19話 三人と入浴
はぁー、一人で入る湯船は最高だな。一日の疲れが取れて癒される。こんなに広いから入浴剤でも買って温泉みたいにするかな」
お風呂の広さは某ホテルの大浴場よりも広く、一人ではもちろん持て余す、いや今の人数全員で入っても広すぎる。
ワタルは湯船から出て体を洗うために椅子に座り、まずは髪をシャンプーでワシャワシャと泡をたててお湯で流す。
「えーと、タオルタオル....」
目を瞑ったまま、タオルを探してると手渡された。
ん、今手渡されたか?一人のはずなのに?タオルで髪を拭くと目を開けたら、一糸纏わぬ産まれたままの姿でフランとセツナがそこにいた。
「な、なんでいる!」
「えーと、そこは....」
「私の爪でチョイチョイと鍵を開けたのよ」
セツナがシャキーンと自分の爪を伸ばし、鍵を開ける仕草をやったのである。
鍵を掛ける意味がないじゃないか!俺のプライベートが無くなっていまう。
「はぁ~、もう入ってしまったのは仕方ないが、バスタオルで隠してくれないか。そ、そのー、目のやり場に困る」
ワタルの言葉にフランとセツナの二人はお互いに見つめ合うと、ニヤリと口角が上がり何か思いついたようだ。
「えー、そんな事言って本当は見たくて触りたいんでしょでしょ」
ワタルの右腕にムニュンとセツナの胸が形を変形し触れる。
「妾達はワタルの妻なのじゃ。一緒に風呂に入って夫の体を洗うのは妻の勤めじゃ。それに....夜を共にしたのじゃし今さら何が恥ずかしいのじゃ」
左腕にはフランの胸が当たり、左右からサンドされ気持ち良いか良くないと言ったら気持ち良いが、ある場所が反応するのでワタルは頭の中で素数や円周率を数えて無心状態になるのであった。
時々、フランの視線がワタルの下半部に注がれ、腰に巻いてあるタオルを取ろうとするが、どうにかして阻止した。
「むぅー、ワタル不公平じゃ。妾二人は何も纏ってないのに、そちはタオルを纏っておるのは不公平じゃ」
そっちは少しは羞じらいを持ってて....
「でも、フラン、こうして抵抗するって事は....私達の事を魅力的だと思って我慢してるんだよ。逆に襲わない様にね。それに....」
ジーーーっとセツナの視線がワタルの下半部にいくと爆弾発言を言いやがった。
「タオル越しだけど、ピクっピクと動いてるのが微かに分かるよ」
セ、セツナ何て事言うんだ!あぁー、もう早く出たい。穴が有ったら入りたい。
「おぉー、ナイスだ。ワタル、ほれ見せてみぃ。なーに、いつも夜を共にしてるではないか。恥ずかしがる事は何一つもないじゃないか」
再度、フランがワタルの腰のタオルを引っ張り合う。
「フ、フラン止めて許して....くっ、こうなったら....」
空蝉の術みたく、タオルはその場に置いていき、バッシャーンと神速と呼ぶべき速さで湯船に入り「宝部屋」から白い入浴剤をバッと蒔きお湯の中を見えずらくした。
「ちっ、やるわね。しかし、出るときはどうするのかしら。ふふふふっ」
フランの言葉に、そのまま出て行った方が良かったのではと、今気付き「しまったー」と頭を抱えた。
フランとセツナが目配せで合図し、先にセツナがワタルの隣に座り腕をホールドする。普通、男なら嬉しいが関節がきまって痛い。だが、セツナの胸がポヨンと当たって気持ち良いが関節が痛い。これでは逃げられない。
セツナがワタルをホールドしてる間にフランは体を洗うとセツナの反対側に座りワタルをホールドするとセツナは体を洗いに行った。
「ワタル我慢しなくていいよじゃよ。ほれほれ、気持ち良いじゃろ」
「うっ、そ、それは....」
クラクラ....ジャポン....ブグブグとワタルはのぼせた様で湯船の中に顔が沈んだ。
「きゃー、ワタルー、しっかりして」
ワタルは意識を手放したのであった。
夜中に目が覚めるとワタルは自分の寝室のベッドで横になっていた。横を見るとワタルを挟む形でフランとセツナが熟睡中で普通にパジャマを着ており、ホッとした。
ワタル自身も寝間着を着ており、気絶してたのに誰かが着せてくれたのか考えるまでもないが、横で寝てる二人だろう。そうなると、全裸を見られたうえに着替えさせられた訳で、夜とやる時とは違う意味で何か羞恥心を感じたのである。
羞恥心の中、中々寝れない中いつの間にか窓から朝日が射し込み少し寝不足のまま、みんなの朝食の準備をしていた。
バタバタっバタンとドアを勢い良く開けられる。
「「ワタル!大丈夫か」」
勢い良く入ってきてワタルに抱き着くのはフランとセツナの二人である。
「あぁ、大丈夫だよ。心配かけたね」
やさしく二人の頭を撫でる。
「本当なのじゃ。ワタルは意気地なしなのじゃ」
グサッ!ワタルの体に言葉と言う矢が突き刺さる。
「本当よね。夜はあんなに激しいのに、ヘタレよね」
グサグサ、もうやめて!最初の一撃で心のライフゼロよ。
「ん、どうした?ワタル」
先程の発言がワタルに精神的にダメージを与えたとは露知らず、何事にもなかった様に聞いてくる。
「何でもないですよ?」
まだ、精神的ダメージが残ってるようで、何故か疑問系になってしまった。
フランとセツナはワタルの様子に疑問を持ちながらもダイニングテーブルで、ワタルが作る朝食を待つ事した。
「はーい、お待たせ。今日のメニューは色とりどりのサンドイッチにしてみました。右から玉子、野菜、ハムチーズ、チキン、ツナマヨ、カツ....」
皿に並べられたサンドイッチはカラフルで見映えもバッチリである。現実風で言えばインスタ映えと言うのだろう。
この世界ミレイヌではパンの間に具材を挟んだり、中に入れて焼く事は常識的にあり得ないのである。
「色々あるな。はむっ!むぅ~、このチキンはソースが絶妙じゃな」
「こっちは....これは!このツナマヨは魚にゃ。このソース?に混ざって美味しいにゃ」
ソースと言うのはマヨネーズの事だろう。この世界ミレイヌにはマヨネーズは無いのだから、分からなくて当然である。でも、作り方を教えたら流行りそうとワタルは考えていた。
「はむっ!このカツはボリュームがあり、噛みごたえが充分で儂は好きだぞ。このピリ辛のソースも妙に合う」
カツにはソースにマスタードが加えてある。マスタードもミレイヌには存在しないので、作ることが出来れば新感覚の味で売れるのではないだろうか。
しかし、マスタードの原料であるカラシナと言う植物は発見されていないので、作ろうとすると結構な時間要するだろう。
「グリムさんはコーヒーブラックで後の四人はホットミルクで良いかな」
「うむ、この苦さがクセになるの。それに目が覚めるわい」
「良く飲めるわね。そんな苦い物を」
「ほほほほっ、これぞ大人の味なのじゃよ」
朝の団欒してる内に朝食は済み、今日の予定を話し合った。
ワタルは獣王国オウガの探索兼戦争の対策を練る。
グリムとセツナは近衛兵の模擬戦闘訓練に参加。
フランは遠距離視認魔法でムライア王国を監視。
黒猫はいつの間にかいなくなっていた。
「ここなら良いかな。娯楽魔法・芸術系"現なる絵画虚像"開放」
魔法を唱えると目の前にスケッチブックと鉛筆や絵の具等、絵を描くのに必要な道具一式が揃っていた。
「ふぅ、どうやら成功のようだな。問題はここからだ」
ワタルはスケッチブックを開き、鉛筆を持つと意識を集中する。そうすると、ワタルの雰囲気がガラリと変化し、何かに憑依されたごとく一心不乱にスケッチブックに描いていったのである。
数十分間後、描き終えたのか手が止まり雰囲気も元に戻った。
「娯楽魔法・芸術系"現なる絵画虚像"封印....ふぅ、これで大丈夫のはずだ。後は戦争が始まってからだな」
今の魔法で全体の2割程持っていかれて若干疲労ぎみである。一般の魔導師なら魔力は全然足りないだろう。
「ワタル、そこで何してるにゃん?」
「わぁ!ビックリした。なんだ黒猫か」
急に黒猫に話し掛けられビックリすると、まだスケッチブックを仕舞ってなかった事に気付く。
「ん、それ何にゃん?」
「これは....ひ・み・つ」
手元からスケッチブックを消すと気になるのだろうか、ソワソワしている黒猫だがワタルの隣に座り、ワタルの膝を枕代わりで横になった。
「ねぇ、ワタル....私と良い事しよ」
そう黒猫に言われた瞬間にワタルの意識が朦朧してきたのであった。




