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天秤世界のオオカミ幼女  作者: 鵺這珊瑚
第三章 首都イプリファリア
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第六十五話 サンティアナとリーフィエ

 鉄格子に囲まれた、牢屋の中。

 サンティアナは地べたに座り、落ち着き払った様子で目を閉じていたが、内には激しい怒りの炎が燃え上がっていた。


 ……なんたる屈辱。


 まさかパノルにしてやられるとは。

 セントピエルの話に気を取られすぎた……。


 サンティアナはパノルに打たれたうなじをさする。


 普段通りならば、あの程度の動きは見切れるはずだった。パノルは特別体術に優れているわけではない。自分がしっかり平常心を保っていれば、回避は可能だったのだ。


 後悔が募る。


 ……いや、たらればの話はよそう。

 今はこの状況をどう打開するかだ。


 サンティアナは辺りを見回す。


 まず、なぜ自分は牢屋に閉じ込められている? ここは間違いなく、アバンドレ支部の地下牢だ。ここに捕まえるべきはキリスト教徒である。自分たちイシキではない。


 不服に苛立ちが重なる。


 そしてなぜパノルは自分たちを裏切った?


 自分を気絶させたタイミングから考えれば、パノルはセントピエルの話を聞かれたくなかったようだが……。


 サンティアナは立ち上がり、自分の腰回りを見た。


 やはり、剣は没収されている。


 当然か。あの剣があれば精霊の力で瞬間移動できてしまう。

 そうだ、召喚陣を描けば、精霊を呼び出せる。


 そう思って内ポケットをまさぐってみたが、ご丁寧に看守は筆記具まで没収したようで、脱出の希望は絶たれてしまった。


 サンティアナは寝台に腰掛ける。


 ちらりとリーフィエを見た。


 床に丸くなったリーフィエが、すやすや寝息を立てている。


 大抵の状況には動揺しないリーフィエだ。後で起きてこの状況を見ても、『居心地悪いところだなオイ』とか言うだけで特に焦ったりはしないのだろう。


「なぁ、サンティアナぁ」


 びくっとして姿勢を正す。


 ずっと起きていたのか? 


 しかしまた寝息が聞こえてくる。


 なるほど、また寝たふりでからかおうっていうんだな。


 確かめようと、サンティアナはそろりと顔を覗き込んだ。


 どきりとした。


 リーフィエは寝ていた。どうやらさっきのは寝言だったらしい。


 しかしその寝顔は、いつもと一緒のリーフィエとは、どこかが違っていた。


 今のリーフィエには、いつもは感じない、艶めかしさがある。いつもは意識していなかった長いまつ毛であるとか、少し開いた柔らかそうな唇だとか、触るとすべすべしていそうな肌だとか、とても……。


 サンティアナはごくりと唾を飲み、一人で赤面して目をそらした。


 逃げるようにベッドに飛び込んで、リーフィエに背を向ける。丸まって、必死に暴れる鼓動を押さえつける。


 思えば、リーフィエと出会ってから三年が過ぎていた。十四でイシキになった年、二歳年上のリーフィエが話しかけてくれた。サンティアナは万能、リーフィエは短剣の天才。年は少し離れていたが、周りに持て囃された者同士、何かと馬が合った。


 任務では二人一緒に行動し、仕事の予定も二人でスケジュールをやりくりして、時間を合わせたりした。上に掛け合って、二人一緒に仕事ができるようにしたり、休みの日には二人で演劇を見に行ったりもした。笑うときも、泣くときも、怒られるときも、二人はいつも一緒だった。


 いつの間にか、二人は互いを親友と認めるようになった。二人は互いを友達として愛していた。それは今も変わらない。


 だが、サンティアナにはもう一つ、別の感情が芽を出していた。


 サンティアナは深呼吸を繰り返し、胸の鼓動を抑えこむ。


 認めたくはなかった。自分が親友に恋愛感情を抱いているなど。それも、女の子に。


 同性愛など言語道断だとは分かっている。ノモスの法では同性愛者は磔にされ、最悪の場合は火刑に処される。子どもの死亡率が高いこの国は、少しでも多くの子どもを確保したいらしい。

 思いを打ち明けようと、何度もそう思った。だが法律や、なによりリーフィエの反応が怖く、いつも告白には至れない。


 二人になれる時間は、たくさんあるのに……。


 無意識にリーフィエの方へ寝返った。


 するとリーフィエも、同じようにこちらへ寝返るところだった。


(息はピッタリなのにな)


 サンティアナは寂しげに笑った。

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