、予想外の言葉に逆に恥ずかしく照れてる様である。
(はっ、妾の寝言は聞かれてないよな。あれを聞かれてたら....ワタルを殺して妾も死のう)
フランがワタルの瞳を覗きこむ。
「ん、なんだい?フラン」
「のう、ワタルよ。私が寝てる時にな。寝言とか言っておらなかったか?」
「寝言?いや聞いてないよ」
本当は聞いたが、直感と言うべきか本能と言うべきか、本当の事を言ったら危険だと察知した。本人には自覚ないが....危機一髪であった。
「あっ、ワタル大丈夫?」
一階に降りてきたワタルを心配そうな声で訪ね抱きつくセツナ。
「心配させて悪かったね。だから、泣かないの」
頭をポンポンと撫でる....いや、モフモフを堪能しながらなだめる。
「....黒猫は....あれ何してるの?」
黒猫が正座してピクリとも動かないので気になった。
「仮のお仕置きじゃ。本当のお仕置きは当事者のワタルが起きてから決めようとなったのじゃよ」
結局、拐われた件は黒猫が原因とされ、それに加え窒息するところだったので致し方ない。
同じく一階に降りてきたフランが説明してくれた。
「....お仕置きか....黒猫、俺の嫁になるか?」
「「なっ!」」
「にゃ!」
ワタルの斜め上な発言に驚愕する。
「ワ、ワタル殿それではお仕置きにはなりますまい」
グリムもそれはさすがに無いと思っていたが━━━
「グリム、それにみんなも、まだ話は終わってないから」
ワタルの話に注目を集まる。
「まずは、返事を聞かせてくれ」
「そ、そそそそれはもちろん、OKにゃ」
「嬉しいよ。では、お仕置きの件だけど━━━」
「にゃ!飴と鞭にゃ。てっきり、お仕置きは無しにゃと━━」
「あっははははっ、それは無いよ。俺だって怒ってるんだから」
「にゃっ、魔王フランシスカよりもワタルの方が怖いにゃ」
普段おとなしい人が怒ると怖いような未知な恐怖を黒猫は感じていた。
「さてと、お仕置きといきますか」
「待つにゃ!まだ、心の準備が━━━」
「黒猫に"エロい事全般を獣王国ガオウとムライア王国の戦争終了まで禁ずる"....これで良いはずだな」
「にゃにをしたのにゃ!」
「あははははっ、なるほどの~。ワタル考えたものじゃな。これでは生き殺しじゃな。実に面白くて愉快じゃ」
フランは魔法のエキスパートなので、直ぐ理解したが他のメンバーはちんぷんかんぷんである。
「フラン様、ワタル殿は一体何をしたのですか?」
グリムが他のメンバー代表でフランに尋ねた。
「ワタルはな。"言霊"をやったのじゃ」
「にゃにーーー!いつ、そんな高度な魔法を覚えたのにゃ」
「言霊と言えば別名言質魔法と呼び、言葉通りに活動を制限させ、無理矢理に破ろうとすれば死ぬ恐れがある魔法でしたな。確か闇魔法の一種だと聞いた覚えがあります」
「ほぉ~、さすがグリムじゃ。その通りじゃが━━」
「お褒め光栄でございます」
「ワタル~、一生のお願いにゃ。この魔法を解いてにゃ。後生なのにゃ」
黒猫がワタルに迫って土下座してくるが無理なのである。
「黒猫よ。諦めるのじゃ。ワタルにも無理じゃよ」
「ど、どういう事にゃ。フラン様」
「ただの言霊ではないからじゃ。そうじゃろう。ワタルよ」
さすがフランにはお見通しのようだ。
「あぁ~、普通の言霊だったら解く方法はあるだろう。しかし、俺のは闇反魔法での言霊だ。解除する魔法も無効化してしまうわけだ」
「くくくくくっ、だが、ワタルは最初から期限付きにした。もし、後から期限を設けようとしても後の祭りだったの~。一生の呪いになっていたじゃろうて」
『一生の呪いになっていた』と聞いて黒猫はガクガクブルブルと震えていた。
「怖いにゃー。めっちゃ怖いにゃー」
「そう、怯えるなって。解けたらたくさん可愛がってやるからよ」
「にゃっ!約束にゃよ」
うっとりとした瞳で見詰めてくる。
「それより、ワタルよ。大丈夫か?」
「うん?何がだ?」
「妾達前だからといって痩せ我慢するではない。ほれほれ」
ツンツンとフランがワタルの脇腹を突っつく。
「うっ、ちょっ止め」
「それそれ、ツンツクツンツン」
さらに突っつき続ける。
「うっ、うぐ」
相当な痛みでバタンと倒れてしまった。
「ワ、ワタルはどうしたのだ?」
「な~に、ただの"魔力痛"だ。タナトスとの戦いに加え、さっきの言霊で無理がきたんじゃろう。まぁ、言霊の方が大きいと思うがな」
起きたばかりなのに、直ぐにまた寝る事になるとはワタル自身も思っていなかった。
この後、ワタルが再度寝込んだ事により今夜のご飯は、無しか質素な物になると思いきや事前に作りおきがあったので助かったのは、また別の話である。
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