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天秤世界のオオカミ幼女  作者: 鵺這珊瑚
第三章 首都イプリファリア
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第六十六話 正聖殿地下

 牢の外で扉の開く音がし、パノルが入ってきた。

 サンティアナは静かな怒りで彼女を迎える。

 パノルは見下すように鼻を高くしていたが、サンティアナに睨まれるとさすがに怯むのか一つ咳払いをした。


「今から、正聖殿の地下へ来てもらいますわ」

「……正聖殿へ?」


 パノルは何も言わず牢へ入ってきて、サンティアナに手錠をつけた。

 その手は震えていて、まるで何かに怯えているようである。

 リーフィエには手錠を付けようとしないのを見て、サンティアナは懇願するように尋ねた。


「リーフィエは連れていかないのか?」

「彼女は元々盗賊の一派ですわ。手錠をすり抜けるかもしれませんし、連れては行けませんわね」


 万一何かあったら私が殺されますわ、とパノルは怯えきった表情で言う。


「頼む。リーフィエも連れていってくれ。私の親友なんだ」

「それは承知ですけれど……」


 パノルは悩んだ挙句、ため息を一つ漏らした。


「仕方ありませんわね。目を覚まさせますわ」


 パノルは一つ指を鳴らした。


 するとリーフィエがぱちっと目を開け、飛び起きる。


「サンティアナは!? サンティアナ!」

「ここにいる」


 リーフィエが振り向いた。サンティアナの顔を見るや否や、泣きそうな顔になって抱きついてくる。


「よかった……大丈夫そうじゃないか」

「まあな」


 リーフィエがパノルを見つけ、睨みつけた。


「貴様、なぜ裏切った! キリストに寝返ったか!」


 ひどい剣幕だ。

 殴りかかろうとするのを、サンティアナは手錠された手でなんとか押しとどめる。

 パノルはとんでもないと首を振る。


「そんなわけありませんわ、私は今でもノモス様に忠誠を誓っていますから」

「じゃあなぜいきなりサンティアナを襲った!」

「それは……地下で説明があると思いますわ」

「地下?」


 リーフィエに、自分たちが正聖殿へ召喚されたことを伝える。


「正聖殿に地下なんてあったのか?」

「あるにはある。だが専ら精神統一の場として使われていると聞いていた」

「そうですわ。でも、地下を作ったのは別の目的がありましたの」

「別の目的?」


 パノルはリーフィエの手を厳重に縛ると、二人についてくるよう促した。牢屋を出、部屋の扉に手をかける。

 扉の向こうは、いつもの明るい廊下……ではなく、怪しげな赤い炎の揺らめく暗い空間であった。


「扉を正聖殿に繋げましたの。外はもう正聖殿の地下ですわ」

「……そんなこと言って、私たちを嵌めようっていう魂胆じゃないだろうな!?」

「リーフィエ、抑えろ。今は従うんだ。今私たちは捕虜同然なんだから」

「そういうことですわ」


 リーフィエが歯ぎしりする。


「行きますわよ」


 パノルに付いて外へ出ると、暖かかった空気が一転、ひやりとしたものに変わった。地下であることは嘘ではないらしい。

 パノルは二人の前を歩いていくが、その肩や脚は、細かに震えていた。何か恐ろしいものが、この先にあるかのように。


「……大丈夫か?」

「なっ、何がですの? 黙って歩けばいいのですわ」


 向こうを向いたまま強気に答える。彼女らしい。


 サンティアナは辺りを見回した。


 およそ二メートル間隔に並んだ松明の炎が、無風にもかかわらず揺らめきを繰り返している。照明とするには心許ない明かりだったが、闇夜に紛れる仕事、例えば神父の暗殺も多々こなしてきたサンティアナにとっては、歩くのに特に難は無かった。


 サンティアナの目には、館の廊下のような空間が映る。扉は等間隔に設置され、縦長の窓も同じく綺麗に整列している。


 窓から何が見えるのだろうと目を向けたが、その窓から見える風景はぎっしり詰まった土と、照り返す松明の明かりだけだった。


 まるで館が丸ごと地中に埋められているような感じを覚える。


「ここはどこなんだ?」

「……廊下部分としか。地下はとても巨大で、私にもよく把握できていないのですわ」


 パノルは不安そうに言う。

 確かに、ところどころに枝分かれする道があって、そちらにも火が延々と続いている。


「私が知っているのは、目的地までの道だけですわ。はぐれないように」

「ああ」


 頷いた矢先、突然、警報音が鳴り響いた。


「なんだ!?」

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