21話夜の女王登場
「う~ん、ここはどこだ?」
ワタルは目を覚めると何処かのお嬢様が寝るような天蓋カーテン付ベッドに寝かされていた。
ガバッとベッドを出ると刀状態の桜花を確認した瞬間━━━━
「起きたようですね。こちらに着替えるように。我が主がお待ちです」
お盆で水差しを持って入ってきた"これぞ執事"と言われそうな男が真新しいスーツに似た服装に着替えるように渡してきた。
「うわ~、俺ってこういうの似合わないな」
スーツに着替えたワタルは姿見で自分の格好を確認していた。もし、フラン達に見られたら爆笑されると早く着替えたいと感じてしまった。
「着替えたようですね。さぁ、着いてきてください。我が主がお待ちです」
執事男に着いて行くと、一歩一歩進むに連れて言葉に出来ない威圧感が強まっていく。
ある部屋の扉の前で止まると、この部屋の中が一番威圧感が強く感じ本能的に"入ったらダメだ"と逃げようとするが足が動かない。
「さぁ、ここに我が主がいる玉座の間だ。ん、恐怖で動かないのか。ほら、入れ」
ギギィと扉が開いた瞬間に執事男に背中を押され玉座の間に入ってしまった。
「我が主、お連れしました」
執事男は玉座に向かい膝を着いてお辞儀をした。
「やっと来たか。お前が魔王フランシスカの男かの」
玉座に座るのは、これはまた水着や下着にしか思えない程露出が激しい服装を着ている魅惑的な女性が鎮座していた。
魅惑的な女性だが威圧を放ってるのは間違いなく目の前の女性である。
「ほぉ~、なるほどの。魔王のヤツは男の好みが良いと見える。魔王は今まで男に興味が無かったのじゃが━━━━そなた、我の物にならんか?あんなことやこんなこと出来るぞ」
ワタルをネットリとした視線でくまなく観察した矢先に、とんでもない提案をしてきた。
「こ、断る!フランを裏切ることは出来ない。それにこんな事して大丈夫なのか?相手は魔王だぞ」
やっとこの威圧感から慣れてきたのか話す事なら出来る様になっきた。
「よーく知っている。なにせ我と魔王は大親友なのだからな」
ドーンと玉座の間の扉が吹き飛ばされ土煙が舞った。
「だーれがお前の大親友だ!だれが」
土煙が収まるとフランが立っていた。ワタルが誘拐されてご立腹の御様子だ。
「おぉ、我の大親友フランシスカではないか。さぁ、こちらに」
「だから、誰が大親友だと言ってるんじゃ。このボケが」
「悲しいの。折角の再会というのに。最後に会ってから30年ぶりかの」
「妾はお前なんかに会いたく無かったわい。ワタルを迎えに来ただけじゃ。そんじゃの、行くぞワタル」
「ほぉ~、そんな事言って良いのかの?」
ヒラヒラと黒い表紙の本を取り出すとフランの顔が瞬時に真っ赤になった。
「これが何なのか分かっておるじゃろう?」
「お主、まだそんな物持っておったのか!な、何が望みじゃ」
「あっははは、な~に大したことではない。少しばかり魔王と魔王が惚れた男と話をしたいだけだ。それくらいなら良いじゃろう?」
場所を移し風景が綺麗なテラスでティータイムしながら目の前の魅惑的な女性の提案で談話することになった。
「そうじゃった。まだ、名前言ってなかったの。我の名前は獣王国オウガ夜の王・吸血姫ルリ・ブラッドよ」
吸血姫ルリとワタルは握手すると動く度に吸血姫ルリの胸がプルんプルんと動き、ワタルの視線が胸に向く度にフランの足がビシビシとワタルの脛に蹴りを入れる。
地味に痛いので止めて欲しい。
「それで話とは何なのじゃ」
「それじゃー、単刀直入で言うと....その人間の男・ワタルを我にくれないか?」
「はぁー、そんなの断るに決まってるじゃないか!」
フランはバンっとテーブルを想いっきり叩き、吸血姫ルリの提案を即座に断った。
ワタルは紅茶を盛大に噴き出しゲホゲホとむせた。
「やはり断るか....それなら、何番目でもいいから我をワタルのお嫁さんにしてくれ。それならいいじゃろ。この世界では一夫多妻制じゃからの」
「「はぁ~!」」
「だ、ダメじゃダメじゃ」
「それはどうして?現に魔王と他に獣人一人を嫁にしてるのでしょう。自分に自信がなくて、いつか取られると思っているのではなくて。それは逃げだと我は思うぞ」
「うぐっ!うぬぬぬぬぬ」
言葉に詰まるフラン。戦闘力では圧倒的にフランが上だが言葉攻めは吸血姫ルリが一枚上手のようだ。
「それに━━━━」
吸血姫ルリが席を立ち、ワタルの近くに寄り腕を掴むと自分の胸をムニュンと形が変わる程に当てた。
「ワタルも満更でも無いみたいだし」
「ワタル~、そうなの!騙されちゃだめよ。そんなハレンチ女なんかに」
今度はフランが吸血姫ルリとは反対側の腕を取り自分の胸を押し付ける。
「なによー、そっちこそ色仕掛けしたんじゃないの」
「違うわよ。そっちは色仕掛けしか能がないじゃないのよ」
フランと吸血姫ルリとでワタルをとある落語の話みたいに引っ張り合う。
「ていっ」
「「痛っ!」」
ワタルの腕を引っ張ていたと思っていたら、ただの木の棒で引っ張り合われる前にすり替えたのだ。そして、二人の頭にチョップをかました訳である。
「「何をするのよ」」
「はぁ~、二人引っ張られたら腕は引きちぎれるわ。それに一番の解決方法は俺がルリを嫁に迎えることだけど━━━」
「その通りよ」
ぱーーっと吸血姫ルリの周りに星がキラキラと輝く程満面な笑みを見せる。
吸血姫ルリの笑顔にドキッと数秒間目が離せなくなる。
「ワタル~、何見詰めあってんのよ」
ワタルのお尻を想いっきりつねる。
魔王がやるとシャレにならないから止めて!
「はっ!ご、ごめん。ルリ、聞きたいことがあるけど良いかな?」
「ん、なーに?ダーリンの言う事なら聞くよ」
「ダ、ダーリンは止めて!先程、この世界って言ってたけど異世界の事知ってるの?」
言葉の綾ならそれで良いが気になってしまったのだ。
「そのことなら、簡単だぞ。こいつは魔眼持ちだ。それも究極と言っても良い代物じゃな。神の理を視る眼、神理眼じゃな」
吸血姫ルリは一旦両目を閉じ開くと瞳の色が黒から青白く変化していた。
「えぇ、そうよ。我の前では嘘偽りは通用しないし、どんなに離れていても見通せるのよ。だから....さっきの我を嫁にしてくれると言ってくれた時嬉しかったぞ。嘘偽りなくて━━━━」
吸血姫ルリがワタルに抱き着きキスをしてきた。それも下を入れての濃厚なヤツを━━━━
「んなーー、何をしておるんじゃ!ワタルもワタルじゃ。いつもなら避けられるじゃろう」
フランがワタルに問い詰めると目が泳いだ。
「我の事も受け入れてくれたという事ではないかの。おっほっほほほ」
「ワタっ!!ムリュ....」
不意討ちでワタルがフランにキスをする。吸血姫ルリにされたものよりも濃厚で濃密なのをおみまいしてやった。
「フラン、これで満足か?」
ふにゅー、こくこくと小動物のように頷く。
あぁ~、もう可愛いな。今すぐお持ち帰りしたいな。
「あの~、我の事忘れていやせんか」
あっ、忘れてた。
「えーと、何の話だっけ?あっ、そうそう!魔眼の話だ」
「思い出せて何よりじゃ」
吸血姫ルリの話によると魔眼とは文字通りに魔法の効果を付与されて眼の事だ。ただし、生まれつき、つまり先天性で後天性はないという。研究もされているが人工の魔眼は成功例は今のところゼロなのだそうだ。
吸血姫ルリの持つ魔眼・神理眼は全ての魔眼の能力全てを合わせたようなもので最強の魔眼である。だが、吸血姫ルリでも全ての能力を引き出せる訳ではない。最強と言われるが扱いも難しいのだ。
「ワタル....いや、歩夢よ。フランシスカによってステータス改竄されておるが、我の魔眼だとバレバレじゃの」
「ギクッ、嘘ついて申し訳あり━━━━━」
「よいよい、追われてる身だったのだ。仕方ない事じゃ。それで、どっちで呼んだら良い?」
「ワタルでお願いします。そっちの方が慣れてしまって」
「では、ワタルよ。本当に我を....嫁にしてくるのじゃな?」
自分で言っておいて今さらドキドキと緊張して真っ赤のなってる吸血姫ルリ。
「あぁ、構わないよ」
「ありがとう!ふふっ、ワタル大好きよ」
「妾はまだ認めないからな」




