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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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お、お父様……お母様……っ!

「おかえりなさい、ミリア」

「よく頑張ったなミリア」


 無事に戻った俺たちを出迎えてくれたのは、ミリアちゃんの両親だった。

 予想以上に早く結界が解けて、すでに脱出していたらしい。


「お、お父様……お母様……っ!」


 再び装備されていた俺はジャマにならないよう【人化】すると、一歩引いてミリアちゃんを見守るカノンたちと合流する。

 そして、今度こそ感動の再会が果たされたのを見届けた。

 一目散に母親のネイリィの胸に飛び込み、優しく抱き止められているミリアちゃん。その頬に光る雫が流れたのは、気のせいではないだろう。


「カノン、私は少し外しています。なにかあれば呼んでください」


 俺はしばらく親子水入らずにしてあげたいと考え、カノンに小声で伝えてからその場を離れることにした。

 それにミリアちゃんの性格からすると、あまり両親に甘えたり泣いている場面をを見られたくないのではと思ったからだ。

 ナミツネと、その部下である護衛騎士、そして捜索隊の者も気を遣って、そっと後ろへ下がり始めた。

 残るのは、ミリアちゃんのもとへ集まり一緒に喜んでいるアミスちゃんとソフィーちゃん、それを笑顔で眺めているカノンといった特に近しい者だけだ。

 あの中に俺が加わるには、ちょっと日が浅いかな。






 さて、ミリアちゃんたちと離れている間にひとつ調べておかなければ。

 てきとうに森を歩いて開けた場所を見つけると、周囲に誰もいないことを確認してからスキル欄を開く。

 選択するのは【簒奪】に収納されている……【召喚術・上級】だ。


 しょうかん、するのー?


 元の持ち主があれだし、できれば使いたくなかったけどね。


 なにを、よぶのー?


 前に戦ったヘルがいいけど、魔法陣に詳しいやつなら誰でも構わないかな?

 というのも魔法陣の罠は非常に厄介だ。

 再びラエちゃんが現れた時もそうだが、他の悪魔にも使われて魔力切れまで手出しできなくなるのは痛い。

 今のうちに使い手である悪魔本人に対処法を聞き出しておくべきだろう。


 わたしが、おしえても、いいけどー?


 それでも構わないんですけどね。

 ただ、ついでにヘルには聞きたいことがあるんで。


 わかったー。


 この口振りでは幼女神様がヘルを呼んでくれる気がする。

 実際に召喚するのは俺だけども、それくらいは容易いのだろう。

 ところで、これってどう使えばいいのかな?


 雑に出てこーいと念じながら魔力を放っていたら足下に魔法陣が出現した。

 陣は血にも似た真っ赤な色をしており、周囲には冷たい風が吹き荒れる。

 木々から差し込む光は弱まり、世界を薄暗い闇に包み込むと……。

 そいつは地獄から這い出るかのように現れた。


『フハハハハッ! 我輩を召喚せし命知らずの冒涜者よ! 汝の智慧と蛮勇に免じて呼び掛けに応じようではないか! さあ、枯れ果てるまで叫べ! その願いを! その望みを! その祈りを! 世の理を反転させる呪いを!!』

〈お、おう、久しぶり……〉


 出て来るなりテンション最高潮のヘルに軽く引きながら、とりあえず【念話】で挨拶しておく。

 相変わらず燃える頭髪に、四本腕で巨体の黒い骸骨は、俺の記憶と変わらない姿をしていた。


『む、むむッ? この魔力はかつて覚えが……』


 そういえば三百年も経っていたんだった。


〈覚えてるか? 三百年ほど前に戦ったはずなんだが〉

『……おお、そうだ。お主はクロシュと言ったか?』

〈自分で言うのもなんだけど、見た目がまったく違うのによくわかったな〉

『肉の形なぞ関係ない。我輩たちは魔力にて見極めるのだ』


 それは初めて知った。

 前に人間は同じに見えると言っていたが、あれは本当に外見を判断基準にした場合で、魔力による見分け方は別なのだろう。

 俺には魔力に違いがあるなんてわからないから、どうでもいいけど。


『そうか、妙な召喚だとは思ったがお主だったか。知っていれば、わざわざ長い口上を述べずとも済んだのだがなぁ』

〈さっきのアレはなんなんだ〉

『悪魔は第一印象が大事なのだぞ』

〈それは人間も同じだと思うな〉


 一種の決め台詞、名乗り口上みたいなものか。


『そろそろ用件を訊きたいのだが……』


 おっと、俺も悠長に雑談している場合じゃなかった。

 簡単に呼び出した経緯を説明する。


『なるほど……悪魔の揺籃を使った者がいるのだな?』

〈名前までは忘れたけど、あの時と同じ魔法陣だったのはたしかだ〉

『むぅ』


 唸りながら複雑に四本の腕を組んで考え込むヘル。


〈どうしたんだ? まさか解除する方法がないなんて言わないよな?〉

『むっ……うむ。それは単純だ。込められた魔力以上の魔力で以てして、陣を破壊すれば良いだけのこと』

〈なんだ、それだけなのか〉

『だが容易いものではないぞ。術者の力量によって必要となる魔力は異なるのだからな。例えば、そう我輩の魔力であれば解除は不可能に近いのだ。フハハハ!』

〈ふむふむ。それで、なにか悩んでたのは?〉

『むぅ……』


 むぅじゃないよ。気になるからさっさと言え。


『実を言うとだな、あの陣は我輩だけが扱える秘術なのだ』

〈……いきなり矛盾しているぞ〉


 現に使っている悪魔、ラエちゃんがいたのだから。


『うむ、だがひとつだけ可能性がある』

〈それは?〉


 続きを促すと重い口を開くように語りだした。


『我輩の……孫である』

〈孫って、まさかラエって子がそうなのか?〉

『そのような名まで付けていたのか』


 同じ上級悪魔、同じ魔法陣を扱うことから、なにかしら関係があるのではと睨んでいたけど、さすがにこれは予想外だ

 詳しく聞くと昔……それも百年以上は遡るが、孫であるらしいラエちゃんとケンカしたそうで、家出したまま戻らないのだとか。

 その際に宝物庫を荒らしていたので、秘術を記した巻物を持ち出したのだろうとヘルは推測していた。

 たぶん山羊の頭骨も、そのひとつだろう。

 ちなみにケンカの理由は、おじいちゃんであるヘルが人間に負けたことがあるという話を聞いて、会ってみたいと駄々をこねたのがきっかけだという。

 それって俺じゃん。


『当時は我輩も、勝者であるお主に迷惑をかけては魔族の名に傷が付くとプライドを気にしてばかりでのう。あやつには悪いことをしたわい』


 急に老けこんだ気がする。

 どちらにせよ、その頃は眠っていたから会えなかっただろうけどね。

 しかし悪魔に孫とか家出というのがちょっと想像できなかったけど、どうやら人間とあまり変わらない生活をしていそうだな。


〈……ん、魔族? 上級悪魔じゃなかったっけ?〉

『我輩も成長したものである』


 成長というか、もはや進化ではないのか。

 念のために【鑑定】を使ってみると。




【ヘル】


レベル:143

クラス:魔族

ランク:☆☆☆☆☆(ミスリル)


○能力値

 HP:6500/6500

 MP:2000/2000

攻撃力:A

防御力:B

魔法力:B

魔防力:C

思考力:C

加速力:B

運命力:D


○スキル

 Aランク

 【炎魔法・上級】【悪魔闘法】【爆熱烈波】【煉獄】【炎無効】


 Bランク

 【身体変化】【身体強化】【魔闘弾】【闘気】【悪魔の契約】【邪視】


 Cランク

 【魔法陣形成】【魔力操作】【異常無効】【物理耐性・弱】



○状態

支配(召喚中)




 え、おじいちゃん強くない?

 レベルが大幅に上がっているし、スキルも強そうだ。

 よく俺のレベルで召喚できたなと驚いたけど、その辺は妙な感じがしたと言っていたので、きっと幼女神様が手を打ってくれたに違いない。

 そう思い、自分のステータスを確認する。



【クロシュ】


レベル:100

クラス:魔導布

ランク:☆☆☆☆(ゴールド)


○能力値

 HP:2000/2000

 MP:3500/3500


○上昇値

 HP:C

 MP:A

攻撃力:D

防御力:D

魔法力:B

魔防力:B

思考力:F

加速力:D

運命力:D



 ……俺もレベルが上がっていた。

 たぶんラエちゃんを倒した分の経験値だろうけど、この妙にキリのいい上がり方にはちょっと覚えがありますぞ。

 いや、俺はなにも見なかった。不正はなかった。


『急に黙り込みおって、どうかしたのか?』

〈なんでもない。じゃあ、今回はそれが聞きたかっただけだから……〉

『うむ。ちょっと待つがいい。我輩の用件がまだである』

〈用件?〉


 召喚したのは俺だというのに、なんのことだ。


『我輩の孫を……ラエを連れ戻してはくれまいか?』

〈そういうのは本人から言うべきなんじゃ……〉

『そこをなんとか、頼む!』


 まさかの土下座であった。

 魔族って、上級悪魔より強くてヤバい魔物じゃなかったっけ。


『孫のためならば、この程度は安いものぞ!』

〈いやしかし、具体的にどうすればいい? あの子を召喚したのが誰かは知らないし、そもそも放っておけば契約も切れて帰るんじゃないか?〉

『それは魔界へ戻るだけである。魔界は広大でな、我輩でも探すのは困難なのだ』

〈だから、こちらにいる間に帰るよう説得しろと?〉

『頼めるだろうか』


 少し考えてから、俺は答えを返した。


〈……ひとつだけ条件がある。説得するのは構わないけど、実際に帰るかどうかは本人の意思に任せて強制はさせない。もし今でも帰りたくないと言うのなら、俺は手を引く。その場合は、まあ報告くらいはするけど……どうだ?〉

『それで構わぬ。もはや、半ば諦めていたくらいなのだ。礼を言うぞ』

〈説得に成功してからにしてくれ〉


 どちらにせよラエちゃんは再び現れるのだ。

 その際にお話しするくらいなら大した労力でもないし、むしろ、お喋りするきっかけができるので願ったり叶ったりである。

 流れによっては、戦わずに済むのも嬉しい限りだ。


『礼と言えば、以前に約束した褒美がまだであったな』

〈そんなことも言ってたっけ〉


 あれはたしか、ヘルを倒して召喚の契約から解放した時か。


『とはいえ此度は急な呼び出しである。よってお主が孫を説得した後、その成否に関わらず前回の分と併せての報酬を渡すとしよう。どうか?』

〈構わないけど、それは期待していいんだろうな?〉

『フハハハ! 無論だとも! 心しておくが良いぞ! ではな、我が盟友よ!』


 言うだけ言って、陣に沈み込むようにして勝手に帰ってしまった。

 いつから盟友になったんだ。

 などと言うヒマもない。召喚者をなんだと思っているのか。

 他に用はないからいいけど。


 しかし、ちょっとだけもったいないかな。

 あれだけ強ければ色々と役に立っただろう。

 でもさすがに魔族をミリアちゃんたちに見せるのは憚られる。

 ただでさえ骸骨でホラーな見た目なのに、悪魔の上位存在だと知られたら、今度こそ腰を抜かしかねない。

 ちょっと話せば、気のいいおじいちゃんってわかるんだけどね。

 あの見た目さえ違えば……実に惜しい。

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