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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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私にお任せですよ

「ライゼンが失敗したようだな」

「奴は所詮、過去の英雄だ」

「皇帝国に負けるとは武王国の恥さらしめ!」

「だが失敗したとなると皇帝国への賠償が……」

「なに、一部の者が暴走しただけの話。なによりもすでにライゼンは部外者だ」

「ククッ、相変わらず根回しが良い」

「我らは魔獣の侵攻をいち早く察知し、軍を動かしていた。そうだな?」

「ハッ!」

「……それで、今後はどうなされるので?」

「慌てるな、機会はいずれ訪れる。その時こそ皇帝国の最期だ」






「などと言っていましたね」

「なるほど、です」


 かなり簡略化した俺の説明に、ミリアちゃんはこくこくと頷く。

 さらにカノン、アミスちゃん、ソフィーちゃん、そして珍しくミルフレンスちゃんまでも混ざって興味深げに耳を傾けていた。

 一気に話して疲れたけど、続きの期待に応えるべくお茶を含んで喉を潤す。

 青空の下、屋外に設置されたテーブルの上には暖かいお茶の他に、甘くて美味しい焼き菓子も用意されてあったものの、もうしばらくお預けのようだ。


 第二次魔獣事変と名付けられた騒乱より、数えて十日が経過していた。

 国境のノブナーガ無双で戦い自体は終結したが、あれだけ大規模な騒ぎが起きたのだ。はい終わり、とはならない。

 いわゆる戦後処理ってやつが残っていた。

 特に戦争を仕掛けておいて失敗した武王国がどんな行動に出るのか不明だったので、その対処にノブナーガやジェノたちは奔走していたのである。


 そこまでは俺の知ったことではない。

 と言いたいところだけど、また暗躍されてミリアちゃんたちが危険な目に遭うのは非常に不愉快だ。

 なので、渋々ながら武王国まで行ってきた。

 案内は拘束されていたルーゲインを秘密裏に引っ張り出し、さすがにミリアちゃんは連れて行けないので俺が【人化】した状態から【黒翼】でひとっ飛びだ。

 数日かけて到着した武王国の首都は、全体的に和風の雰囲気が漂っており、奥にそびえ立つでかい城も完全に日本のなんとか城である。

 実は道中で知ったのだが、武王国の正式名称は『ミカヅチ』というらしい。

 過去に召喚された勇者この世界に介入しすぎでしょ。

 だからといって気に病むこともなく城に忍び込み、その際に【迷彩】や【近距離転移】を駆使し、城内の罠は微量ながら漏れる魔力を【透視】、時には【鑑定】によって見破り突破するという……なんというか、ちょっとした潜入(スニーキング)任務(ミッション)気分だった。ダンボール箱はない。


 そうして発見した会議室で耳にしたのが、先ほどの会話というワケだ。

 同行させていたルーゲインによると、その中のひとりが武王だとか。

 思ったより普通のおっさんで拍子抜けしたけど、ホントにまだ悪巧みしていた点には恐れ入るね。

 俺は手っ取り早く済ませるため寝室まで侵入し、護衛がいなくなったのを見計らってから姿を見せて『話し合い』を敢行。

 ついには説得に成功した……という部分までをドラマチックに語る。

 ちなみに帰りは転移の魔法陣で一瞬だった。


「話し合いで解決するなんて、すごいですね」

「ちゃんと目を見て話せば伝わるのですよ、ミリア」


 なお【隷属の魔眼】がうっかり発動していたのは事故なのでしょうがない。

 追加で【永続支配】の効果が発動し、今もなお武王さんは俺の支配下にあるけれど、しょうがないのだ。

 まったく暗黒つらぬき丸のスキルはロクでもないな。


「これで武王国も大人しくなり、平和になるでしょう」

「さすがお姉さまですわ!」

「お父様たちも喜んでいましたね」


 ソフィーちゃんとアミスちゃんも無邪気に顔を綻ばせている。

 実のところ、武王さんには例のチョーカーを付けており、もしも俺の支配が解けたら一緒に持たせた爆薬で自殺するよう二重の支配状態にしておいたのだが、これは別に話さずともいいだろう。

 せっかくのお茶会が台無しだからね。


 お茶会といえば、これはカノンから提案されたものだったな。

 場所はミリアちゃんの屋敷の庭園で、芝生上に備え付けられた白いテーブルとイス、日を遮るパラソルに加え、慎ましくも鮮やかな冬の華に彩られており、オープンカフェのようなおしゃれ空間を演出している。

 天気もぽかぽかと暖かい絶好の茶会日和だけど、ちょっと驚いたのは提案したカノン自身も参加していることか。

 いつもならメイドとして給仕に専念するので新鮮な光景だったのだ。

 ミリアちゃんに聞けば、なんとカノンも元々はアミスちゃんたちと親友の関係であり、立場の関係から時間と共に現在のような距離感になってしまったのだとか。

 なら今回は、一種の無礼講の意味があるのか。

 みんなが笑顔でいられるなら、常に無礼でいいと思うけどね。


「ところでクロシュさん、ヴァイスさんは?」

「彼女でしたら所用で出かけていますよ」


 具体的にはインテリジェンス・アイテム側の残党を狩っている。

 トップのルーゲインと、幹部クラスだったらしい毒や魔獣を操る主要なやつらが敗北したと知ると、今度は末端の小悪党が好き勝手に動き出したのだ。

 前に言っていた抑止力が、どれだけ重要なのかがよくわかるよ。

 そこへちょうどヴァイスが『肝心な時に駆けつけられず申し開きもできない』などと罰を懇願していたので、各地で処刑人の如く動いて貰っているのだ。

 俺としてはすでにアミスちゃんたちの窮地を救ったと聞かされており、それだけで十分な手柄だと考えているのだが、なんとも殊勝なやつである。

 ただまあ、あれに関しては俺もみんなの護りが疎かになっていたという落ち度があり、あまりヴァイスには偉そうにできない。

 むしろ、あの騎士然とした姿勢に俺は敬意すら抱いていたりする。

 思い付きで付けた名前も、思いのほか彼女に相応しい。


 一方で助けられたアミスちゃんは憧れの『白の精霊剣』ことヴァイスに会えたのが嬉しかったらしく、襲撃など露ほども気にしていなかった。

 ソフィーちゃんもケガひとつしていないし、ミルフレンスちゃんは……まあ、ずっと大人しくしていたようなのでいつも通りか。

 そんな彼女たちは情勢が落ち着くまで、ミリアちゃんの屋敷に滞在する予定である。これはジェノたち保護者の頼みでもあった。

 俺の近くに置いておくのが最も安全だという意味らしい。照れちゃうね。

 しかし事実でもある。

 なぜなら、ここは俺以外の新たな守護者が警護しているのだから。


「……おや?」


 肝心のそいつが見当たらない。

 さっきまで近くをうろちょろしていたのだが、どこにいったのか。


「ミリア、コワタが見当たらないようですが知りませんか?」

「え、コワタでしたら……」

「気付いてなかったのですね」

「クロシュお姉さま、肩に乗っていますわ」


 なんと!?

 言われて目だけを動かすと、俺の左肩に真っ白な毛玉がぴったりと……。

 音や重さどころか気配すらなく忍び寄るとは、やりおる。


 左腕を伸ばすと今度はそちらにススッと移動して手の平に収まる。

 うん、もふもふだ。

 これがなんなのかと言えば、ワタガシの眷属らしい。

 そもそも眷属ってなんだと思うが、とりあえず同族の配下と認識しておいていいようだ。毛玉仲間ね。

 そして、なぜここにいるのかは絶対もふもふ戦線での一件が原因と言える。

 なにを隠そうこの毛玉、武王軍から炎を浴びせられていた毛玉なのだ。

 どうも集中砲火から救ったのを理解しているらしく、恩を感じているとでもいうのか、懐かれたらしい。


『ワタガシの眷属が、人間たちと共に行くそうだ。連れて行くがいい』


 などと親毛玉の許可も出ているようだし、言うことを素直に聞いてミリアちゃんたちを護る手助けもしてくれるので引き受けたのである。

 あの大きさだと困るけど、見ての通り手の平サイズにまで縮小可能らしく、その癒されボディからミリアちゃんはワタガシのミニ版、コワタと名付けた。

 本人もポインポインと跳ねていたので喜んでいるのだろう。

 他の毛玉たちはワタガシと共に帰って行ったのだが、地中に沈むようにして一斉に消える毛玉群の光景は不気味だった。

 行き先は例の森だろうから、近くに用があれば寄ってもいいかな。


「コワタはなかなか私に懐いてくれませんね」


 手を伸ばしたミリアちゃんはコワタが反応せず寂しそうに呟くけど、こいつは俺以外の誰にも懐かないのだ。

 ある意味では信用が置けるけれど、もう少し愛嬌を振りまいてくれないかね。

 テーブルの上にそっと落とすも、すぐにころころと転がってテーブルの下に隠れてしまった。恥ずかしがり屋か。






 さて、残念だがお茶会ばかり楽しんでいるワケにもいかない。

 戦後処理など知らんと本気で言えるが、直接こちらへ影響するとなると無視はできないからだ。

 特に顕著なのは、エルドハート家の領地における諸問題だろう。

 ルーゲインの配下が荒らし回ってくれたせいで盗賊による治安の悪化や、物流の停滞に、あとは諸々にかかった資金をどうにか回収する必要がある。


 政治は理解できないので、だいたいはノブナーガに任せるしかないけどね。

 無事に当主の座に戻ったみたいだし、自分の仕事を果たして貰いたい。

 おまけにルーゲインへの処罰の一環として、エルドハート家の領内における無期限無報酬の復興協力が決定していた。要は奴隷である。

 やつは政治方面の知恵や知識を持っていた上に戦闘能力も高く、さらに善人と悪人を見分けるスキルを持っていたのであらゆる面で役立つそうだ。

 こうして考えると、なかなか便利なやつだな。 

 一部では裏切りを懸念されていたようだけど、そこは伝説の【魔導布】こと俺が保証して周囲を黙らせたという構図らしい。

 曖昧なのはノブナーガが勝手に俺の名前を使っただけで、一切そんなこと言ってないからである。

 それで上手く事が進むと言われたら事後承諾でも許すしかない。

 実際、直接的な被害者であるエルドハート家の提案ということもあって受理されたというし。あんな脳筋でもやはり貴族の政治家だ。


 だが武王国の扱いは、国家間の問題なので帝国に一任される。

 なんの役にも立ってないクセに後から出てきてと思うところはあるが、さすがに貴族でしかないノブナーガでは強く干渉できないのだ。

 向こうの王はとっくに傀儡だから、かなり賠償金を絞れるはずだけどね。

 ただし、この事実は悪用される恐れがあるとノブナーガからの指摘により伏せられ、信用できる少数のみに留めてある。

 つまり、やろうと思えば利益の独占も、搾取すらも可能だ。

 やらないけどね!

 ちょっと惜しい気もするが武王国には武王国で暮らす幼女もいるので、滅亡させて路頭に迷わせるのは本意ではなかったのだ。

 じゃあ被害の補てん分だけで済ませようと、ノブナーガとの合意を得る。

 お主も悪よのう。


 ついでに捕虜になっていた隻眼のじいさんの身代金で倍率ドン!

 これだけ儲かるなら戦争したがるワケだと妙に納得したね。

 じいさんに逆恨みされないか心配だったけど、廃人の如く真っ白になっていたので返しちゃっても大丈夫だろう。

 国境での様子から過去に理由があると思われるが、真相はわからず仕舞いだ。

 そういえば名字が武王国と同じ『ミカヅチ』だったので、ひょっとしたら王族の血筋だったりするのかもしれないな。

 特に興味はないけどね。


 と、そんな感じで実のところ大半の問題が片付いてしまっていた。

 しかし俺的には、ここからが真の戦いである。

 というのもルーゲインが事を起こした目的……転生したインテリジェンス・アイテムたちの救済が残っているのだ。

 多くの転生者を探しだし、装備者を確保し、滞在する場所を用意する。

 これは俺の力だけではどうしようもなく、多くの人に協力を求めなければならなかった。

 いくつか案はあり、すでに手段を講じて動いてはいるが進捗はどうだろう。


「ミリア、例の件ですが」

「あのクロシュ様、今はそういったお話は……」

「……そうでしたね」


 カノンに諌められて俺は反省する。

 そうだ、せっかくのお茶会でこんな話は無粋だろう。

 ようやく落ち着いて過ごせる時間がみんなに戻ったのだから、今はまだ、お茶会ばかり楽しんでいればいいのだと自分に言い聞かせる。

 ならば雰囲気を変えるためにも、ひとつ思い出したことを尋ねてみよう。


「ええとミリア、学校……学士院はそろそろ休みが明けるのでしょうか?」


 前に学校の存在と、冬休みに入っているのは聞いていたが、いつ新学期が始まるのかを聞き忘れていたのだ。

 ミリアちゃんが継ぐ予定だった当主の座も、正式に継承していなかったので次期当主に確定として落ち着き、気がねなく通えるようになったからね。

 今後の予定は把握しておかなければ……というか学校ってどこにあるんだ?


「はい。実は先ほどから言おうと思っていたのですが、三日後には学士院がある帝都に滞在しなければならなくてですね」

「え?」


 滞在って学生寮……いや、そっちにも屋敷のひとつや二つありそうだけど。

 つまり学校は帝都にあるようだ。


「あ、私もです」

「お姉さま、私とミルフィもですわよ」

「ええっ!?」


 たしか帝都の位置は、ここからだと結構な距離があったと記憶している。

 じゃ、じゃあ……みんなとは残り三日で離ればなれに?


「私はどうすれば……」


 恐る恐る確認してみる。


「その、できれば一緒にきて頂けたら嬉しいのですが……」

「いいですとも!」


 即答である。

 ミリアちゃんが寂しげに頼めば、隕石だってダブルで天から降り注いで世界を滅ぼしちゃうよ。


「ですがクロシュさんには大事なお仕事があるので、ご迷惑では?」

「いえ! ありますがそこは……そう! 転移の魔法陣がありますので!」

「それでは本当に一緒にきてくれるんですか?」

「もちろんですとも」


 これ、もし魔法陣がなかったら一緒に行けなかったのか。

 便利だけど使い道あるかな、なんて考えてた俺が愚かだった。

 思い出させてくれた幼女神様に深く感謝しよう。

 それにしても学校か。

 ……俺も装備されていれば一緒に行けるか?

 ああ、でも制服を着て登校するミリアちゃんの姿が見れないな。

 うーん悩みどころだ。

 なにはともあれ未来は明るいとわかって安心する。

 俺は俺で、とある事業にも着手していて上手くいきそうだし。


 うむ、不安要素がまるでないぞ。


 それは、どうかなー。


 おや幼女神様、ずいぶんと不穏な発言ですな。


 クロシュくんが、きらいなもの、なにかなー?


 俺が嫌いなもの……?

 そんなのあっただろうか。

 好きなものは即答できるんですけどね。

 あ、男に装備されるのはイヤかな。


 くるよー。


 コワタを指でつつきながら言う幼女神様。

 なにがと思うよりも先に屋敷のほうから足早にメイドがやって来ると、ミリアちゃんへ一枚の書状を手渡した。

 それに目を通したミリアちゃんは次第に表情を輝かせる。


「く、クロシュさん、すごいです!」

「どうしましたミリア?」

「皇帝陛下へ報告をかねた謁見と、武功を称える凱旋パレードと祝賀会を開くそうで、帝都まで赴くようにとの報せが届きました!」


 わぁと歓声をあげるカノンに、アミスちゃんとソフィーちゃん。

 これは彼女たちが喜びを露わにするほどの快挙なのだろう。

 俺も空気を読んで賛辞のひとつでも言っておくか。


「あれだけの戦果を挙げたノブナーガですから当然でしょうね」

「いえ、クロシュさんです」

「……ん?」

「クロシュさんのお祝いですから」


 言っている意味がイマイチ理解できなくて首を傾げる。


「な、なぜ私が?」

「なぜと言われましても」

「あれだけの活躍をされた訳ですし」

「お姉さまなら当然ですわ!」


 俺がやったことと言えば、ミリアちゃんたちの笑顔を取り戻しただけだが。

 あとルーゲインを倒したくらいか。

 それをパレードとな?


「パレードというのはもしや、馬車の高い位置に座らされて大勢の人が立ち並ぶ通りを練り歩くようなあれでしょうか」

「ちょっと違う気もしますが、だいたいそんな感じかと」


 さらにアミスちゃんが補足する。


「それと謁見はただ報告するのではなく、どのような人物かを見定める場でもあると聞きますね。つまり皇帝陛下が気にかける相手を招待する意味合いもあるそうなので、これはクロシュさんが一目置かれている証拠ではないかと」


 なんかいつの間にか注目を浴びてる!?


「さすが聖女の再来と称えられているお姉さまですわ!」

「ちょっと待ってくださいソフィー、それはどういう?」

「クロシュさんは、かつて魔獣事変を治めた聖女ミラの再来と言われているんですよ。知らなかったのですか?」

「は、初耳ですが……それに聖女なら私を装備できるミリアだったのでは」

「私はほとんどなにもしていませんし、クロシュさんが活躍したのは本当のことですので、お父様がそのように……」


 ノブナーガの仕業か!

 だいたい、正確には毛玉たちの手柄ではないだろうか。

 視線を落とすとコワタが膝の上でもふもふしている。

 これは、あれか。

 ワケのわからない物体が帝国を危機を救ったなんて珍妙な事実より、大天使ミラちゃんの姿である俺が救ったとしたほうが体裁がいいとか、そんな理由っぽい。

 だったらミリアちゃんの功績にすればとも考えたけど、俺以上にミリアちゃんを想っているネイリィがいながらそうしないのは、きっと不都合があったからだ。

 それならそれで先に言っておいて欲しい。


「いえ、しかし、ですが……」


 実際にパレードの主役として参加し、お偉いさんに謁見なんてしたらどうなるのかを想像する。

 ぜっっったいに、目立つ。

 これが数人、多くとも数十人程度ならまだいい。

 見られていると意識できなければ、それもいい。

 でも何百人、いや何千人、もしかしたら何万という人たちの前に出て、見世物となってしまうなんて……俺の精神が耐えられる気がしない。

 例え悪意など一切なく、羨望の眼差しで見られるとしても、大勢に注目されるだけで、どうにも恥ずかしく感じるのである。

 理由なんてわからない。

 ただ人によってはなんともない話でも、俺にとっては多大なストレスなのだ。

 さっき幼女神様が言っていたのは、このことだったのか。

 せめて脇役であれば……というか辞退しよう。そうしよう。


「あの、私はじた――」

「私もクロシュさんと並んで参加できるそうなので、とても楽しみです!」

「ぇ……」

「そうだクロシュさん。まだ時間はありますけど、明日にでも新しい式典用の礼服を仕立てに行きませんか? いつまでもお母様の古着では申し訳ないですから、他にも普段着や寝巻などもまとめて揃えましょう!」


 眩しい笑顔で嬉しそうに、本当に嬉しそうに話すミリアちゃん。

 そんなの見せられたら……。


「え、ええ、私も楽しみですとも。いやぁ……楽しみですたい」


 そのご、クロシュくんの、すがたを、みたものは、だれもいなかったー。


 まだゲームオーバーには早いですよ!

 なんとか、なんとか目立たず注目を避ける方法を……。


「クロシュさん」

「え、あ、はい? なんでしょうミリア」

「振り返ると色々ありましたけど、終わってみればあっという間です」

「そうですね」

「これからも同じように、なにか悲しいことが起きても今日みたいに笑って話せればと思います。その時はまた、ご迷惑をおかけするかもしれません」

「ミリア……」

「それでも私はクロシュさんにこう言いたいです。これから先も、どうかよろしくお願いします。……というのは、やっぱりワガママでしょうか?」


 頬を赤らめて照れ笑いするミリアちゃんには、俺の答えなんて言うまでもなくお見通しだっただろう。

 だけど敢えて問いかけたのは、はっきりと俺の口から聞きたいからだと察した。

 答えを確信していて聞くなんて、ちょっとずるいようにも感じて意地悪したくなるけれど、俺は邪念を隅へと押し込んで言葉を選ぶ。


「こちらこそ、これからもよろしくお願いしますよミリア。それと」


 続けて最後に問いかけへの答えとして、俺はこう言った。


「その時は、私にお任せですよ」

「はい!」


 そんなやり取りは、他にカノンだけが知っていた。

 初めて俺がミリアちゃんを救おうと【合体】した時のやり取りに似通っていたことを。

 当然ミリアちゃんも気付いたようで、より一層の笑みを浮かべて返事をくれる。

 あの時はまだ信頼されていなかったのに、今ではこうして心からの笑顔を見せてくれるまでになった。

 明るいだけの未来じゃないけど、それでも和やかにお茶会は続く。

これにて二章は終了となります。

お疲れさまでした。ありがとうございます。

今後の予定は活動報告をご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] とっても面白くて一気に読み進めてしまいました! 途中でねこが出てきたけど、暴露してないので大丈夫です なぜなら、ねこです。 よろしくお願いします。
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