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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
72/209

ど、どうするつもりですか!?

 翌日の早朝。

 いよいよ捜索が始まる時が訪れた。

 昨夜の会議のあと、すぐに休んだみんなは体調も万全であり、ミリアちゃんも特に不調なところは見受けられない。

 これなら心配はいらないだろう。


 予定通り、まずは先の捜索隊が製作した地図を頼りに既存の道を進む。

 経験者でもなければ、未開の森での活動は危険だと判断して訓練の一環だ。

 ある程度、慣れたのを見計らってから地図外を埋めて行くことになる。

 メンバーは先導役として捜索隊ひとりと、俺とミリアちゃんに、アミスちゃん、ソフィーちゃん、カノンと、ナミツネ率いる護衛騎士が五人ほど。

 その合計は十二人となる。

 残りの護衛騎士は、後発で遅れて到着する者とまとめて拠点で待機となった。

 あまり人数が多いと、かえってジャマになると捜索隊に諭されたからだ。

 魔獣に対する戦力はどうするのかと聞けば、平野ならともかく、見通しの悪い森では少人数での立ち回りが基本だそうだ。

 要するに大勢でぞろぞろと歩いていては、連携を阻害して被害ばかりが大きくなるというのだ。

 もっとも、被害を覚悟するなら有効な戦法とも付け加えられた。

 当然ながらミリアちゃんは、そんな戦い方を容認しないし、ナミツネだって承知のはずである。

 だったら、どうして騎士たちを連れて来てしまったのかと手際の悪さに呆れたくなるが、ナミツネたちは騎士であって狩人ではない。森を探索する際の常識など知らなかったのだから、あまり責めるのも酷だ。

 今回は拠点の護りを厚くするということにしよう。

 ミルフレンスちゃんが拠点に残るみたいだから、ちょうどいい。

 さすがに森を歩きまわるのは、彼女も明確に拒否したようでソフィーちゃんも説得を諦めていた。

 俺からすると、アミスちゃんとソフィーちゃんも無理に付き合わずとも構わないのだが、それを言ってはここまで同行した意味がなくなる。

 二人のミリアちゃんを心配する思いは、俺と同じなのだ。

 なるべく尊重してあげたいし、そのために俺がいるようなものだろう。




「思っていたよりも快適ですわね」

「もっと辛い環境を覚悟していました」

「はは、は、普通はそのハズなんですがね……」


 先導して歩く捜索隊の……名前は忘れたが、その男はソフィーちゃんとアミスちゃんの暢気な感想に顔を引きつらせて苦笑する。

 当の二人は気付かず、初めて目にする植物に視線を巡らせながら軽快な足取りで鬱蒼と茂った道をてくてくと進んでいた。

 彼女たちの服装は高級なプリンセスコートの上にケープを羽織り、タイツとロングブーツを着用と、防寒具としては優秀でも未開の森を歩くにはいささか頼りないものであった。ちなみにミリアちゃんも同じく、それぞれ色違いで揃えている。

 本来なら枝葉や草木が衣服をキズつけ、怖気の走る見た目をした毒虫が集り、足場も悪さから歩くだけで大人でも体力を消耗するような森の中を、幼い少女がいとも容易く平然と歩けている理由とは……。


 もちろん、俺のスキルによるものである。

 当初は適した装備として、野暮ったい探検隊のような格好になるところを、どうにか改善できないかとスキル欄を前に試行錯誤した結果なのだ。

 具体的には、まず俺を中心とした円形の【防護結界】によって害虫が近寄るのを阻み、その内側を炎属性の魔力で満たす【属性空間】で暖房化に成功していた。

 進行方向の藪やら垂れ下がった枝は、みんなが通過するまで【変形】させて伸ばした体の一部が押し退けておき、転がっている小石は先に排除したり、窪みや木の根など足を取られそうな場所は布で段差を埋めて足場を確保している。

 おかげで誰ひとり立ち止まることもなく、順調な行路であった。

 なにより俺が自慢したいのは、二人が気付かないほどのさり気なさだろう。

 まるで木々のほうから道を開けて歩きやすく、思ったより冷えもせず、虫など一切見かけないという快適空間を生成しているのだ。

 まあ俺を装備していることもあってミリアちゃんと、他のメンバーは一発で見抜いたけど。


〈あまり過保護なのも良くないとは思いつつ、やめる気にならない私です〉

「ですが、本当にクロシュさんのおかげで歩きやすいですよ」

「まったくですな。あれだけ用意していたのが無駄になりそうです」


 装備を始めとして、事前の講習とあれこれ準備していたナミツネだけど、それらが無用となりつつあるのは残念やら嬉しいやら、複雑そうで申し訳ない。

 俺も直前まで、こんな芸当が可能だと思ってなかったのだ。

 ナミツネも恩恵を多大に受けているので許して貰おう。


「ところで今回クロシュ様は、そのお姿なのですね」

〈いつ魔獣の襲撃があるかわかりませんから〉


 なぜかちょっと残念そうなカノンの視線は、ミリアちゃんの装備に向けられていた。つまり本来の布である白コートに戻った俺だ。

 【人化】は別行動できるし、ミリアちゃんを戦闘に巻き込まずに済むので便利だけど、いざという時は力不足に陥ってしまう危険性もあった。

 やはり最終的には、この形に落ち着くワケだ。

 この辺りは魔獣の生息区域から離れているとはいうが、はぐれ魔獣が現れることだって考えられるので油断はしないほうがいいだろう。


 そんなこんなで俺がいれば問題なく捜索が行えるとわかったので、少し予定を外れて大きな泉へ向かうことになった。

 これは地図にも記されている場所なので訓練の延長線上だけど、実はこの泉ではちょっとしたウワサがあることから、確認の意味も含めて目的地としたのだ。

 それはオーガの目撃情報である。

 あくまで捜索隊のひとりによる証言なのでウワサの域は出ない。

 だが俺たちは、ミリアちゃんの父親ノブナーガは、オーガが出没したと聞いて討伐に出向いたところを、何者かの罠にかかったと推測している。

 ならば、そのオーガから行方のヒントが得られないかと希望を抱いたのだ。

 無闇に探すよりは、よっぽど効率的だろう。

 なお、確実に知っている幼女神様に尋ねても……。


 ミリアちゃんの両親は無事なんですか?


 いきてるよー。


 どこにいるんです?


 もりに、いるねー。


 こんな感じなので教える気がないらしい。

 自力で探すには、ウワサでも手掛かりが欲しい状況なのだ。

 たぶん本気で頼めば答えてくれるんだろうけど、恐らく俺がネタばれ厳禁などと制したのが原因っぽいので、それは最後の手段としておく。

 なんだかんだで、手遅れになりそうなら救いの手を差し伸ばしてくれるのだ。

 まずは俺に出来る限りの手を尽くしてみよう。


「ここが、その泉ですか」


 ようやく辿り着いたのは、地図にある通り湖と呼んでも差し支えのないほどに広く、そして清浄な水を湛えた泉だった。

 さすがに、そのままでは飲用に適さないそうだけど、透き通った水面からは泳ぐ魚の姿すら見通せた。

 肝心のオーガとやらは……。


〈ミリア、あちらの木々の先を〉

「どうしました?」


 距離が離れていたこともあってか、すぐには理解できなかったミリアちゃんも、やがて遠くで動きを見せる物体が野生の動物などではないと察して肩が揺れた。


「なっ、本当にいたのかよ……」


 驚きを口にしたのは捜索隊の男だ。

 ここまでハッキリと確認が取れたのは初めてだそうで、ずっと半信半疑だったのだろう。しかし紛れもなく、事前に聞いていた通りのオーガがそこにはいた。

 外見は人に似ているが、人間ではあり得ない巨躯と頭部に生えた角が特徴だ。その大きさと数は個体差があって、立派な角であるほど強者である証らしい。

 しかし視界にいるオーガたちは三体だけど、角とか関係なく、どれも強そうだと思えるほど体格がいい。

 言わば巨人といったところか。

 俺は実際に目にして、どちらかといえば目は二つあるけどサイクロプスという名前が似合いそうだ、などと感想を思い浮かべながら検討する。

 魔物だと認識されているそうなので、もっと凶悪で野蛮なやつらを想像していたのだが、どうも想像とは違って理性的な部分が見受けられたからだ。


 例えば……、そう服装がしっかりしている。

 全裸だったり、毛皮を纏う原始人のような格好ではなく、薄着だがきちんとした服を着込んでいるし、髪だって整って見える。

 なんなら捜索隊の面々よりも、清潔そうなのだ。

 ひょっとしたら話が通じるのでは?


「くっ……なんて恐ろしい姿なんだ」

〈え?〉


 しかし捜索隊の男の言葉に、俺は視線を移す。

 そこには顔を青ざめた男の他に、怯えたアミスちゃんとソフィーちゃん、そしてカノンと……なんとナミツネまで緊迫感を露わにしている。

 今さらになって、ミリアちゃんも恐怖からか僅かに震えていたのに気付く。


〈みなさんは、あれが恐ろしく見えるのでしょうか?〉

「く、クロシュさんは平気なんですか?」


 と言われても、俺には4メートルくらいの巨人が楽しそうに談笑しながら水汲みをしているようにしか見えなかった。

 ……いやいや、ひょっとしたら俺がおかしいのかも。

 俺が想像する魔物と言ったら、ミラちゃんたちと一緒に潜ったダンジョンのやつらしか見たことがないので、ヤバいスライムだったり、影の狼や、異形の怪物、骸骨の悪魔ばっかりだった。

 それに比べて体が大きく角が生えているだけのオーガなど可愛らしいものだ。

 だが、魔物など見慣れていないみんなからすれば、あれでも非常に恐ろしい姿に映るのだろう。

 しかし怯えていては話どころではない。


「それでは、私が行って来ますので待っていてください」


 手っ取り早く、自分で接触を図ろうと【人化】する。


「ど、どうするつもりですか!?」

「危険ですクロシュ様!」

「いくらお姉さまでも危ないですわ!」

「一度引き返しましょう!」


 女性陣から猛反対を受けてしまった。

 でも、そんなに大声を出したら……。


「む、気取られたようですな」


 ナミツネの言う通り、オーガたちもこちらに視線を向けていた。


「ど、ど、どうしましょうクロシュさん……!」

「落ち着いてくださいミリア。大丈夫ですから」


 慌てふためいて抱き付いてくるミリアちゃんを優しく受け止めながら、俺はオーガたちの動きを観察する。

 向こうも驚いている様子だけど、襲いかかろうとする気配は感じられない。

 どうにか話ができたらいいのだが、この状況では……。

 そこで、ひとつ思い付いたので試してみることに。


〈私の声が聞こえますか?〉


 反応は一目瞭然だった。

 俺の【念話】が届いたオーガたちは、どこから聞こえるのかと周囲を見回しているが、もちろん近くには誰もいない。


〈私の姿は見えているはずです。こちらに敵対する意思はありません。少しお聞きしたいことがあるのですが、そちらへ行ってもよろしいでしょうか?〉


 意思を伝えるのは簡単だけど、相手に【念話】持ちがいなければ一方的な言葉となってしまうと質問してから気付いた。

 まあ、イヤなら逃げるだろうし、敵ではないと伝えてある。

 とりあえず行ってみようとした時、先に向こうに動きがあった。


「く、クロシュさん、こっちに近付いて来ましたよ……!」

「うぐっ」


 たしかにオーガのひとりがこちらへ向かっている。

 それはいいとして……。

 ミリアちゃんは無意識なのか、腰の辺りに抱き付いた腕にぎゅっと力を込めるので少し苦しくなっていたのだ。至福と苦痛と吐き気が同時に襲いかかる。

 どうにか頭を撫でながら宥めると、締め付けから解放してくれた。

 意地でもミラちゃんの姿、かつミリアちゃんたちの前でリバースしない自信があるものの、これから大事な話をするからね。

 気を取り直して、俺はオーガと正面から向き合った。

 背後にはミリアちゃんの他に、アミスちゃんたちと、なぜか男共まで隠れているけど気にしないでおこう。


「さっきのは、お前の声か?」

「ええ、あなたたちに話があります」


 こうして近くで見ると、やはり大きい。

 ある程度、まだ距離があるはずなのに数歩で詰め寄れるくらいだ。


「オレらの言葉がわかるなんて、珍しいな……」

「クロシュさんはオーガの言葉がわかるのですか?」

「……はい?」


 前と後ろから似たような内容で同時に話しかけられたのだが、その意味に驚きを隠せず素っ頓狂な声が出てしまった。


「もしかして、オーガと人間では言語が違うのでしょうか」

「あまり、オレらと話せる人間は、見ないな」

「皇帝国では専門家が話せるくらいだと思いますよ」


 またしても同時に答えが返ってくる。

 聖徳太子じゃないんだから片方ずつにして欲しい。

 とはいえ、お互いに言葉が通じてないから、俺がどっちに話しかけているのかもわかっていないのだろう。

 まずは振り返ってミリアちゃんに聞いてみる。


「話ができないと知っていたのなら、なぜここへ来たのですか?」

「てっきりオーガを尾行して、住処を探るのかと……」


 まず、そこにすれ違いがあったようだ。

 みんなも勢いよく頷いていることから、どうも話し合いで済むと思っていたのは俺だけらしい。一歩間違えれば頭に花畑が咲いているようなボケっぷりだけど、結果良しでいいよね。だって言語が違うなんて知らないもの。


 ……というか、なんで俺だけ言葉が通じているんだ?

 それに言葉を使い分けているワケでもなく普通に話しているだけなのに、ミリアちゃんたちとオーガの双方に通じているのはおかしい。

 考えられるのは【転生者】としての特典みたいなものだ。

 最初からミラちゃんたちとも違和感なく話せたけど、相手の言語に自動で翻訳されて聞こえるとか、そんな感じだろうか。

 恐らく知性を持つ相手なら、会話が可能なんじゃないかな。


 とすると、みんながオーガをやたら怖れていたのも理解できる。

 あの見た目だけでも威圧感を与えるのに、言葉が通じないのであればコミュニケーションを図ろうなどとは思わないだろう。

 もしかしたら魔物とされているけど、実際は亜人のような種族ではないのか。

 そもそも魔物と亜人の定義とか……いや、その辺はいずれとしよう。

 今度はオーガに向かって話しかける。


「私たちは人を探しに来ました。一月ほど前ですが、この森に人間たちが迷い込んだりしていませんか? なにか知っていたら教えてください」

「人間……」


 顎に手を当てて考える素振りを見せたオーガは、やがて口を開く。


「その人間とは、ノブナーガたちのことか?」


 まさにドンピシャだった。

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