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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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勘違いしていたようです

遅く&長くなりました。

 ルーゲインは間違いなく【合体】を使っていた。

 それはスキル欄にあるのを確認しているし、グレイルの体を自在に操っていたことからも確実だろう。

 俺とミリアちゃんの【合体】であれば、体の持ち主であるミリアちゃんの意識は俺の心の中にあるというべきか、奥深くに入り込んでいる感覚で、これまで表に出るような気配すらなかった。

 だというのにグレイルは体の主導権を取り戻している。

 おまけにどうやら、ルーゲインの意思に反しているようだ。

 そんなことが可能なのか?


「グレイル……どうやって?」


 俺の疑問を代弁するように、ルーゲインが衝撃を隠せない声色で尋ねる。


「まあいいか、どうせ最後だからな。教えてやるよ」


 自身の両手に嵌められた黄金のガントレットに視線を下ろす。

 その目は、味方や協力者に向けるものではない。

 もっとおぞましい、別のなにかだ。


「わかりやすく言うとだな、あの国は初めからお前らを利用できるだけ利用したら切り捨てるつもりだったんだよ」

「切り捨てる……武王国が、僕たちを?」

「当然だろ? 道具に新しい国を与えるバカがどこにいるんだ?」


 吐き捨てるような言葉を前にして、俺は庭園での出来事を思い出す。

 ルーゲインはこう語っていた。


『僕たちは物ではなく、ちゃんと生きているのだと主張するために、これまでのインテリジェンス・アイテムではなく無機生命種(イノオルガ)と自称しているんです』


 俺の周囲にいる人たちは、みんな優しかった。

 初めこそミリアちゃんの対応は冷たかったけど、今ではお互いに信頼している。

 それはカノンやナミツネに、フォル爺やクーデル。アミスちゃん、ソフィーちゃん、ミルフレンスちゃん。ノブナーガやネイリィも同じだ……。

 みんなが俺をひとりの存在として受け入れてくれていた。

 あまりに当たり前のように過ごしていたから気付けなかったけど、もしかしたら俺は恵まれていたのかも知れない。


「でもまあ素直に従ってくれたり、あっちのお嬢さんぐらい見た目が良ければ他にも使い道はあったんだけどな。お前みたいな出しゃばりはダメだとよ」

「ふざけるなっ!」

「誰もふざけてなんかないさ。その証拠に……命令だ、黙れ」

「…………」

「最初からこうすれば良かったな」


 ほんの一言で、ルーゲインは沈黙した。

 スキルを使ったようには見えず、原因は不明だ。

 ただ、その言葉が本当に道具を扱うみたいで……。

 ちょっと不快だ。


「ははっ、なにが起きたのか解らないだろ? いつまでも国がお前たちを放っておくと思ったのか? とっくに研究済みなんだよ」


 嘲笑いながら首元のチョーカーを指差す。

 なんの変哲もない飾りにしか見えない。


「こいつがあれば道具に支配されるなんてこともなく、道具を正しく扱えるってわけさ。本当だったら、もうちょっと後で披露するつもりだったんだけど……お嬢さんに負けそうだから仕方なく、な」



【道理の円環】(Bランク)

 装着者を仮の支配状態におき、他者の支配スキルを任意で拒否できる。

 この状態は装着者が身に着ける物にまで及び、装着者が支配可能。

 ただし装着時に設定された大元の支配者からの命令が最優先される。

 支配者:ライゼン・ミカヅチ



 俺が【鑑定】した限りでは、ちょっと違う気もするが結果は同じか……。

 それで説明は終わりとばかりにグレイルはガントレットから視線を外すと、次はこちらに振り向いた。


「さて、待たせたね。改めて挨拶しようか。冒険者の身分は世を忍ぶ仮の姿……その真実は武王国に実力を認められ、真の作戦総指揮者に任命された光輝なる閃光騎士グレイルだ!」


 ポーズまで決めて自信満々に宣言するので、なにか裏があるのかと警戒する。

 しかし、次の言葉で単に頭が悪いだけだとわかった。


「早速だけど降参してくれないかな」


 どいつもこいつも降伏勧告が好きか。


「そう言われて、言う通りにするとでも?」

「あれぇ? おかしいな……ああ、そっか! まだ理解していないのかな?」


 その口調はふざけているのか本気なのか。

 どちらにしても、まともに相手をしているほどヒマじゃない。

 ……準備だけはしておこう。


「あまりに強すぎて使いたがらないが、こいつには最強の力があるのさ。そして今は誰がその力を手にしたのか、もう言わなくてもわかるだろ?」


 言いながらガントレットを正面に掲げる。

 そういえばルーゲインはSランクスキルを持っていたはずだ。

 もしかしなくとも、それが最強の力とやらだろう。


「素直に従うなら命だけは助けられるんだけど、どうかな?」


 仮に降参したところで自由を奪われるのは、ルーゲインの現状が如実に物語っていた。俺すらも道具扱いするつもりなのは明白だろう。

 初めから、答えはひとつしかないので単刀直入に返す。


「死ね!」


 反射的にグレイルの魔力が動きを見せていたが、あまりに遅い。

 すでに布槍は放たれ、蛇の如く地を這い、背後から忍び寄っているのだからな。

 そして抵抗はおろか気付かれることすらなく、布槍が間抜けな背中に突き刺さると鋭利な矛先は肉を裂き、胸を突き破って鮮血と共に飛び出した。

 卑怯? 勝てばいいんだよ!


「あばぁぁぁあぁぁ!?」


 呆気ない最後だ、と思ったら生きていた。

 心臓を貫いたつもりだったけど外してしまったらしい。

 そもそも臓器の正確な位置とか知らないから仕方ないね。

 白目を剥いて悲鳴をあげる様子からは、最強の力とやらを使う余裕もなさそうなので構わないだろう。

 どれだけ強い力があろうと使えなければ意味がないのだから。

 放っておいても、すぐに息絶えるだろうけど面倒だし、このままトドメを刺して次はルーゲインを……!?


「っ……ぁ、き、きょっこう――」


 一瞬、グレイルが首に巻くチョーカーから妙な魔力が漏れたかと思えば、瀕死で声を発することも難しいはずなのに、血の泡を吹きながら掠れた声で発音した。

 そのスキル……【極光】の名を。


「いけない、逃げるんだ!」


 ルーゲインの声が聞こえた気がしたが、それよりも先に光が走る。

 ほんの一瞬、瞬きする刹那よりもさらに短い時間。

 俺たちを取り巻く状況は一変した。


 これまでの魔法による熱線(ビーム)や、光の矢などは見た目こそ光そのものであり、その速さは音速を超えていたが、まだ距離を取れば視認できたし、こちらも高速で飛び回っていれば避けるのも難しくはなかった。

 だけど、これは違う。

 正真正銘の光速(レーザー)

 人間が持つ知覚速度では決して認識できない速度がガントレットの手の平より放たれると、音を置き去りにして一直線に地平の先まで焼き払い、射線上一帯を焦土と化してしまった。

 次いで生じた爆発と、押し寄せる熱波をまともに受けて俺も吹き飛ばされそうになったが、なんとか布槍を地面に突き刺して留まる。

 グレイルに刺したほうは焼き切れたが、気にしているヒマはなさそうだ。


 大失態だった。

 あの状態でスキルを使うほど根性があるとは思えなかったのだが。

 腐っても鯛ってことか……。


 結界がなければ焼け死ぬほどの高温に包まれる中、土煙が晴れるのを待つまでもなく、それすら吹き飛ばすようにグレイルの体が激しく発光した。

 今度は両手のガントレットを真上に向けると、手の平の内側をキラキラと光が乱反射し、金色の太陽を掲げるように生成した。

 眩い輝きとプラズマを放ち、大地すら融解させ、絶えず周囲に破滅を撒き散らす光源体となったグレイルは、まさに光輝の閃光騎士といった感じだ。

 なんて言っている場合じゃない。

 今はまだ無差別に周囲を攻撃しているだけだが、再びレーザーがこちらへ向けられてしまったら回避するのは不可能だろう。

 俺が『目で見た』と認識した時には、すでに当たっているのだから。

 それとも【虚無】で打ち消せるか?

 いやそもそも、なぜグレイルはあの傷でまだ生きているんだ?


「早く逃げてください……」


 再びルーゲインの声がする。聞き間違いではなかったようだ。

 命令されて話せないはずじゃなかったのか。


「今の僕は、自分で自分を制御できず、このままでは魔力が尽きるまで止まりません。早く射程外まで逃げてください!」


 言われて気付く。

 顔を俯かせたまま直立するグレイルだが、すでに死んでいるようだ。

 別のなにか、ルーゲインでもない何者かがやつを操り、最後にすべてを巻き込む無差別攻撃を実行させた……いや、死した今も実行させ続けているのだろう。

 間違いなく例のチョーカーが原因と推測する。

 そうとわかれば話は早い。


「だったら、そいつを破壊すれば!」


 放っておけば城塞都市にまで被害が及ぶ危険性がある以上、逃げるという選択肢はない。

 俺は【虚無】を纏わせた布槍を差し向けるが、触れる前に焼き切れてしまう。

 やつからは魔力を伴った光が常に放出されているため、近付くだけでも高熱で焼かれるようなダメージを受けてしまうようだ。

 この威力、俺の【簒奪】と【虚無】に並ぶSランクスキルなだけはあった。

 ならば作戦を変更し、螺旋刻印杖を撃つ!

 同様に【虚無】の魔力で形成した魔力弾だったが、これすら届く前にどんどん縮小し、最後は逆に掻き消されてしまった。

 まさか向こうのほうが出力が高いのか?


「危なっ!」


 結界が火花を散らし、凄まじい勢いでMPが削られたので慌てて離れる。

 徐々に金色の太陽が膨張して、距離を取ってなおダメージを受けたようだ。

 というか【虚無】で打ち消せていない?

 このスキルはどうも、マイナスのエネルギーで対消滅させるものらしい。より簡単に言えば相手のエネルギーとの引き算をするワケだ。

 こちらが百でも、相手が百五十なら、残り五十は残ったままとなる。

 もしレーザーが直撃したら本格的にマズイ予感がした。

 ここは念のために【予知】を使って回避を――。


 だめだよー。


 え、幼女神様……あっ。

 唐突に俺は身動きひとつできなくなっていた。

 いったい、なにが起きているんだ?


 あぶなかったねー。


 その声と、視界の端に現れた黒髪の幼女で察する。

 どうやら幼女神様が時を止めてくださったようだ。

 そして目前に迫る強烈な魔力からすると、レーザーの直撃を受ける寸前らしい。

 見えないけど、見えていたら当たっているからね。


 つまり、俺は負けたのか。


 あいうち、かなー。


 ミリアちゃんを護れなかった時点で俺の負けですよ。


 自分の力でガンバってここまで戦ったけど、やっぱりツメが甘いらしい。

 どこで失敗したのか。

 傷を恐れず全力で戦うべきだった?

 グレイルを殺すべきではなかった?

 先にルーゲインを殺すべきだった?

 みんな無視して逃げれば良かった?

 答えは出ないし、もう遅い。

 完全なる敗北だ……今回は。


 ところで幼女神様、なんで【予知】を使うのを止めたんです?


 これは数秒先まで見通す、まさに予知をするスキルだ。

 レーザーの発射を事前に知っていれば、避けられると考えたのだが。


 つかったら、ほんとうに、あたるよー。


 それは、どういう意味で?


 かさなったねこが、しゅうそくするよー。


 重なった猫?


 意味は理解できなかったが、幼女神様がダメだと言うのならダメなのだ。

 それにまあ、どちらにせよ使う前にレーザーに焼かれていたみたいだし。

 使うのであれば、もっと早く使うべきだった。そう考えると俺はグレイルを笑っていられないほど大バカだ。

 いやいや、俺はそれほど頭が良くないなんて知っていただろう。

 ただ……そうだな。

 もう少しぐらい、上手くできるんじゃないかって自分を信じられそうだった。

 結果はこのザマだけど。


 クロシュくんは、よく、がんばったよー。


 ホントに?


 つぎは、もっと、がんばれば、いいんだよー。


 よし、じゃあ次はもっとガンバリます!


 幼女神様に慰められたら元気も出てきたようだ。

 逆にいつまでも落ち込んでいるなんて幼女神様に失礼だね。


 では情けない話ですが、よろしくお願いします幼女神様。


 まかされよー。


 こうして助けられるのは何度目だろう。

 不満ひとつ言わずに世話を焼いてくれて心から感謝しかない。

 まったく幼女神様は最高だぜ!

 だからこそ、甘えすぎるのは気が引けていたんだけどね。


 じゃあ、さいごの、しゅだん、かなー。


 いきなりですか。


 かなり、ギリギリ、だからねー。


 光速で超高熱エネルギーが接近していますからね。

 秒で何万キロメートルだったか。


 ほうほうは、ひとつだねー。


 その方法とは……?

 よもや、また何百年も眠るのではと動かない体で雰囲気的に身構える。


 とりあえず、まおーに、なろっかー。


 魔王?


 前に聞いた限りでは怒りや憎しみが増幅し、俺の意思が消えてしまうデメリットがあったはずだ。

 もっと言えば、いくつかの条件を満たす必要がある。

 たしか人の魂を得るのは前回でなかったことにしちゃったし、他にも英雄を殺すとかあったような気がする。


 えーゆーは、もう、やったでしょー?


 やった……殺った? 誰だっけ?


 あれー。


 ちっちゃな指で明鏡止水みたいな金色のグレイルを差す幼女神様。

 あいつって【英雄】の称号なんて持ってたっけ?

 言われてみれば、似たようなのはあった覚えが……。

 それをさっき殺したから、条件を満たしたと。

 じゃあ魂のほうは。


 たりない、かなー。


 ダメじゃん。


 だから、ちょっとだけ、よー。


 ふむ……少しの間だけ魔王化するならデメリットも大丈夫ってことなの?


 おためし、きかん、だねー。


 そんな化粧品や健康食品じゃないんだから。


 にたような、ものだよー。


 魔王って……。


 そんな、かんじで、ぽちっとなー。



 【称号、強欲の魔王(仮)を取得しました。】

 【スキル、強欲を取得しました。】



【強欲の魔王(仮)】

 世界を壊す七つの魔王、そのひとつ。

 欲深き者よ、渇望せよ。

 なお、おためし、きかんにつき、いろいろ、ごりょうしょう、してねー。


【強欲】

 魔王だけが持つ異能。

 強い望みに呼応してあらゆるスキルを創造し、我が物とする強欲の業。



 称号がどうにも締まらないな。

 とはいえスキルの効果は別格だ。説明通り、好きなスキルを自由に手に入れられるのならバランスブレイカ―でしかない。

 この世界の均衡的なのが心配になるけど構わないの?


 まおー、だからねー。


 世界を壊す存在だからいいのか。

 そしてスキルランクは……EX?

 ノブナーガの【竜体化】や、ネイリィの【解体真書・四識】と同じだ。

 今さらだけどランクEXって、どういう扱いなんだろう。


 ほかにない、とくべつな、スキルかなー。


 いわゆるユニークスキルか。

 簡単に分類するとSランクまでは格を表すが誰でも取得できる範囲で、EXは特定個人だけが取得できる専用スキルなのだろう。


 それで、どうやって使うんですかね、これ。


 ねがえー。


 願うの?


 さすれば、あたえよー。


 俺が欲しいスキルを想像すればいいようだ。

 まあ、やってみようかな。


 ぐたい、てきにはー?


 この窮地から脱出し、どんな敵にも負けない力……じゃないな。

 俺の本分は、俺の望みは護ることにある。

 だったら願うのは、必ずミリアちゃんを護れる力だ。

 ……あとミリアちゃんと、もっと仲良くなれたらいいな、という欲も混ぜたり。


 いえー、ごうよくー。


 強欲の魔王ですが、なにか?


 いいんだよー。


 いいんだ。


 はい、これー。



 【スキル、融合を取得しました。】



【融合】

 装備者と同一化する。融合中はステータスは超強化される。



 なんだか【合体】に似ているけど違いは超強化と、MP消費なし?

 上位互換ということか。

 それと同一化という言葉は気になる。

 というか、普通に幼女神様がくれたように感じたんですけど。


 なんの、ことやらー。


 ううむ怪しい。

 そして、もうひとつ疑問が。

 この【融合】ならレーザーを受けても大丈夫なの?


 しんじるものはー。


 救われる、というのは少し間違いか。

 別に疑っていたわけじゃないけど、確認するまでもない。

 これを取得したのは幼女神様の導き。

 だったら俺は、もう救われているも同然なのだ。


 さっそく、つかって、みたまえー。


 イエス、マム!


 止まった時の中では、スキルを使えても変化が起きない。

 だから【融合】を使用したと同時に、幼女神様は時の流れを戻したようだ。

 先にレーザーの直撃を受けてしまったら意味がないけど、光の速さもゼロ秒で届くワケではなく、その極僅かなタイムラグで【融合】は効果を発揮した。

 視界が白に、真っ白に埋め尽くされる。


「ああっ……!」


 ルーゲインの悲壮な声だけが聞こえた。

 向こうから見れば、俺は無残にも光に呑み込まれて蒸発したかのように思えただろうが、どうやらなんともないようだ。

 結界も【虚無】も使っていないのに、ビクともしない。

 いったい、どうなっているのかステータスを確認すると。



【クロシュリア】


レベル:???

クラス:強欲の魔王・融合体

ランク:☆☆☆☆☆☆☆(プリズム)


○能力値

 HP:9998/10000

 MP:15000/15000


○上昇値

 HP:B

 MP:S

攻撃力:B

防御力:B

魔法力:A

魔防力:A

思考力:C

加速力:B

運命力:B



 よし、順番に処理しよう!

 まずは名前だな。

 これは俺とミリアちゃんの名前が合体、ではなく融合しているのかな?

 ちょっと強引だけど、大した問題ではないな。


 次、クラスは【魔導布】から【強欲の魔王】になった。

 融合体と付いているのは、文字通り融合中だからか。

 ランクは星が七つ。

 前は五つでミスリルだったけど、二段階昇格している。

 どこまで上がるんだろう。


 それが、さいこう、だよー。


 魔王のランクだから当然と言えば当然なのか。

 まったく自覚とか実感はないけどね!


 さて、ここからが問題だ。

 HPとMPが尋常ではない。

 いつの間にリミットブレイクのアビリティを取得していたんだ。

 ちょっと減っているのは、現在【極光】を受けているせいか。

 なぜ、そうなるのかは魔防力から理解できる。

 他も異常なほど強化されていて、もはやインフレ状態だ。

 【合体】がスーパークロシュ2だとしたら、【融合】はスーパークロシュ3ってところかな?

 今はクロシュリアだったか。

 ところで、いい加減にレーザーがウザったい。

 これだけの魔力があれば……!


「波ぁーーー!」


 気合を入れて【虚無】の波動を両手から放ってみた。

 傍から見れば黄金の極光が、漆黒の極光に塗り潰されていただろう。

 勢い余って金色の太陽すら掻き消してしまうと、一条の黒色は夕暮れに染まった天を貫き、本物の太陽までも沈めて世界に闇をもたらした。

 拮抗すらさせない、圧倒的なまでの魔力に俺は……。


「……うん、やりすぎ」

 

 軽く引いた。

 ナニコレ。いきなり夜になったけどダイジョブ?


 ちょうど、よるになった、だけかなー。


 あ、ああそうだよね。

 まさか太陽を消すなんて、いくらなんでも……。


 いまは、まだ、むずかしいねー。


 いずれできるんだ……。

 魔王、恐るべし。


「な、なぜ生きて……【極光】は? その金色の瞳は……?」


 ルーゲインも心底、困惑したような声を出す。

 見れば輝きを失ったグレイルは不動のままで、もはや動く気配はない。

 金色の瞳というのは、ひょっとして俺の目の色が変化しているのだろうか。

 黒髪に金の眼とは、幼女神様みたいでいいね。


「とりあえず、はい【簒奪】」



【簒奪に成功しました。極光を取得しました】



 また使われると危ないので布槍でガントレットに触れて奪っておく。

 ついでにグレイルのチョーカーを外して取っておこうね。

 壊そうかとも考えたけど、その前に調べておきたい。

 外した途端にグレイルの体がドサリと崩れ落ちた。

 野ざらしはどうかと思うので【浄火】で焼いてやろう。

 後に残ったのは、煤けた黄金のガントレットだけだ。


「さあ時間がないから要点だけ聞くぞ」

「……なにを、ですか」


 まだ魔獣の件が片付いていないので、のんびりしていられないが、俺にはどうしても聞いておきたかったことがある。

 抵抗する気はないのか、焼けた大地に横たわるガントレット。【人化】するつもりもないらしい。


「どうして最初から【極光】を使わなかったんだ?」


 もし初めからレーザーを受けていたら、一瞬で終わっていただろう。

 もちろん幼女神様がいれば同じように時を止めて、スキル取得まで導いてくれたから結果は変わらない。

 だけど、やつはそれを知らずに使わなかった。


「……あなたが、悪人ではないからです」


 静かにルーゲインは語り出した。


「僕は、この光は悪を断罪し、虐げられる者を救済する力です。そのために僕はここまで強くなった。それを実現する力を手に入れ、戦ってきたのですから」


 理解はできないが、こいつなりに信念があった。

 俺がミリアちゃんを護るために戦うように。

 それだけの話だろう。


「……あなたにだって力が、強い力があります」


 聞きたかった話は終わりだが、ルーゲインは語気を強くして続ける。


「僕には、僕では無理でも、あなたには多くの人を助けられる力がある。それだけの力があるのに、なぜ……」

「なんでと言われても、逆になんで助けなきゃいけないんだ?」

「あなたにも、力を持つ者が背負う責任があるはずです!」

「ないよ。そんなもの」


 俺が強くなったのは幼女のためであり、ミラちゃんのためであり、ミリアちゃんたちのためだ。

 例え無責任だとか言われても、そこは変わらないし、変えようがない。


「だいたい力を持つだけで責任が伴うなら、お前の言う悪人はどうなんだ。やりたい放題じゃないか?」

「では、あなたは悪人だと言いたいのですか?」

「護りたい者を護るのが悪なら、俺はそれで構わない。ただミリアちゃんを護るのは俺にとって正義で、ジャマするやつは敵というだけだ」


 実際、興味のない話だったけど、なかなか核心を衝いている気がするな。

 幼女とは、すなわち人類の……いや、世界の宝なのだ。

 それを損なう者など、人類に仇なす悪以外の何者でもないだろう。

 ルーゲインも同感なのか、反論はしなかった。


「そう、ですね……私の中に正義があるように、あなたにも正義が。だとしたら負うべき責任もまた人の数だけ……」


 なにやらぶつぶつと呟いているけど、今度こそお終いだ。

 あとは処遇をどうするかが悩みどころだった。

 俺の中で、これだけの騒ぎを起こしたのだから償いをさせるという考えと、危険だからさっさと排除すべき、という考えが拮抗している。

 すべてのスキルを奪うのもいいが、そうすると役立たずとなって償いなんて無理だろうし、面倒だからやっぱり消すか?


 そうだな、そうするべきだ。

 こいつだけじゃない、協力したやつらはみんな砕いて焼いて……。


 はい、おわりー。


 あ、あれ?

 急にもやもやした感情が消え去り、頭がスッとした。

 ステータスを見ると【強欲の魔王(仮)】の称号は消えている。

 ……もしかして魔王化の影響を受けていたのか。


 すこし、おちついて、かんがえよー。


 ありがとうございます幼女神様。

 だけど、俺がルーゲインを許せないのは変わらない。

 やっぱり、この場で始末するのが最善に思えるのだが……。


 あれの、もくてきは、なんだっけー。


 ルーゲインの目的?

 たしか国を作って、転生したインテリジェンス・アイテムを救うとか。


 じゃあ、クロシュくんと、おなじ、だねー。


 うん?

 俺の幼女を護るためなら他者を犠牲にしても構わない、という覚悟と共通しているのは認めますが、対象がまったく違うので同じとはどうも。


 おなじ、だよー。


 ……この言い方、もしや俺は『なにか』を見過ごしているのでは?

 幼女神様は同じだと言った。

 俺は幼女を護る。

 ルーゲインはインテリジェンス・アイテムを救う。

 そこに違いはないだろうがってことか?

 違うのだ、なんて否定するのは簡単だけど……。


 転生したインテリジェンス・アイテムと幼女……同じ……まさか!?


「る、ルーゲイン、あなたに確認すべきことがありますっ!」


 ひとつの閃きが俺の心を揺さぶっていた。

 もしも予想通りなら、とんでもないミスをするところだ。

 激しく動揺しながらも、ひったくるようにガントレットを手に取り詰め寄る。


「な、なんですか?」

「あなたが救おうとしているイン……無機生命種(イノオルガ)でしたか、その中にはもしかして……、幼い子供たちも含まれているのでしょうか?」

「それは、そうですね。様々な年代の人たちが無差別に連れて来られたようですので、僕が知っている中でも若い方は多いです」

「ああ……ルーゲイン、私はあなたを勘違いしていたようです」

「は?」


 そうだったのか。

 こいつが、ここまで頑なに他人を救おうとするのは。

 同じだ。俺と同じ信念があったんだ!

 俺たちは同士だ!


「私もあなたに協力することを約束しましょう」

「え、あ……え、えっ?」

「もちろん手段は非難されるべきですが、その目的は崇高なものでしょう。私には否定できません。ですので、これからは私が力を貸します。というより拒否は許しません。断るようであれば私がこの場で引き継ぎます。不承不承ながら庭園を乗っ取ります。すべての子供たちを救います! 答えはっ!?」

「あの……では、よろしくお願いします?」

「よろこんで!」


 中身のないガントレットと固い握手を交わす。

 ここに幼女同盟は結成された。

 この誓いは、ルーゲインが幼女を裏切らない限り、俺もまた裏切ることはない。


「差し当たって、先に魔獣をどうにかしなければ」

「あ、ええと、そのことで話さなければならないことが……」

「なにか?」

「実は、魔獣だけではないのです」

「というと?」

「魔獣の侵攻と共に、武王国が軍勢を率いて侵略を開始しています」


 初耳だぞ。

 だが待てよ。そうなると魔獣軍と人間軍、どちらも止める必要があるのか?


「先に魔獣が防衛線を突破し、大半の戦力を削って皇帝国に混乱を招いてからになるので、遅くとも明日の夜明けには国境付近で開戦するでしょう。ちなみに武王国側の主張としては、魔獣に荒らされる皇帝国を救援するために軍を動かしたという名目なので、他国の介入は時間的に見ても望めませんし、仮に魔獣を止められても完全武装した軍の強襲を受けてはひとたまりもありません。だからこそ僕が敗北しても作戦は成功し、目的は果たせると踏んでいましたが……」


 すでに武王国の裏切りを理解しているからか協力的に話すルーゲイン。

 しかし、まだ幼女同盟が残っているではないか。

 具体的にどうするのかは……今から考えよう!

あと2話ほどで二章も終わります。

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