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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
74/209

私も奥の手を使います

 自称、悪魔の中の悪魔……上級悪魔と名乗った山羊頭。

 たしかに【鑑定】による結果では以下の通りだった。




【???】


レベル:94

クラス:上級悪魔

ランク:☆☆☆☆(ゴールド)


○能力値

 HP:?

 MP:?

攻撃力:?

防御力:?

魔法力:?

魔防力:?

思考力:?

加速力:?

運命力:?


○スキル

????


○状態

召喚中




 表示されない部分は、なにかしらのスキルによるものか。かなり高レベルの情報隠蔽スキルを持っているらしい。

 レベルは俺のレベル74よりも高く、かつて戦ったヘルを大きく上回っている。

 一見すると強敵に思えるけど、こちらには【合体】がある。

 スキルが不明な分、油断はできないもののレベルやステータスの差は大して問題にならないはずだ。

 とはいえ、それは俺が戦ったらの話なのだが……。

 緊張からか、ミリアちゃんは杖を握る手に力を込めていた。

 やはり荷が重いか?


〈ミリア。お気付きでしょうが、この悪魔と名乗る者が例の怪物に間違いないでしょう。ですが、どうやら好戦的ではなさそうですし、いくつか聞いておきたいこともあります。ここはひとまず私に任せてください〉


 こっそりと【念話】で話しかける。

 すると、ゆっくり腕から力を抜いたので俺は了承と受け取った。

 俺が手を出すのは、こいつが危険だと判断するか、ミリアちゃん自身がそれを求めた時だ。

 今はまだ口、というより思念だけにしよう。


「フフフ、ドウシタ? 恐ロシクテ声モ出ナイカ?」


 それになんだか、この上級悪魔さんはヘルと比べると威厳みたいなものがない。

 図に乗っているとでもいうか、どうも既視感があった。

 扱いに気を遣えば、どうにかなりそうな予感もする。


〈あなたが上級悪魔だとすれば、その辺の下級悪魔とは違って、強い魔力を持った何者かに召喚されたのでしょうね〉

「……マア、ソンナトコロダ」

〈ひょっとしたら使役なんてされず、命令に背いていたりするのでは?〉

「ホホウ、ナカナカ詳シイヨウダナ。デモ、チョットダケ惜シイ。イカニ強大ナルワタシト言エドモ、術者ヲ無視シテハ契約違反ニナルノダ」


 なるほど、ほぼヘルと同じ状況らしい。

 召喚した術者とは間違いなくルーゲインの仲間だろう。暗黒つらぬき丸のように悪魔を召喚するスキルを持っているが、完全に操れていないところから察するにレベルは高くなさそうだ。

 だが契約とやらのせいで、最低限の仕事はしなければいけないと……。


〈上級悪魔のあなたに頼むなんて、よほど大きな異変でも起こすのでしょうか〉

「ソウダロウ! ソウ思ウダロウ!? ダガナ、アノ人間メ……」


 よっぽど腹に据えかねる出来事があったらしく、ここから先は黙っていても勝手に話を続けてくれた。

 それによれば、大きな騒乱を巻き起こさんといざ召喚に応じてみれば、召喚者は呼び出せたのが不思議なほど弱く、おまけに目的がとある人間……ノブナーガのことだろう、これを始末しろとの一点。

 憤慨しても遅く、召喚に応じてしまったからには願いを叶えないと今後の信用に大きなキズができるとかなんとか。

 悪魔社会も大変みたいだ。

 とはいえ、やはり乗り気にならなかったので始末するはずのところを、嫌がらせも含めて捕えるだけに留めたという。信用はどうした?


 ところが、これには契約の事情も絡んでいた。

 なんでも回数制ではなく期間制とやらで、最初の願いを叶えても契約期間中は帰ることができず、新たに命令されるのがわかっていた。

 だからノブナーガを始末しろという願いを期間切れまで伸ばしておくつもりだったのだとか。

 しかし、あまりに時間がかかるので向こうも理解したらしく、何度も協力するよう命令が飛んできたので仕方なく別件で力を貸したそうだ。

 それこそナミツネらを足止めした罠で、短時間ながらも自身と同等の性能を発揮する魔法陣を人間にも使用できるようにするのが苦労した……。


 などなど愚痴っぽい語りを、てきとうに相槌を打って聞いていた。

 ずいぶんと、お喋りな性格らしい。

 先ほどまでの尊大な口調は取り繕っていただけで、こちらが本性だろう。

 さて、粗方この上級悪魔の事情はわかったけど、これまでの話を整理すると、やっぱり戦わなくてはいけないようだ。


「ダイタイ、ワタシガコンナ目ニ遭ッテイルノハダナ……」

〈お話中のところすみませんが、確認したいことが〉


 上級悪魔は草の上に腰を下ろし、ミリアちゃんも正座して、微妙に和やかな雰囲気が漂っているので申し訳ないけど、ずっとこうしているワケにもいかない。


〈先ほど言っていた捕えている人間ですが、解放することはできませんか?〉

「無理ダナ。捕エテイル今ダカラコソ、ノンビリ出来ルンダ。モシ解放スレバ契約ニ背イタモノトサレル。オ前タチガ、ソノ為ニ訪レタノダトシテモ、ナ」


 先に発見されていたし、こちらの目的も予測が付いているか。

 でも、だったら敵意がないのはどうしてだ?


「面倒ダカラ、テキトウニ脅シテ逃ガスツモリダッタノダ。ソレニ、オ前ハ話ガワカル奴ダ。ドウダ? シバラク、ワタシノ話シ相手ニナルトイウノハ。契約ガ切レタラ望ミ通リ、アノ人間タチハ解放シヨウ」


 なぜだか魅力的な提案に思えてしまったけど、そんなヒマはない。

 いつになったら契約が切れるのかも聞いていないし、どちらにせよルーゲインのジャマが入らない内にノブナーガたちを救出しなければならないのだ。

 先にミリアちゃんには戦闘準備と伝えてから、俺は返答した。


〈私たちにも目的がありますので〉

「……残念ダ。デハ、オワカレダナ」


 言い終えた瞬間、上級悪魔は予備動作もなく地を滑るようにして動いた。

 あまりに速いせいで、事前に教えておいたにも関わらずミリアちゃんは反応できていなかった。僅かに遅れて懐に入られていると気付く。

 しかし、その時には一切の躊躇なく、慈悲もなく、上級悪魔はローブの中に隠した銀色に光る凶気を寸分違わずミリアちゃんの心臓に目掛けて突き出し……。

 その直前で火花を散らせて止まった。


「ム……?」

「え?」


 疑問から漏れた声が二つ聞こえた。

 片方は上級悪魔が、なぜ自分の攻撃が弾かれたのかという疑問。

 もうひとつは、なにが起きているのか把握できないミリアちゃんだ。


〈護りは私に任せて、ミリアは杖を〉

「っ!」


 短くそう伝えると、ようやく事態を理解したミリアちゃんは例の呪文を口にして魔力を杖に装填し始める。

 その間も上級悪魔は正体不明の刺突攻撃を繰り返した。

 眉間、首、心臓……貫けば確実に命を断てる箇所を的確に狙っている。それも僅か数秒のできごとで、普通の人間ならば10回は殺せただろう。

 だが、そのすべてを【防護結界】によって弾く。

 俺がいる限り、ミリアちゃんにキズひとつ、血の一滴も流させん!


「ナラバ、コレデドウダ!」


 通じないと判断したのか、上級悪魔は即座に攻撃の種類を変えてきた。

 今度は刺突のように一点集中したものではなく、結界を破壊するための強い衝撃を与える打撃だ。

 一際激しく火花が散ったものの、問題なく耐えられそうだな。

 と、ここで攻撃の正体が判明する。スピードよりパワーに重点を置いたためか、先ほどと比べると格段に速度が落ちたおかげだ。

 それは、ただの拳だった。

 もちろん悪魔であるため、その黒ずんだ巨椀は人間からすれば異形と呼べる立派な武器だ。無手なのは自信の表れでもあるのだろう。

 同時に、こいつが肉弾戦を主体とすることの証だ。

 恐らく刺突は抜き手か、あるいは爪を変形させていたのだろうと予想する。


「『解錠、発射……』」


 ついに準備が整い、ミリアちゃんは杖の先端を悪魔へと向けて構える。

 通常なら、ミリアちゃんの少ない魔力では樹木を一本貫けるかどうかといったところだが、今回込められた魔力には俺の分も含まれている。

 悪魔を倒すには申し分ない威力となって……あれ?

 杖をよく見ると、大して魔力が装填されていないようだった。

 というより、これでは普段のミリアちゃんと同じ程度ではないか。

 ま、まあダメージを与える分には問題ないだろう。

 原因は不明だけど、やり直している余裕もないのだ。

 それに、目標が都合よく正面にいる……絶好のチャンスだった。


「『開始!』」


 杖の特性を知らなければ、これが武器だとは思いもしないだろう。


「ンガッ!?」


 自身に向けられた杖を意に介さず攻撃を続けていた上級悪魔は、至近距離から放たれ魔力弾を避けられず、顔面に突き刺さった魔力の塊によって大きくのけ反り、そのまま後ろに転げ回った。

 宙に砕けた骨の破片が舞い、角の片方が折れて大地に落ちる。

 誰が見ても致命傷である。

 ただ、俺としては不満が残る結果でもあった。

 もし俺の魔力が十分に装填されていれば、山羊の頭骨を砕くだけではなく悪魔の上半身を消し飛ばせていたものを。


「……これで勝ったのでしょうか?」


 おおっとフラグだ。

 ミリアちゃんの声に呼応するように、倒れた上級悪魔から敵意が膨れ上がるのを感じ取った。


「舐めるな、人間め。この程度の傷でワタシを倒せるなどと思うな!」

「あれ、声が……?」


 加工したような上級悪魔の声が鮮明になり、ミリアちゃんが不思議がる。

 ひょっとしてと思い、俺は砕けた山羊の頭骨だけを【鑑定】してみた。



【秘匿されし魔の頭蓋】(Bランク)

 装備者のあらゆる情報を隠蔽し、その正体を曖昧にする。



 思ったよりダメージが少なそうなのは、この防具に当たったせいか。

 おまけにステータスを隠す効果付きだった。

 インテリジェンス・アイテムではなく螺旋刻印杖と同じ魔道具だろう。


「む……あれ? ワタシの兜が!?」


 遅まきながら自分の状態に気付いた上級悪魔は、ぺたぺたと小さな手で山羊の頭骨に触れている。

 その外見は大きく変化しており、身長は低くミリアちゃんと同程度に縮み、砕けた頭骨の隙間から覗かせる髪は明るい桜色をしていた。


「クロシュさん、なんだかさっきと別人に見えるのですが」

〈被っている骨の効果のようです。先ほどので壊れましたが〉


 しかし、この姿は……。

 今度は上級悪魔、本体にもう一度【鑑定】してみる。



【ラエ】


レベル:94

クラス:上級悪魔

ランク:☆☆☆☆(ゴールド)


○能力値

 HP:1640/2000

 MP:230/300

攻撃力:B

防御力:B

魔法力:C

魔防力:C

思考力:F

加速力:B

運命力:D


○スキル

 Bランク

 【悪魔闘法】【炎魔法・中級】【身体変化】【身体強化】


 Cランク

 【雷魔法・初級】【悪魔の契約】【魔法陣形成】【魔力操作】


 Dランク

 【闘気】


○状態

召喚中



 やはりステータスも完璧に表示されるようになっていた。

 だが確認したいことがあったのに目的の称号が存在しなかった。人間じゃなくてモンスターという扱いだからか。

 だとしたらインテリジェンス・アイテムにあるのはなぜだろう……?


「おのれ……よくもワタシの大切な兜を!」


 考えている場合じゃなかった。

 山羊の頭骨を壊されたのが、よほどご立腹らしい。


〈ミリア、次の発射を急いでください〉

「『起動、充填、開始』」


 返事をする間も惜しんで、すぐに呪文を詠唱するミリアちゃん。

 魔力の消費による疲れはないようだけど、やはり連続して撃つのに時間がかかってしまうし、なにより相手にこれから撃ちますよと教えるようなものだ。

 初撃では油断していたけど、二発目もそうはいかない。


「また、それか……!」


 上級悪魔ことラエは、こちらの結界を突破できないと悟ったのか距離を取り、大きく跳躍すると大樹の枝に登って隠れてしまった。


「あ、逃げられます!」

〈いえ、移動していますが離れる動きはありません。また来ますよ〉


 明確な敵意によって位置は探れるけど、動きが速くて捉えきれない。

 このまま逃げられたら面倒なことになっていたけど、あの怒り具合からして確実にそれはないだろう。

 しかし、向こうも迂闊に手を出さなくなると膠着状態に陥る。

 ここで俺の残りMPを確認してみよう。



【クロシュ】

 HP:1500/1500

 MP:1240/3000



 ここまで来るのにスキルを使い通しだったし、たび重なる攻撃もあって、すでに残量は半分を切っていた。長期戦は不利だ。

 とはいえ【合体】すれば現在値も三倍に上昇するので、実際のところは通常時よりもMPは多く、かなり余裕があると言える。

 それが最後の手段ということを除けばの話だが。

 ちらりとミリアちゃんの様子を窺うと、注意深くラエの姿を探していた。

 まだまだ諦めていないようだし、もう少しだけ手伝うとしよう。


「どこを見ている!」

「なっ!?」


 天を仰いでいたミリアちゃんが咄嗟に視線を降ろした時には、すでに結界によって攻撃を防がれたラエが再び木々の間に身を隠すところだった。

 頭上に注目させておいて下からの不意打ち。

 そして失敗すれば即退散する引き際の良さ。

 一連の流れるような動きは【察知】で常に把握している俺からしても、非常に厄介なものだった。仮に視認できていたとしても、高速で樹上を移動するのに気を取られ、隙を突かれて同じ結果になっていたはずだ。

 結界を張っていなければ危なかった。

 戦闘中に結界を張らないなんて考えられないけどね。


〈ミリア、このままでは私の魔力が先に尽きてしまいます〉


 あまり余裕でもいられない。

 早めに手を打たなければ、一方的に削られてしまうだけだ。

 かといって、あの速さに合わせて杖を撃つというのも難しい。

 いっそ【変形】で捕まえようかと提案するか悩む。


「……わかりました。私も奥の手を使います」


 奥の手?


〈なにか、切り札があるのですか?〉

「上手くいくかわかりませんけど……。ただ状況を考えると、これが失敗したら私には打つ手がなくなってしまいます。その時はすみませんが……」

〈後のことは任せて、ミリアはやりたいようにやってみてください〉

「ありがとうございます」


 俺の後押しを受けて微笑んだミリアちゃんは懐に手を差し入れた。

 取り出したのは螺旋刻印杖と似たようなデザインで、しかし手の平に収まる程度の長さしかない棒だった。内部は穴が空いて筒状になっているようだ。

 素早く杖の先端に取り付けたことで、これが部品だと理解できたが……。


〈それはいったい?〉

「研究の成果です。名付けるとすれば、近接想定型螺旋刻印杖です」


 要するに接近戦をするためのパーツらしい。

 そういえば屋敷にいる間は改良を続けており、あの二脚の支えを作っていたのを思い出す。

 まだ改良中とは言っていたけど、これが結果のようだ。


「『起動、充填、開始』……『加圧、回転、開始』」


 発した呪文は以前に聞いたものと同じだった……ここまでは。


「『認識、接続、開始』……『供給、調整、開始』」


 それまで動きを見せなかった先端のパーツが、本体部分と同じく刻まれた秘文字に淡い光が灯り始めた。

 ゆっくりと水平に構え、真横に向けると最後の呪文を紡ぐ。


「『解錠、放射、開始』!」


 そうして起きたのは、魔力の刃、と表現すべき現象だった。

 これまで魔力を弾として放つだけだった杖だが、先ほどのパーツによって先端部から常に魔力を放出し続けることで銃剣のような形へと変貌していた。

 ミリアちゃんは、例え魔力不足を解消できても自力では一回撃つのにも時間がかかり、相手によってはまともに当てられない欠点を理解していた。

 それに対する答えとして、常に撃ち続けるという発想に至ったのだ。

 俺は……素直に感動する。

 撃つだけなら【魔力操作】で手軽にできるし、弾道操作まで可能だから、少なくとも俺にとって杖の研究は不要だと考えていたのだ。

 だけど、ミリアちゃんは独自に研究を続けて、俺が思いもしなかった杖の運用法を編み出してしまった。

 もしも俺が杖の所有者であれば、決して出なかった発想だ。


〈み、ミリア……この方法はどうやって思い付いたのでしょうか〉

「なんというか、天から閃きが降りて来たとでもいいますか……」


 やはり天才か。

 すげえよミリアちゃんは。

 ミリアちゃん……恐ろしい子!

 圧倒的閃きっ……! 天才的発想っ……!


 などなど、千の賛辞でも足りないくらい俺はミリアちゃんを褒め称えたい。


 たたえよ、あがめよ、おそれよー。


 あ、もうちょっとマジメなシーンが続きますので。


 はーい。


 魔力の刃を編み出したのはいいとして、ここからどうするのか。

 たしかにラエも攻撃するには近付く必要があり、その時こそ反撃のチャンスだけど、杖から伸びている刃は短い。およそ10センチもあるかないかだ。

 いや、ここまで考慮していたミリアちゃんだ、信じて見守るとしよう。


 意識を切り替えて【察知】による敵意への反応を探る。

 相変わらず、縦横無尽に飛び回っているようだ。疲れを知らないのか。

 すぐに向かって来ないのは、魔力の刃を警戒しているせいだろう。

 それも、すぐに終わりを見せる。

 俺たちの前に姿を現したからだ。


「なにかと思えば、そんなモノでどうするつもりだ?」

「もちろん、貴女を倒すつもりです」


 俺よりも先にミリアちゃんが答えた。


「声が……? まあいい、そのオモチャは観察していたから、もうわかったぞ。魔力を直接撃ち出すのだろう? ならば今の状態なら、さっきみたいに魔力の塊を撃てない。そして、そんなちっぽけな剣でワタシは倒せない!」


 またもや凄まじい速さで右へ左へ駆け回り、ラエは距離を詰める。

 もはや隠れる様子もなく、正面から結界を打ち破るつもりのようだ。


「好都合です」


 冷静に動きを捉えようと意識を集中させるミリアちゃん。

 右手で掴んだ杖に左手を添え、自身の左側へと向けて構える。

 俺は黙って決着を見届けようと決めたので口出ししない。


「遅い!」


 本日、幾度目かの火花が散った。

 ピクリと僅かに反応するミリアちゃんだけど、瞬時に刃の範囲外へ逃げられる。


「ハハハッ! いつまで耐えられるか試してやろう!」


 後ろ、上、右、また後ろ……様々な方向からの連続攻撃。

 それでもミリアちゃんは、まっすぐに前を見つめて動かない。


「まるで案山子だ。やはり人間など、ワタシの敵ではない!」


 それは慢心が招いた油断であり、ミリアちゃんの誘いだった。

 これまで徹底して死角から攻撃していたラエは、ついに正面から飛び込んで右腕を結界に叩きつける。それを待っていたのだ。

 すべての攻撃に反応できないのなら、たったひとつに絞ればいい。

 そのひとつこそ、最大限に刃の威力を発揮できる正面からの攻撃だ。


「ッ!?」


 左から右へ、全力で薙ぐように振られる螺旋刻印杖。

 その先端から伸びる魔力の刃は、厳密には斬るのではなく吹き飛ばす。

 圧縮され、放出された細い魔力の奔流が、あらゆる障害物を貫くのだ。

 俺の知識でもっとも近いのはウォーターカッターだろう。

 魔力は水と違った性質を持っているので、これも厳密には違うけど。

 少なくとも、悪魔を両断するという目的において不足はない。


「えいっ!」


 あまり運動が得意ではないミリアちゃんなので、かけ声もどこか気の抜けるものだったが関係ない。魔力の刃は触れただけで効果がある。

 だというのに、やはり上級悪魔というだけはあった。

 ラエは危険性を察知したのか瞬時に飛び退き、寸でのところで回避したのだ。

 まさに紙一重。


「フッ、狙いは良かったが……なぁッ!?」


 言葉の途中でラエは螺旋刻印杖を目にし、驚愕する。俺も驚いた。

 なにせ、そこには刃の長さを数十倍にして構えるミリアちゃんがいるのだから。

 そして射程外まで逃げることしか、頭になかったのだろう。

 大きく跳躍したせいで宙に浮いたままのラエに逃げ場は存在せず……。


「ええいっ!」


 右から左へ、今度こそ死の刃が振るわれた。

今回登場した銃剣は感想欄にて以前、頂いたコメントが元だったりします。

ありがとうございます。

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