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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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すべてを掻き消せ

 光弾、光線、光塊、光波……。

 黄金のガントレットから放たれる、あらゆる光と名の付いた攻撃に俺は天空を駆け、弧を描くように回避する。

 こちらも僅かな隙を見つけては螺旋刻印杖を撃ってはいるが、距離が離れているせいか威力が減退し、どうしても光の膜による防御を突破できずにいた。

 今さらだが属性には相性がある。

 やつの属性は【陽】なので俺は反属性である【属性付与・月】を弾に使用しており相性はいいはずなのだが……。

 それでも効果が見られないとは、よほど頑丈なのか。


 ええい、焦れったい!


 こうしている間にも城壁都市は疲弊し続けているはずだ。

 ルーゲインの言う通り、俺が足止めされているだけで事態は刻一刻と不利になっているというのに。

 距離を詰めれば二回目に撃った時のように、ある程度のダメージを与えることは可能だろうが、動きを阻害する魔法を使われると脱出に僅かな時間を要する。

 これまでルーゲインが見せた攻撃は威力が低く、まだ奥の手を隠しているとすれば、その数秒は致命的なミスに繋がりかねなかった。


 かといって無視して逃げようとすれば、この辺り一帯が魔力的な気配で覆われており、そう簡単には抜け出せない魔法の檻に囚われているのだと気付く。

 もしも……捨て身覚悟であれば楽に突破したり、あるいは勝てるかもしれない。

 だけど、この体はミリアちゃんの物だ。

 俺はミリアちゃんの体にキズひとつ付けたくなかった。

 それはワガママなんて生易しいものではなく、絶対に曲げられない信念だ。

 だから、このくらいの障害は軽く乗り越えて見せる。


 ひとまず、この場を離れるという考えは捨てた。

 魔法の檻を破るより倒したほう方が早そうだし、なによりもルーゲインを放っておくのは危険だからだ。

 そのためには杖だけでは足りない。

 俺はすっかり魔法少女の衣装と化した黒衣の裾を【変形】により伸ばすと先端部を刃先のような形状で固定し、さらに【武装化】の金属で覆う。

 いつもの布槍だが、今回は大盤振る舞いだ。

 枝分かれさせて左側から二十五条、右側から二十五条。

 初めての試みとなる、総数五十条からなる斉射として放つ。


「っ!」


 ルーゲインのギョッとした表情が遠くからでもわかったが、まだまだ!

 杖に莫大な魔力を送り込み、軋むような異音を鳴らしながらも特大の魔力弾は装填され、標的を討ち滅ぼす極大魔弾と化した砲撃を行う。

 左右から囲むように突き進む布槍に、中央を突破する極大魔弾。

 かなり魔力を持っていかれたが、ここまでやれば……!


「……フッ」


 わ、笑っただと?

 たしかにルーゲインは鼻で笑った

 そして両手のガントレットを地面に向けると黄金の魔力を照射して、ここへ訪れた時と同じ某ヒーローを彷彿とさせる手段で飛び立ったのだ。


 しまった……!

 さっきから固定砲台のように動かないから、もしかしたら動けないのかと推測していたのだが、それは高威力の攻撃を誘う罠だったようだ。

 あっさり上空へと回避されてしまい、多大な魔力を消費した俺の攻撃は土砂を巻き上げ、大地を抉るだけの結果に終わった。

 

「どうやら戦い慣れていないようですね」


 いちいちイラッとすることを言うやつだ。

 だが事実でもある。

 これまで俺が戦ったのは、ほとんどが格下ばかりだったし明らかな格上や、同等の相手はヘルと暗黒つらぬき丸くらいか。

 圧倒的な経験不足が、俺とルーゲインとの差なのだろう。

 しかし、それがなんだと言うのか。

 経験が足りないのなら、別のもので補えばいい。


 SP:388


 残りSPは十分にある。

 今の俺で勝てないのなら、勝てる俺になってやろう。



 【スキル、念話・上位を取得しました。】

 【スキル、宣託を取得しました。】

 【スキル、防護結界・個別を取得しました。】

 【スキル、防護結界・仲間を取得しました。】

 【スキル、防護結界・城壁を取得しました。】

 【スキル、援護攻撃を取得しました。】



 こうしている今もルーゲインからの攻撃を回避しなければならず、いちいち詳細を読んでいるヒマはなかった。

 宙を縦横無尽に飛び交う無数の光玉から放たれる熱線を紙一重で回避しつつ、ひたすら作業的にスキルを取得する。



 【スキル、属性耐性・陽を取得しました。】

 【スキル、属性耐性・水を取得しました。】

 【スキル、属性耐性・雷を取得しました。】

 【スキル、属性耐性・地を取得しました。】

 【スキル、属性耐性・氷を取得しました。】

 【複合スキル、全属性耐性を取得しました。】

 【スキル、属性付与・地を取得しました。】

 【スキル、属性付与・氷を取得しました。】

 【スキル、属性付与・雷を取得しました。】

 【複合スキル、全属性付与を取得しました。】

 【スキル、異常耐性・毒を取得しました。】

 【スキル、異常耐性・呪を取得しました。】

 【スキル、異常耐性・狂を取得しました。】

 【スキル、魔力障壁盾を取得しました。】

 【スキル、温度調節を取得しました。】

 【スキル、空腹軽減を取得しました。】

 【スキル、睡魔軽減を取得しました。】



 合計で131を消費してSP257となったが、これで終わりじゃない。

 取得したことで新たに出現した派生スキルがある。

 もっとだ、もっと……あいつに勝てる力が欲しい。

 幼女神様にも頼らず、ミリアちゃんを護り、敵を倒せるような力が……っ!



 【スキル、快適空間を取得しました。】

 【スキル、空間指定を取得しました。】

 【スキル、収納を取得しました。】

 【スキル、格納を取得しました。】

 【スキル、虚無を取得しました。】



 今のは……おっと!?

 見慣れないスキルに気を取られて、追尾する光の矢に当たるところだった。

 杖で残りの矢を撃ち落とすと、隙を見てスキルの説明に目をやる。



【虚無】

 触れたすべての属性魔力を消滅させる虚無の魔力を得る。



 これは……これなら勝てるか?

 気付けば残りはSP112となっていたが必要な対価だろう。

 問題は、本当にこれが俺の想像している通りのスキルなのかだ。

 再び光の矢が飛来していたので【防護結界・被膜】で体を防御しながら試す。

 新たなSランクスキル【虚無】、お前の力を見せろ!


 発動を念じると黒霧が出現し、ミリアちゃんの体を覆い隠してしまう。

 そこへ一直線に飛び込む光の矢が腹部の辺りに突き刺さった……かに思えた。

 だが結界へのダメージはゼロで、魔法で模られた矢は光を失って消えた。


「……今のは?」


 怪訝な表情をしたルーゲインは、なんらかの防御スキルを使ったのだと予想したのか、さらにいくつかの魔法を行使した。

 光の矢に加えて、熱線を放つ光玉、追尾する光弾、近寄ると爆裂する光塊、斬撃の性質を持った光波……総数五十になる魔法の連射だ。

 ちょうどいい。


「すべてを掻き消せ【虚無】!」


 今度は黒霧ではなく、真っ黒な光とでも言うべき矛盾した現象が発生した。

 黒い光は俺の意思に従い、迫りくる白い光を迎撃する。

 いや、迎撃なんてものじゃない……。

 それは蹂躙か、それとも吸収か、捕食か。

 どれも違う。

 ただ白を黒で塗り潰し、慈悲の欠片もなく魔力の痕跡すら絶やして消滅させる。

 最後はなにも残らない……虚無となった。


「な、なんですか、そのスキルは?」


 聞かないで貰いたい。俺も知らん。

 ただひとつ、わかっているのは。


「お前を倒すための力だよ」


 すでに魔法による攻撃は無力と化していた。

 それどころか、属性の付いたすべての魔力攻撃は【虚無】によって消される。

 ルーゲインのスキル構成からすれば、これは詰みだ。

 直接攻撃の手段に出ても、【虚無】を纏わせれば光の膜による防御も突破できるこちらが有利だし、そもそも魔法の檻ですら容易に破れてしまう。

 足止めというやつの目的は完全に失敗し、俺が……俺たち勝ったのだ。


 もはや話すこともないだろうと杖に【虚無】の魔力を込める。

 これで防御は無意味なので回避以外の手段はないだろうが、一方的に撃てるのであれば【魔力操作】して確実に当てられる。

 ならば確実に、この場でルーゲインを始末しておかなければ。

 先ほどは避けられた極大魔弾を杖に再装填し……途中で止めてしまった。


「まさか……!」


 唐突に強まる敵意を【察知】が反応したからだ。

 遠くから響く獣たちの遠吠えに、動きを見せる一万の気配。

 魔獣たちの総攻撃が始まってしまったのか?


「な、なにをしているんですか!?」


 今度はルーゲインが声をあげた。

 向こうにとっても予想外なのかよ、と振り返れば。


「黙れって。お前は用済みなんだからさ」


 それはルーゲインの少年声ではなく、やつが操る肉体の……軽薄そうな声だ。


「やあ、お嬢さん。お茶でもしたいところだけど残念、敵だったとはね」


 軽薄なろくでなし冒険者、グレイルがにやけた顔をこちらに向けていた。

「みんな、まじめ、だなー」

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