表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天秤世界のオオカミ幼女  作者: 鵺這珊瑚
第一章 迷路の町カタスリプス
3/79

第三話 幼女、大人三人を撃退する

 男たちはゲラゲラと笑った。いきなり戦うと言いだした幼女に、抱腹絶倒だ。


「こいつ、まさか大人に敵うとでも思ってるのか?」


「まったく、笑えますね親分!」


「まったくだ! しかも向こうから来てくれれば交渉の手間が省ける! こんな幼女が手に入ったら、報酬ザクザク一気に大金持ちだ!」


「そうですね! なんていったって、こんなに可愛いですもnゴヘッ!?」


 仲間の妙な声に振り返った男たちの目には、頬に右ストレートを食らう仲間と、宙で拳を食らわせる幼女が映っていた。


 あまりの衝撃に気絶してしまった男は人形のように倒れ、幼女は反作用で華麗に着地する。


「……かわいいってゆうな」


 そう言う幼女からは、オオカミのようなオーラが放たれ、男たちは背筋を凍らせる。


「ひっ! こいつやべえ……!」


「ひ、怯むな! たかだか幼女一匹だ!」


 親分と呼ばれた男に命令され、子分はナイフ片手に突撃――する間もなく、幼女に殴り倒される。


 残された親分は縮み上がり、ナイフを捨てて両手を上げた。


「お、俺は別に、お前たちをどうこうするってわけじゃなくてだな……」


「あ?」


 幼女が拳をもみもみすると、親分はさっと青ざめ、命からがらといった様子で逃げていった。


 幼女の側にいた男、ナキが呆気にとられながらも拍手を送った。


「先輩すごいです。それって多分、オオカミ時代の……」


「そう。あの女神、オオカミの力をそのまま使えるってゆってたんだ。だからダメもとでやってみたら、うまくいった」


 幼女リデルは、砂の地面に伸びる二人の男を眺めた。


「リーダーにすてられて、かわいそうに」


 リデルの慈悲の言葉に、ナキは深いため息をつく。


「また先輩は。他のグループのことに首は突っ込むものじゃないって、いつも言ってるじゃないですか」


「だけどさあ。このまま放っておくのもあれだし」


 リデルはナキと一緒に、男たちを木箱にもたれさせた。


「これでよし」


「リーダーが戻ってくるといいですね」


「なかまを思うやつなら、ぜったいもどってくるさ……うっ」


 突然リデルがよろめいて、建物の壁に手をついてしまった。


「先輩!?」


「だいじょうぶ。ちょっと、ふらっとしただけだ」


 ナキが手を貸そうとしたが、リデルは手を振り、助けは要らないとサインを出す。


「もしかしたら、その体だとオオカミの能力は負担が大きいのかもしれません」


「あ。だから、じかんせいげんがあるって、ゆってたのか」


「多分、そういうことなんでしょうね。……歩けますか?」


「……むり……いや、歩ける」


「今むりって言いましたね?」


「ゆってない」


「いや言いました。甘えがちになってくれてて良かったです。いつもみたいに無理したら、また体壊しますから」


 ナキは屈んで、背中を出した。


「人間の親子が、こういうことをしてた覚えがあります」


「……またむだな知識を。また人間の街に行ってたのか?」


「あ……はい……駄目なのは分かってるんですが、つい」


 ナキは昔から大の人間好きだった。


「まあ、すぎたことだし良しとしよう。で、のれってゆうんだろ?」


「はい。おんぶと言うそうです。遠慮せずにどうぞ」


 リデルは頬を膨らませ、しばらく背中を睨んでいたが、さらに催促されると観念したように、ナキに乗っかった。肩に座る形で。


「うーん。ちょっと違いますよ。これはたしか、肩車です」


「のれってゆったのはお前だろ! ほら、すすめ!」


「はいはい分かりましたよ。だからかかとを胸にぶつけないでください」


 表の大通りへ出ると、店がずらりと並び、威勢のいい声が張られていた。


 しかしその割に買い物客や通行人は少なく、店が繁盛していないように見えてしまう。


「なぜなんでしょうか?」


「たぶん、ノモス教が商売を優先するよう、ゆってるからだろうな」


「それも女神情報ですか?」


「ああ。さっきゆえば良かったな。いろいろ一気におしえてくれたから、あんまりおぼえてないんだ。小出しになってすまん」


「いえ、僕はいいんですが。なるほど、色々と興味深い宗教ですね」


 リデルがナキの黒髪に掴まっていると、通りかかった人や商人たちが、手を振ったり微笑みかけたりしてくれる。中には親子ですかと話しかけてくれる人もいた。


「そうだナキ、おやこで思いだした。かぞくだ、かぞくを探さないと」


「それはもちろんです。お母さんは体が悪かったし、姉は頼りないし、心配ですから」


 ナキの母はリデルの母、ナキの姉はリデルの妹にあたる。


「じゃあこれからは、ふきょうかつどうをしながら、かぞくをさがそう」


「そうですね。みんな人間に変わってるなら探すのは難しそうですけど、まあなんとかなります」


「ナキがそうゆうなら、たぶんだいじょうぶだな」


 リデルがふと前を見ると、向こうから、フードで顔を隠した人物が歩いてくるところだった。白いローブを纏ったその人物の異様な雰囲気に、全身の毛が逆立つ。首から提げているのは、輪っかだ。輪っかに鳥の羽と、貝殻と…………何かの牙が括りつけられている。


 リデルがその人物を睨んでいると、そいつはすれ違いざま、ナキに向かって指を振った。


 指を振る=魔法の図式が出来あがっていたリデルは、目を見開いた。


「ナキ、だいじょうぶか!?」



 するとナキが苦しそうに、むせかえり始める。



「おい、だいじょうぶか! おい!」


 頭を軽く叩いて応答を求めるが、ナキはずっとむせている。まるで何かが喉につまったようなむせかえり方だ。


 リデルが振り返ったときには、もうあの怪しい人物は見当たらなかった。


 ナキがさらに激しく咳き込み始める。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ