うどん屋さんの事件がある朝
「いらっしゃいませー」
朝から威勢の良い大きな声が街に響く
チュルチュルと麺をすする音。
コシがあり、モチっとした食感の食べ物。そうこれはうどんだ。
このいかにも普通なうどん屋さんにはたくさんの人がうどんを食べに訪れるのだ。
しかしこのうどん屋さんは他のうどん屋さんと違うところがある。
それはこのお店があるのが異世界の港町というところだ。
「ぶっかけうどん一つ」
「はいよーぶかっけ一つ」
「若いのによく働くね、マスター」
「いえいえ皆さんにおいしいうどんをお届けするために働いていますから」
「そりゃ、ご苦労さん」
このマスターこそがここの店主、高木原 啓吾だ。
あまり背が高いわけでも、顔がイケているわけでもない、そこらの街でも見かけるような人だ。
そしてこの世界は様々な世界から様々な住人が移り住んでくる。もちろん人間も例外ではないようだ。
「はいよ、ぶっかけうどんね」
「ありがとよ、マスター様。へへへ」
このぶかっけうどんを注文した男は港の漁師であるドクだ。
啓吾がこの街にきて、右も左もわからない時に出会った親友だ。
ドクは啓吾とは正反対で背も高いし、イケメンでモテモテのようだ。
しかも筋肉ムキムキマッチョマンのおまけ付きだ。
でも、おふざけが過ぎることが多く、20人ほどの彼女に振られた残念なやつだ。
「マスター、最近はここらでもゴブリンの奴らが出てきたらしいな。どうにも例の組織が関わっているそうだぞ。」
「本当かよ、ここにもあいつらが来てるのかよ。」
「うちの子分がいうには他の港があいつらに荒らされたらしいんだ。だからうちの港も警備が厳重になって来てるんだ。これじゃ夜勤が増えて、彼女ちゃんたちのところに行けねえじゃねーか。」
「そら大変だな。うちも売り上げとか持って行かれないようにしないとな。」
すると外で叫び声が聞こえた。
「キャーーーーーーーー」
「この声は、俺の姉貴だぞ」
するとドクは急いでカウンターから立ち上がり店の外に飛び出した。
周りを取り囲む群衆。
皆、同じところを見つめていた。
中には泣きわめく子供などがいたが、ドクにはそれら目に入らなかった。
群衆の中心では事件の痕跡と見られるものが無数にあったが、ドクは自分の姉を探していた。
しかしそこにはドクの姉はいなく、無残にも彼女のスカーフと見られる物と飛び散った血痕と数人の死体が転がっていたのであった。