正月一年目・前編
クリスマスと同じキャラでお送り致します。
時間軸は二章の終盤でクリスマスのその後になります。
「はーい、年越し蕎麦出来上がったよ」
テーブルに人数分蕎麦を並べると、フランとセツナが息を合わせて言った。
「「ハッピーニューイヤー、明けましておめでとう。今年もよろしく」」
「あー、せっかく言ったのに申し訳ないが、まだ日付変わってないよ」
「「....」」
ワタルの言葉に無言になる二人だが、年越し蕎麦を食べ、0時にテレビから除夜の鐘なると....
「「ハッピーニューイヤー、明けましておめでとう。今年もよろしく」」
言い直しやがった。
「ニャハハハ、面白いにゃ....ズズーー」
「はぁ~、年を変わっても騒がしいですね。ズズーー」
「懐かしい鐘の音です。まさか、ここで聞くことが出来るとは」
「ぷっくくくく、あはははは」
夏希はフランとセツナに呆れながら蕎麦を食べ、吸血姫ルリは笑いのツボに入ったのか足をバタバタして笑い続けている。
桜花はテレビから聞こえる除夜の鐘を聞き、ワタルの故郷を思い出している。
「相変わらず、歩夢にぃの料理は美味しいです。女としては凹みそうですけど」
「ニャハハハ、料理に関しては諦めるしかないにゃ。ワタルに料理に誰かが勝つなんて想像出来ないにゃ」
夏希と黒猫のどんぶりにワタルが海老天を追加した。
「にゃーー、海老天にゃ」
「わーー、大きいですね」
「誉めてくれたご褒美だ」
ムシャムシャと追加された海老天を食べる黒猫と夏希。
「「「私(妾)もー」」」
「あー、ごめん。今の二つで最後だ」
ブーブーとブーイングがなるが、次のワタルの言葉で収まった。
「今、おせち作ってるから待ってな」
「「「おせち!」」」
「初めて聞く料理だが、何か甘美な響きのようだ」
狂喜しているとこに、ワタルから言われた言葉で表情が凍った。
「あぁ、悪いが今すぐではないよ。時間が掛かるから....お昼にね」
「そんな仕打ちがあるか!ワタルよ。喜ばせて地に落とすとは」
それほど、食べたいのか?凄い食い意地である。
「その代わりにお餅でいいか?これも美味しいぞ」
キッチンの鍋から甘い匂いが漂ってきた。今まで嗅いだ事のない匂いに誰かの腹の音が鳴り、それが切っ掛けで連鎖する様に皆の腹が鳴っていく。
「「「そんな匂い嗅いだら腹減るに決まってるでしょ。早く早く」」」
待ち遠しくてテーブルを子供の様にバンバンと叩いている。
お汁粉を茶碗に注ぎ、焼いたお餅を入れると皆の前に運んだ。
「ワ、ワタル殿、黒いですが大丈夫てすか?匂いは美味しそうですが」
グリムは躊躇するが、ワタルの嫁ーズ+αは躊躇いなく飲み餅をビヨーンと食べている。
「グリムよ。ワタルが妾に食べれない物を出すと思うか?今まで出された物はどれも美味であったであろう」
ジトーーとフランに睨まれグリムは「ヤバい!地雷踏んだかも」と冷や汗をかきながらもワタルに土下座して謝った。
「それよりも、温かくて、ホッとする甘さだ。この餅とやらが伸びて面白いのじゃ」
謝罪する様、威圧放ったのにグリムの土下座をスルーされて、ワタルは苦笑いしている。スルーされたグリム本人は土下座したまま硬直している。
「にゃち!ワタル、熱いのよ....フーフー、ズズー」
黒猫って猫だから猫舌なのか?意外な弱点を発見してしまい、悪巧みな笑顔を浮かべるワタル。ふふふふふっ....
「はーい、こちらもお試しを。甘酒です。これも正月の飲み物ですね」
「あら、甘い香りはするのに味は甘さ控えめって感じね。私には物足りないけど、子供でも飲みやすいのではないかしら」
さすがは、酒好きの吸血鬼、いや吸血姫ルリである。お酒に関しては神の舌をお持ちのようだ。
「にゃーーー!」
黒猫が口を押さえながら涙目で悶絶している。イタズラ成功だが、やり過ぎただろうか。口を押さえた際に落とした甘酒のカップは隣にいた夏希がキャッチして無事である。
「黒猫大丈夫か?甘酒そんなに熱かったのか。悪かった」
黒猫に近寄るとまだ、口を押さえてるのでさらに近寄ると、ワタルの首に腕を回し一気に接近した。ワタルと黒猫の唇が触れゼロ距離になり、黒猫の舌がワタルの口へと侵入したのである。
フランでも中々しない濃厚なキスでワタルの頭は真っ白になっていた。黒猫にされるままにされて、数十秒間が数時間経ったと錯覚する程濃厚だったこである。
黒猫の行動に黙ってないのがフランである。
「黒猫よ、これはどういう事なのじゃ。妾にも....あ、あれほどのキ、キスはされたことないのに」
よっぽど悔しかったのか地団駄を踏んでいる。
「あれ~、無いのかにゃ~?夜のお勤めはするのに....すみませんにゃ、調子に乗りすぎましたにゃ。ワ、ワタルにイタズラされたので、仕返ししただけにゃ」
フランの威圧に耐えきれなくて、グリム同様土下座して事の顛末を話したようである。
「もう、歩夢にぃは昔からたまにイタズラをしたくなるのですから....ふふふふっ....私にもしてくださいね。性的な意味で....ハァハァ」
夏希に叱られるかと思いきや逆に自分にしてくれと!それも聞き間違いではなければエロい事って言いました?!
後、目が尋常ないくらい怖いんですけど....もしかして、甘酒でよってます?
「わ、悪かったって....」
ジリジリと近寄る夏希の後ろから首筋にフランが手刀でシュパと決めるとスヤスヤと夏希は気絶したかの様に寝始めた。
「危ないところじゃったの。ワタル....」
「あぁ、助かったよ」
フランがワタルの耳元に(助けたご褒美を忘れぬではないぞ。黒猫よりも濃厚なのを頼むのじゃ)コソと呟いた。それに対してワタルはコクンと僅かに頷いたのである。
「あぁ、そうだった。せっかくの正月だから用意してる物があったんだ」
ワタルが宝部屋から平べったい箱を嫁ーズの分取り出した。そこには、格一着ごとに模様が違う着物が入っておった。
「正月と言ったら着物でしょ。みんな、これに着替えて」
「おぉ~、これは綺麗じゃの。しかし、これどう着るのじゃ?」
あぁ~、着物は着る事が難しいからな。
「桜花に手伝って貰えばいいよ」
「はい、お任せください。皆様」
それぞれ、着物に着替えるために部屋を出て行くとトントンと肩を叩かれ振り向くと....
「ワタル殿、儂らにはないのかの」
「ありますよ。俺達は向こうで着替えましょうか。教えますので」
寝ている夏希以外は着物に着替えるのであった。




