表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天秤世界のオオカミ幼女  作者: 鵺這珊瑚
第一章 迷路の町カタスリプス
8/79

第八話 オオカミの常識と人間の常識は違うみたい

「アソコを……」


 リデルがか細くそう言う。


 木の陰で二人の会話を聞いていたアレビヤは、一人顔を沸騰させていた。


(アソコ……!? アソコですって!? あの男、幼女になんて台詞を! 卑猥よ、卑猥の塊よ! 幼女との乳繰り合い、おまけにそれを毎晩だなんて許されないわ!)   


 アレビヤは後先考えずに飛び出した。


「ちょっとあんた達、いやらしいことしようとしてるでしょ!」


 アレビヤが急に現れて、2人はぎょっとする。


「なんだよいきなり! というか帰ったんじゃ?」


「暗いのが怖くて帰れなかったわけじゃないわ。ちょっと様子が心配になって帰ってきてみただけよ……本当よ。それよりあんた達、さっきから卑猥なことばかり言ってるけど! 恥を知りなさい!」


「なんですか卑猥って」


「あんたのことよ! 幼女にいやらしいこと言わせて、何楽しんでるの! この変態!」


 リデルは首を傾げ、ナキは腕を組み考え込む。


「そこまで真剣にならなくてもいいんだけど……」


 アレビヤも汗をかき始める。


 ナキがぽんと手を打った。


「あ、もしかして。先輩が『アソコ』とかいうから何か別のものに勘違いしたんじゃないですか?」


 アレビヤが「え?」って顔をする。


「何と勘違いしたのかは分かりかねますが、先輩が言おうとしてたのは耳のことですよ」


 ね、とナキが目配せすると、リデルは頷く。


「先輩は耳の裏とか弱いんですから」


「それ十分卑猥なんじゃ」


「いえ卑猥じゃないです。立派な毛繕い(グルーミング)ですよ」


 リデルが激しく頷く。


「人間なのに毛繕い?」


「……ええ。何か問題でも?」


 アレビヤはほぞを噛んだ。


「なんだか……納得いかないわ」




 キャッキャウフフの毛繕い(アレビヤは愛撫だと主張した)が終わると、アレビヤが大きく咳払いをして、二人を見下ろし言った。


「会ってからずっと気になってたんだけど。あんたたち、一体何者なの? ノモスのことといい、幼女への敬語といい、今の愛撫といい、まるで常識がないみたいに思えるんだけど」


 二人は目を見合わせる。


「じょうしき、あるよな」


「ええ、十二分にあります」


 ナキはリデルを枕にした状態で、はっきりそう言い切った。


「……普通の大人は、幼女を枕になんかしないわよ。はあ、まるで群れで暮らす獣ね。いいわ、私があんた達に常識ってもんを教えてあげる」


 リデルは断ろうとしたが、ナキがそれに飛びついた。


「是非お願いします!」


「……普通は寝転がったままお願いしたりしないのよ」


「……よいしょ。お願いします!」


「なぜ逆立ちするの! 普通にできないの普通に!」


 リデルがクスクスと笑う。


「ナキはわざとやってるんだよ。な?」


「ばれました?」


「ほんきみせてやれ」


 ナキは逆立ちをやめ、普通にした。


「お願いします!」


「それが、普通?」


「ええ、そうですが」


「……四つん這いが?」


「はい。姿勢いいでしょう?」

 ボケているのか本気なのか。アレビヤは頭を抱える。


「おれは別にいいんだが、ナキがおしえてもらうなら、おれもおしえてもらおうかな。おねがいします!」


「いいけど、あんたも四つん這いなのね」


 蛙の子は蛙、ということわざが浮かぶ。


「まあいいわ、明日の朝ここに来るから。私の家へ案内するわ。こんなとこで野宿するなんて危険だからね」


 本当は弟子が欲しいとかいう願望があるのだが、隠しつつ話を進める。


「それでいいかしら?」


「いや、ここのほうが落ちつくから家は――」


「いいから来なさい! あんた達を放っといたら野生に帰りそうで怖いわ! 私の優しさなんだから受け取りなさい!」


 リデルは嫌そうな顔をしたが、ナキは乗り気なようだ。


「良いじゃないですか先輩。せっかく人間になったんですし、そういう暮らしもアリかと思います」


「そうか? まあナキがそう言うなら」


 リデルが承諾する。


 アレビヤは涼しい顔の内面、首を傾げていた。


(今人間になったって聞こえたんだけど……気のせいよね)


「じゃあ明日の朝くるわ。ちゃんと起きなさいよ」


「りょうかい」「了解しました」


 アレビヤは颯爽と身を翻すと、闇の中へ消えていった。


 と見せかけ、焚き火近くの木の幹に座り込み目を閉じる。やはり暗いのは苦手だった。


 翌朝、アレビヤが爆睡しているのが見つかり、両者とも気まずくなったのは、言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ