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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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加護のことは知っていますか?

諸事情で遅くなりました。

「……ミリア?」

「ひゃわっ!?」


 庭園から瞬時にして帰り、肉体に意識が戻ると同時に可愛らしい顔が現れた。

 目の前に、眼前に、息がかかるほど近くに。


「あ、いえ、これはですねっ……」


 なにを企んでいたのかはわからなかったけど、わたわたと左右の手を振って弁明しようと慌てふためく。その手には小さな鏡が握られていた。


「私の顔になにか付いていましたか?」


 とりあえずミリアちゃんを落ち着かせようと、たぶん見当違いなのは理解しながらも冗談めかして言ってみる。


「そ、そうではなくてですね……!」


 気が動転しているせいか、まるで要領を得ない。

 膝の上に乗っていることすら忘れていそうだ。軽いし、少し腰を浮かせているからまったく気にならないけど。


「ひとまず離れるべきではないでしょうか?」


 この声はアミスちゃんかな?

 冷静な指摘に気付いたのか、ようやくミリアちゃんも俺の膝から降りて元の席に戻ったけど、すぐに真っ赤な顔を窓の外へと向けてしまった。

 ずっと乗っていても構わなかったんだけどね。

 ようやく視界が開けると、やはり変わらず車内にいた。

 本当に数分くらいしか経っていないようだが……。


「それで、いったいどうしたのですか?」

「ええと……では私から話しましょう」


 アミスちゃんの説明によると俺が庭園へ向かってから……こちら側からすれば俺が意識を失ったあとの話だが、カノンが俺とミリアちゃんの顔を見比べ、改めて似ていることに言及したそうだ。

 しかし当のミリアちゃんは、実のところピンと来ていなかったらしい。

 これについてカノンは自分と他人の顔を見比べる機会はあまりないからでしょうと分析し、ちゃんと見比べたらわかるのではと手鏡を取り出した。

 俺は眠っていたし、じっくりと観察するにはちょうどよかっただろう。

 そうして手鏡を手にまじまじと見つめながら比較していた折に、俺が目を覚ましたというワケである。


「なるほど。でしたら遠慮せずに、もっと見ていても構わないのですが」

「……もうじゅうぶんです」


 消え入りそうな声の返事だった。

 見れば頭から湯気が立ち昇りそうなほど、耳まで赤く染めていた。

 なんというか、予想していたより早く意識が戻ったので不意を突かれたのと、寝ている人の顔をこっそり覗き見ていたのがバレた羞恥心とかが、ない交ぜになっているような感じか。

 俺がなにを言っても逆効果になりそうなので、しばらくそっとしておこう。


「ところで、お姉さま。その集会というのはどうでしたの?」

「……そうですね。色々と重要な報告があるのですが」

「でしたら拠点へ到着して、ナミツネさんも交えてからにしませんか?」


 それに、とアミスちゃんはちらりと視線をミリアちゃんへ向けた。


「わかりました。急ぎでもありませんし……」


 真剣な報告会という雰囲気ではないからね。特にミリアちゃんが。

 彼女の両親については繊細な部分だし、もう少し落ち着いた時にしよう。




 捜索隊の拠点に到着するまで、まだ時間が余っていた。

 なのでミリアちゃんが落ち着いたのを見計らい、気になっていた話をしてみる。


「それほど私とミリアは似ているように見えるのでしょうか?」

「少なくとも、私たちが口を揃えるほどには似ているかと」

「ミリアがお姉さまと本当の姉妹みたいで羨ましいくらいですわ」

「お嬢様が成長した姿そのものといった感じですよ」

「…………」


 最後にミルフレンスちゃんからも無言の頷きで同意を得られた。

 だが、俺としてはミリアちゃんの意見に賛成だった。

 頭ではわかっていても、感覚ではそれほど似ているだろうかと思ってしまうのである。きっと当事者だけにわかる差異があるのだろう。


「ですが不思議ですね。クロシュ様のお姿は聖女様そのものとお聞きしましたが、血の繋がりがないお嬢様とよく似ているというのは」


 その理由について、みんなは知らない。

 俺は幼女神様から真相をネタばれされたので、ミラちゃんとミリアちゃんの関係も、似ていると言われる原因も理解している。

 考えてみればミラちゃんと、そのクローンの子孫であるミリアちゃんは、直系の一族と捉えても大して違わないのだろう。結局のところ大本は同じミラちゃんに行き着くワケだからな。

 この二人がそっくりに見えるのは不思議でもなんでもないのだ。

 ただ、これを知ってどう感じるのかは人によるし、知らずとも支障はない話である。差し迫った必要がない限りは黙っておこうと思う。


「お嬢様の髪がもっと長ければ、より見分けるのが困難になりそうですね」


 今度は髪の長さに着目したカノン。

 たしかにミリアちゃんは肩にかかるぐらいのセミロングで、ミラちゃんは腰に届くほどに長かった。

 思えばアミスちゃん、ソフィーちゃん、ミルフレンスちゃんもかなり長いな。

 カノンはメイドだから短めなのは仕方ないとして……。


「ミリアは髪を伸ばさないのですか?」

「アーティファクトの研究をするのに、あまり長いと危ないので……」


 後ろで縛ったり、纏めたりすればいいんじゃないかな。

 などと思い、ミリアちゃん髪型七変化を脳内に展開してみる。

 ポニテ、ツインテ、三つ編み、ハーフアップ、お団子……えーあと二つは。


「ですけどミリア、前にも言いましたが邪魔にならないよう纏めるなどして伸ばすべきですわ」

「私も賛成です。ソフィーの言うように、今のミリアの長さでは……」

「どういうことです?」


 まるで髪の長さが重要なように聞こえたので詳しく聞いてみると。


「慣例、とでも言いますか。皇帝国の貴族……それも上位であるほど淑女は髪をより長く伸ばすのが礼儀なのです」

「ではミリアも……?」


 カノンの説明に改めてミリアちゃんの髪を見るが、他の三人と比べると短い。

 額面通りに受け取れば、この中ではトップの上位貴族であるはずなので最も長くないとマズいのではないか?


「社交界にデビューするまで、つまりお嬢様が成人するまでは問題ありませんし、最近では古い常識は打ち破るべきだと訴える方々もいます。それでも長髪を好んで伸ばす方は多いですね」

「ミリアがそのキレイな髪を伸ばすのに、礼儀なんてあってもなくても関係ありませんわ。せっかくお姉さまと同じ黒髪だというのに、そのままではもったいないと思いませんの?」

「うぅ、それは……」


 お、褒められてちょっと揺れてる。

 まあ俺はどっちでも構わないと思うけどね。

 髪の長さ程度では彼女の魅力は損なわれないのである。

 ふと、初めてミリアちゃんと合体した際のことを思い出した。

 あの時はミリアちゃんの髪が足元に届くほど伸びたのだが、周りにいた護衛騎士たちが見惚れていたように感じられた。

 なるほど。やはり髪が重要なのか。

 などとひとりで納得している間にもミリアちゃんは追及を受けていた。あまり強制するのも可哀相なので、そろそろ助け船を出すとしよう。

 まだ数年も先だし、すぐに答えを出す必要もないはずだ。


「ところで、なぜ長髪にする決まりがあるのでしょう」


 話を逸らす口実はないか悩んだ末、素朴な疑問を口にしてみることにした。

 答えは、俺の意図を察したらしいカノンが返してくれる。


「女性の長い髪は、美しさや豊かさの象徴とされていますし、なによりも重要視されているのは、やはり色ですね」

「髪の色ですか?」

「はい。発祥時期は不明ですが、皇帝国の皇女様がその身に受けた加護を広く知らしめるため、遠くからでも一目でわかるように長く伸ばしたのが始まりだとか」


 ……加護ってなんだろ。

 などと不思議そうな顔をしていたら、ミリアちゃんがこちらを見ていた。


「クロシュさん、加護のことは知っていますか?」

「……すみません。できれば教えて頂けるとありがたいです」

「ああ、申し訳ありませんクロシュ様。ついご存知だとばかり」


 カノンの口振りからすると知っていて当然のようだけど、知ったかぶっても仕方ない。知らないものは知らないのだ。ここは恥を忍んで素直に教えて貰おう。


「いえ、知らずとも無理はありませんよ。髪の色による加護の判別が発見されたのは二百年ほど前で、クロシュさんが活動していた時代にはなかったはずですから」

「そ、そうなのですか?」


 軽く落ち込んでいるとアミスちゃんがフォローしてくれた。

 なにかと博識な彼女が頼もしく見えるね。

 ついでとばかりに、その知識から加護とはなにかを語ってくれたので、しっかりと覚えておこう。


 まず世界には八属主と呼ばれる神々がいる。

 自然の力を司っており、それぞれ色で表されるのだとか。

 すなわち――。


 【紅炎】

 【白雷】

 【黄地】

 【緑風】

 【蒼水】

 【紫氷】

 【銀月】

 【金陽】


 この八種類の『属性』である。

 人は誰しも生まれながらに八属主の加護である『属性』を宿しているため、適した属性を見極めれば自身の能力を何倍にも高めて発揮できるそうだ。

 例えば【紅炎】の加護を受けた者なら、炎を操る【刻印術】だったり、関連した魔導技術に携わると、他の者よりも効率や出力が上がるという。

 昔は実際に試すまで適した属性がなにか調べる手段がなかったのだが、研究が進むに連れて確立されていったようだ。

 最後に行き着いたのが、髪の色という実に安直でわかりやすいものだったのは灯台もと暗しってやつなのか。

 ちなみにミラちゃんが『水の聖女』と讃えられているのは、彼女の髪色にも起因していたようだ。当時は判別法がなかったはずなので、単純に水魔法を使うから、そう呼ばれていたのかもしれないけど。


 気になるインテリジェンス・アイテムが【人化】した場合はどうなのかだが、結論から言えば恐らく人間の判別法が適用できる。

 というのもルーゲインを【鑑定】した際、属性は【金陽】とあった。

 やつは金髪だったので見事に合致しているのだ。

 これに照らし合わせるとヴァイスは白髪だから【白雷】で、クレハは赤髪だから【紅炎】となるようだ。

 でもそれぞれ【極光伯】【白龍姫】【紅翼扇】なんていう称号があるから髪色から判断するまでもなかった気がする。

 今度はみんなの属性について確認してみようとして、ふとカノンの薄い茶髪が目に入った。……茶色?


「ああ、私は二種混合なんです」

「それはつまり、二つの属性と相性が良いということですか?」

「であれば良かったんですけどね……」


 どうやら【紅炎】と【緑風】のどちらにも適性があるが、加護が半分ずつとなるので、かなり中途半端な属性になるようだ。

 研究では一極集中である単色こそが優れているとされ、その髪色が濃かったり鮮やかであればあるほど強い加護を受けた証だと考えられているらしい。

 使い方次第にも思えるけど、長い研究の結果ならば信用性も高いのだろう。

 だとすると美しい青髪のアミスちゃんと、輝く金髪のソフィーちゃんは一般的には優れた色で、薄い紫髪であるミルフレンスちゃんは劣っていると言うのか。

 いいや、そんなことはない!

 もっと研究が進めば新しい発見だってあるだろうし、常識とされていることが必ずしも正しいとは限らないのだ。

 カノンの茶髪が、いつか世間を見返す日が訪れると信じよう。


 しかし赤と緑で茶色というのに引っ掛かる。

 赤と緑を混ぜたら黄色じゃないのかな?

 そういえば光の三原色と、色の三原色がどうとか……。

 いやいや、難しく考えるのはよそう。

 【紅炎】と【緑風】の加護が混ざると茶髪として現れるのだろう。

 ここは、そういう魔法の世界だと防御力という概念から学んだはずだ。


「ちなみに【金陽】と【黄地】はよく間違われるみたいです。薄い金色かと思えば【黄地】だったり、暗い黄色かと思えば【金陽】だったりなど。なので色は簡易的な判別に留まり、正式にはちゃんとした方法で調べることになっていますね」


 そう補足するアミスちゃんだけど、ひとつだけ理解できない点があった。

 ここには金、青、紫、茶と、まさに色とりどりの髪が揃っているのだが……。


「ミリアと私の、黒髪はどのような加護なのでしょう?」

「それは……」


 途端に言い辛そうにするアミスちゃんの様子に、イヤな予感がした。

 そもそも自分のステータスでもはっきり表示されているので今さらだが。

 改めて、それを確認すると。



【クロシュ】


○属性

【無】



 やはり変わらずに表示されたのは無……無属性である。


「黒は無色、なんの加護も受けなかった人の髪なんですよ」


 そう告げたのはミリアちゃん本人だった。

 もしかして、髪を伸ばしたがらないのは……。


「大丈夫です。黒髪が嘲笑の的となる風潮はありますけど、エルドハート家はご先祖様からずっと、お父様も、亡くなったお爺様も黒髪でしたから、例え陰口であっても貶められるほど命知らずな方はいませんでした」

「そうですよクロシュ様。もしお嬢様を侮れば、お館様が黙ってませんとも!」


 ミリアちゃんとカノンに口を揃えられては納得するしかない。

 まあ、どうやら本当に気にしていないみたいだ。

 というよりミリアちゃんの父親であるノブナーガとやらが、よっぽど周囲に睨みを利かせているのだろう。

 いったい、どれほど怖れられているのか。

 そして同時に、そんな人物がどうして生きているのにも関わらず未だに姿を見せないのかと、今さらながらに疑問を抱いた。

今回は属性と髪の色の説明回になってしまいましたが、

割と重要な話だったりします。

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