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天秤世界のオオカミ幼女  作者: 鵺這珊瑚
第三章 首都イプリファリア
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第七十話 崩れゆく信仰

「図星のようだね。でも心配しなくていい、エルアザルの家族には手を触れていない」


 父親の名前が出てきたことに驚く。


「……父を知っているのか?」


 まあね、とバフォメットは肩をすくめた。

 何か父と因縁があるのだろうか。


 サンティアナはそれを脇に置き、冷静に言葉を紡ぐ。


「……だが、もし仮に、十年や二十年前にそのふざけた策を実行し始めたのだとすると、ノモスが大昔からこの国を治めていたという事実に矛盾する気がするが」


 サンティアナはノモスについて書かれた書物たちを、頭の中で思い起こす。どれも信頼のおける著名な作者ばかりだ。内容に嘘はない。


 だが、バフォメットは平然と言いのけた。


「矛盾してない。だって、そんな事実ないんだから。でっちあげだよ」


 サンティアナは耳を疑った。毛穴がぶわっと開くように、鳥肌が走る。


「でっち……あげ?」

「そう。ついでに言えば、教典に書いてあることも全部嘘だ。そこらに転がってる本も、ノモスが命令して書かせたものだよ。言っただろう、ノモスは私が作ったんだと。しかも、ある目的を持ってね。それ以外の価値は、ノモスにはない」


 サンティアナは何かが足にコツコツ当たっているのに気付き、ちらと見下ろした。自分の膝がガクガクと揺れ、机を何度も打っていた。慌てて止める。全く気づかなかった。


「じゃあ、私が信じてきたノモスの伝統は?」

「そんなものない。ノモスは新興宗教だからね」

「……ッ!」


 サンティアナは体が熱くなるのを感じていた。胸の奥から、嫌な熱さが広がってくる。

 エルアザルが言っていたことは、真実だったのか? だったら、それを否定してきた私は、一体……?


「おいサンティアナ、こいつの言うこと信じてるのか?」


 リーフィエが手を握ってくれた。優しく、励ますような心が伝わってくる。

 しかしバフォメットは追い打ちをかける。


「じゃあ、証拠を見せよう。そこまで疑うなら、その目で見た方がいい」


 バフォメットが机の引き出しに手を突っ込み、手探りを始めた。机のサイズと入り込む腕の長さが全く合っていない。やがて、バフォメットは何かをにゅっと取り出した。

 サンティアナの剣だった。


 すかさずサンティアナはそれを取り返さんと動いたが、バフォメットはそれを一早く察知した。彼が目を向けると、サンティアナは何か見えない力によって、ソファへ倒しこまれてしまった。


 バフォメットは何事もなかったかのように話を続ける。


「これは君の愛剣だね。剣の平に召喚陣が刻まれていて、それによって精霊を召喚できる」


 バフォメットが鞘を軽く指でなぞると、鞘の中から光が溢れ、ロトとアシュタが現れた。

 サンティアナはほっと胸をなでおろす。変わらない二人を見るだけで、心なしか気持ちが安らぐ。

 二人もサンティアナを見て、ニコッと笑った。


(よし、二人が居れば剣を取り返せる……!)


 瞬間移動には、持ち主が陣に触れておく必要があるのだ。剣はなんとしても取り返したい。


 サンティアナは心の内で、二人にバフォメットを縛り上げるように命令した。


 が、想定外のことに。二人は首を横に振って、それを拒否したのだ。


 バフォメットがニヤッと笑う。


「この子たちは、君の命令には従わないよ。というか、この子たちは今まで君の命令を聞いていたわけじゃないんだ。正確にはね」


 申し訳なさそうに目を伏せる二人。


「この子たちは、君に従っていたわけじゃなく、私に従って君の命令を聞いただけに過ぎないんだよ」

「何を馬鹿な……」


 サンティアナの視線が二人を刺すと、二人は小さく悲鳴をあげてソファの後ろに隠れてしまった。


「ロト、アシュタ……本当なのか?」


 優しく声をかけると、二人は全く同時に、そうっとソファの上から覗いてくる。


「ごめんなさい、お姉ちゃん」

「僕たち、うそついてた」


 その目は、本当に純粋で、サンティアナは言葉を失くす。

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