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そして布は幼女を護る  作者: モッチー
第2章「絶対もふもふ戦線」
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時間の無駄でした

 せっかくなのでプレゼントされた服を着たまま観光を再開する。

 ミルフレンスちゃんも心なしか嬉しそうだけど、対照的にミリアちゃんたちは残念そうな顔をしていた。

 みんなが選んでくれた服もカノンがまとめて購入していたけど、当然ながら一度に身に付けられるのは一着のみである。

 心苦しいが勝負は勝負なので次の機会まで我慢して貰うとして……。

 よし、ここは気分を変えるためにも、この匂いに釣られるとしようか。




 次に向かったのは飲食店が多く並ぶ通りだった。

 美味しい物を食べれば元気になるだろうと単純ながらも真理に基づいた案だ。

 とっくにお昼時を迎えていたし、そろそろ俺の空腹度が限界に達そうとしていたのでちょうどいい。

 しかし……。


「どこからも美味しそうな匂いがして迷いますね」

「今のクロシュさんのように、客引きの効果を期待しているみたいですよ」


 だとすると効果は絶大だな。

 美味しければなんでもいいとすら思っていたのに、いざこうして目の当たりにすると目移りしてしまう。

 こうなってくると、できるだけ多く回りたいという別の食欲が湧き出るのだが、胃袋と時間には限界があって悩ましい。

 そこで俺は、軽食を販売している露店に注目した。

 食べ歩けるようにと軽い物が多く、さらに甘味が多い点も素晴らしい。

 ちゃんとした店の料理も気になるが、ここは数を追及して露店巡りとしゃれ込もうではないか。

 意気込んで提案してみると、ミリアちゃんたちも露店で食べるのは始めてのようで期待する声が多くあがった。


 異世界といえど考えることは同じなのか、はたまたどっかの転生者か転移者が広めたのかは不明だが、露店で見かけたのは馴染み深いものばかりだった。

 ホットドッグにクレープ、焼きそばっぽいパスタに、綿飴に似たなにかを出しているところまであって驚いた。

 少し買い過ぎたので、休憩用のスペースを見つけて腰を落ち着かせていただく。

 みんなには概ね好評のようだ。

 俺からすると形だけマネたような感じがして、いまひとつ物足りない気がするのだが空気を読んで食べることに集中する。

 なんだかんだ言っても、記憶と違うだけで美味しいのに変わりはないからね。フォル爺の上品な味付けとは違ったジャンク的な刺激が病みつきになるのだ。

 だから、つい食べ過ぎてしまうのも仕方ないのである。


「前から思ってましたけどクロシュさんは健啖家ですね……」

「よく食べるのが冒険者として最初の訓練とは聞きますが」

「わ、私もがんばりますわ! 次はお姉さまと同じものを!」

「クロシュ様の後を追っては大変なことになりますよ」

「……というより、あなたは両手に持っているそれを食べてからになさい」


 気付いたらミリアちゃんたちが感心したように俺を見ていた。

 実際のところは、ミラちゃんがよく食べるタイプだったのだろうけど、食べることは嫌いじゃないので否定はしない。

 美味しい物をたくさん食べられるというのは、それだけで幸せだと俺は考えているので、食いしん坊ミラちゃんに感謝する所存だ。

 余談だが、一度でも【人化】を解除すれば体調と一緒に摂取したカロリーもリセットされるため、ミラちゃんのパーフェクト・ダイナマイト・ボディが肥え太ったりせず安心安全の設計である。

 まあミラちゃんの場合、栄養がすべて胸に行っている気がしなくもないけど。

 そんなことを思いつつ、四本目となるフランクフルトを食べ終えた。




 お腹が満たされたあとは、また別の露店が集まった一角を覗いてみる。

 なんとなくミルフレンスちゃんが好みそうな物が多い。

 とある店ではチェスの駒みたいな小さな騎士や魔獣を模った彫刻がいくつも並んでおり、なにかと思えば、まさに古いボードゲームで用いるようだ。

 現在では絶版となって本体こそ手に入らないが、こうして精巧な駒だけが美術品として出回っており、熱心なコレクターが集めているのだとか。

 ちなみに値段は駒によるがそこそこらしい。

 などと店主から説明を聞いている間にミルフレンスちゃんが購入していた。

 嬉しそうでなによりです。


 そうしていると楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。

 およそ半日くらい西エリアを見て回ったけど、まだすべてを回りきれていないというのだから驚きだ。

 やっぱりテーマパークなんじゃないかな?

 途中で幼女神様がクレープを物欲しそうに、よだれを垂らしながら眺めていたのだが実体がないから食べられないと嘆いていた。


 いつか、ちょうせん、するよー。


 その時が来るのは割と早そうだと俺は予想する。

 ともあれ、もう日も暮れ始めているし、そろそろ宿へ戻らなければ。


「ギルドが見れなかったのはちょっと残念だけど、今日は楽しかった」

「そうですね、お嬢様」

「その点だけが無念ではありますけど、その分も楽しめたと思いますね」

「さっきも言いましたが、ギルドはまた次の機会に行けばいいだけですわ」

「……収穫はあった」


 ギルドでは不快な気分にさせられた部分もあったけど、最終的にみんなが楽しんでくれたようで良かった。

 あとは、このまま何事もなく宿へ戻って、今日一日を振り返っておしゃべりをしつつ、ぐっすりと眠るだけだ。

 明日からは忙しくなりそうだからこそ今日くらいは平穏で終わりたい。

 だというのに……。


「さあさ、みなさん急いで! あの水の聖女サマが装備していた伝説のインテリジェンス・アイテム! 魔導布のオークションがもうすぐ始まるよ~!」


 聞き捨てならない言葉を耳にした。

 俺だけではなく、ミリアちゃんたちもギョッとして薄暗い通りへ振り返る。

 それは路地裏といったような場所であり、先ほどの呼び込みがなければ俺も気付かずに通り過ぎていただろう。

 相変わらず声を張り上げている男は【魔導布】、そしてオークションと連呼しており、周囲には参加希望か、または単なる好奇心なのか人だかりができている。


「あの、クロシュさんがオークションにかけられるそうですけど」

「ははは、面白いですね。私はいったい、いくらぐらいで買われるのでしょう」

「お姉さまでしたら全財産をはたいても買いますわ!」

「過去に公式の場で競りに出された魔剣は、金貨にして五千枚だったそうです」

「現在の価値に換算すると、お嬢様のお屋敷で一千枚くらいですので、えー」

「いえ、現実逃避はやめませんか?」


 ミリアちゃんの言う通り、だが……。


「とは言いましても、いったいなにが起きているのやら」

「恐らく詐欺……つまりクロシュさんの偽物ではないでしょうか」


 俺の偽物……なるほど。考えたこともなかったな。

 聖女がどうのと言っていたし、ミラちゃんと共に知名度が上がった弊害か。


「しかしミリア、偽物なんてすぐにバレてしまうのではないですか?」

「クロシュさんが目覚めたという情報は一般にも流布されていますが、その姿までは一部の人しか知り得ません。そういった人が、この場に偶然にも居合わせる可能性も低いでしょうね」

「そこに本人がいるとは、なかなかに不運な方ですね」

「お姉さまを騙った罰というものですわ」


 思わず硬直してしまうほどの衝撃があったものの、わかってしまえば騒ぐほどのものでもないな。

 面倒事に首を突っ込むほどヒマじゃないし放っておくとしよう。

 それに、ここまで怪しいなら誰も騙されないんじゃないかな。

 ちょっとだけ実際に騙される人がいるかは気になるけど。


「……クロシュさん、できれば見に行きたいのですが」


 お、もしかしてミリアちゃんも気になっているのかな?

 などと共感していたら、まったく違うようだ。


「偽物がクロシュさんの姿を模していたとしたら、どこかでクロシュさんを目にしたか、その人伝手で聞いているはずなんです。そして私たち以外で可能なのは、選別の儀に集まっていた人たちの中にいることになります」


 つまり、あの場に集まっていた貴族が詐欺の犯人かもってことか。

 そういえば、あの日は広間で俺を展示していたので、観客として訪れていた者なら細かいところまで観察できたはずだ。

 だったらお披露目したのは失敗じゃないのか、と思ったのだがカノンの話によると予測済みだというので詳しく聞いてみる。

 そもそも俺の目覚めを聖女の再来として宣伝されるのは規定事項らしく、偽物が出回るだろうと予想されていたのだ。

 だからこそ、その際には集まった貴族に俺を公開して、真偽の区別ができるように配慮する算段だったという。

 それに【魔導布】は侯爵家エルドハートの家宝であり、その名を貶める詐欺は大罪に当たるため、まともな貴族なら金銭を得るくらいで極刑の危険を犯すような愚か者はいないようだ。通常ならば。


「あり得ないと思いたいですが、最近の情勢を鑑みると、まったくあり得ないとも言い切れなくなっているので……確認しないわけにもいきません」


 もしかしたら、あの貴族たちの中に敵が潜んでいたのかも知れないと、ミリアちゃんは危惧しているようだ。


「そういう事情でしたら私も反対しませんよ。ただ……」


 たぶん会場は屋内なのだが、建物からしてあまり広くはないだろう。

 表の通りとは違って、裏通りの怪しいオークションだから今も警戒はしているけど、この人数で入ってはどうしても目立ってしまうし、おかしな輩に狙われる可能性も高い。明確な敵対ではなく通り魔的な犯行をされると【察知】でカバーできるかは怪しい部分があるし、特に人ごみでは、すれ違い様になにかされては先手を取られかねない。

 ハッキリと言えば、このまま入るのは危険だ。

 ここは護衛騎士に行かせるのが無難なんだろうけど……。


「私が、この目で確認しておきたいんです」


 それはミリアちゃんに却下された。

 場合によってはどこかの貴族がお家お取り潰しになるので、最終的な判断を下す責任は重く、万が一にも間違いがないようにしたいのだとか。

 マジメというべきか、まあミリアちゃんがそう決めたのなら俺は反対しない。

 ならば、基本に帰ってみよう。


「ミリアが私を装備して入るということで、どうでしょうか。ただそうなると、みなさんには外で待って貰うことになりますけど」


 確認するだけなら全員で行く必要はないし、ひとりなら必ず護れる自信がある。

 みんなとは離れるけど、人通りが多い表通りで護衛騎士たちと一緒にいれば、少なくとも事件に巻き込まれたりはしないだろう。


「ええ、私は構いませんよ」

「ちょっとだけ残念ですが、お姉さまの頼みでしたら従いますわ」

「クロシュ様、お嬢様をお願いします」


 アミスちゃんたちは快く承諾してくれた。 

 最後にミリアちゃんに視線を送ると、にこりと笑顔を見せた。


「なにも問題ありませんね。世界で一番、安全な場所ですから」


 面と向かって言われると気恥ずかしいのだが、俺を見つめる瞳には一点の揺らぎもなく、本心から言っているのだとわかった。

 そこまで信頼されているなら、応えないワケにはいかないね!




「それでは次の商品はこちらです!」


 被せられた布が取り払われ、絵画のような物が姿を現した。

 俺とミリアちゃんの視線の先では正装に身を包んだ小太りの男が司会を務め、人工的な明かりに照らされた壇上に立ってオークションを進行させている。

 会場内は予想通りの屋内で、商品を目立たせるためか全体的に薄暗く、見える範囲に出入口はひとつだけ。見張りがそこかしこに立っているけど【鑑定】したところ特に気にする必要はなかった。

 オークション参加者用のために簡素な椅子も用意されていたが、予想以上の参加者のせいか立ち見や、床に座り込んでいる者も多い。

 おかげで背の低いミリアちゃんが混ざってもさして目立たずにいる。

 念のため【変装】を使って髪や目の色を、珍しい黒から金髪碧眼にしておいた。

 一応フードを被っているとはいえ、どこから貴族に伝わるかはわからないとカノンから注意されたばかりだからね。


 さて、上手く潜り込めたはいいけど、いつになったら【魔導布】が出るのか。

 価値が理解できない絵画や彫刻などの美術品ばかりで、一向に目的の物が出て来ないのだ。

 周囲の参加者も、どうやら同じ目的だったようで不満を漏らし始めていた。

 あれだけ宣伝していればそうなるよね。

 でも普通に考えたら、それほどの商品ならばもっと後に出すだろう。

 すでにミリアちゃんも目立たないよう壁際に寄り、長期戦の構えである。

 これなら小声での会話くらいならできそうだけど……。

 やはり、やめておこう。

 誰かに聞かれて変に怪しまれてはいけないから、会場に入ったら会話は控えようと事前にミリアちゃんと決めていたことだ。

 いざとなれば【念話】で、俺からの一方通行だけど秘密裏に意思を伝えることは可能だし、最悪の場合は【合体】を使って逃げるだけだ。

 もちろん何事もないのが最善であるため、俺も気を引き締めて大人しくする。


 やがて、いくつ目かの商品が競り落とされた、その後のことだ。

 次の商品が舞台袖から壇上に運ばれると同時に、会場内がざわめきに包まれた。

 これまで布をかけただけの商品とは明らかに違う、厳重に包装されたそれは、左右にひとりずつ屈強な男を伴って運ばれた。

 黙って眺めていたミリアちゃんも察したようで立ち上がる。


「ご来場の皆さま、お待たせしました。これが本日最後の商品にして、最大の逸品にして、当オークションのメインとなりまぁすっ!」


 おおっ、と参加者たちがどよめく。

 いよいよ来たのかと、待ちくたびれていた者も期待を込めて、未だ布に隠された商品に目を釘付けにする。

 対して空気を読めない小太りの司会はなんだかんだと長い前置きを話し始めたのだが、参加者からの視線でお呼びでないと理解したのか、慌てて指示を飛ばす。


「おい早くしろっ……失礼しました。では、最後の商品をどうぞ!」


 よく見れば包み隠している純白の布すらも、ずいぶんと仕立ての良いシーツであると気付く。

 だが、封が解かれて現れたのは、一線を画す代物だった。


「これこそ、水の聖女サマが身に着けていたという伝説の魔導布です!」


 一際大きくなる会場内のざわめきと共に参加者たちの反応は三つに分かれた。

 ひとつは熱い視線で見つめる、ある意味で純粋な者たち。

 もうひとつは懐疑的な目で観察する、冷静な者たち。

 最後のひとつは……呆れて物も言えない俺とミリアちゃんである。


〈あれが私、ということなのでしょうか?〉


 つい【念話】で話しかけてしまったけど、俺はすでに普通に会話しても問題ないと判断していた。

 同じ感想なのか、一応ミリアちゃんは袖で口元を隠すと小声で言った。


「時間の無駄でした。すみません」

〈……むしろ問題がなくて良かったと考えましょう〉


 壇上で視線を集めているのは豪奢な神官服といった感じのローブだった。

 白を基調として、至る所に金糸の刺繍、黄金や宝石の装飾があしらわれ、水色の帯を首にかけるように垂らしている。

 どこの法王だよとツッコミたくなるデザインだが、そちらとは違って見るからに高級、高貴をあざとく形にして、高慢が滲み出ているため比べては失礼だろう。

 いわゆる三高ってやつか。


〈ミリア、もう帰り……〉

「さて、皆さまの中には本物の魔導布かどうかを疑っている方もいらっしゃるかと思います。そこで、まずはこれが本物であることを証明してみせましょう」


 見るべき物は見たし、もう帰りましょうと言いかけたところで、司会が気になることを言い出した。

 てっきり、これは【魔導布】ですとゴリ押しすると予想していたのだが、ちゃんと言い訳を用意していたのか。

 果たしてなにをしでかすのか、ミリアちゃんも気になったようで、もう少し様子を窺うことにする。


「さあ魔導布サマ、どうぞ!」

〈……ワレこそは魔導布である〉


 む、これは……。

 いきなり脳内に響いた声に参加者たちも周囲を見渡している。唯一、慣れているだろうミリアちゃんだけが僅かに目を見開いて壇上を眺めていた。

 間違いない。この感覚は【念話】だ。

 まさかと【鑑定】してみたが、なんの変哲もない布という結果が出た。

 それはそれで酷い話だけど、すると今のはどこから……。


〈ワレは、新たなる所有者を、探している〉

「どうですみなさん。これぞ魔導布であるとご理解いただけたでしょう?」


 そんなアホな。

 むしろもっとスゴいギミックでも仕掛けてあるのかと予想していただけに、ただ喋るだけとは期待外れだ……と思いきや周囲の反応は良さそうだった。

 こんなので信じるのか?


「クロシュさんにとっては身近に感じるのかも知れませんけど、本来インテリジェンス・アイテムはとても希少で、熟練の冒険者であってもそうそう手にすることはないと言われているんですよ?」


 とある庭園でわらわらと集まっていたのを目撃しているんだけど、普通の人からしたら、そんな認識なのか。

 だから、このくらいで簡単に騙されてしまうと。

 とすると選定の儀で【進化】した際に、眩しい光でめちゃくちゃ混乱していたけど、あれは俺が【念話】で話しかけたせいもあったのかも知れないな。

 最近は【人化】してるから、使う機会も減ったけど今後は注意しよう。

 そうこうしている内に競りが開始された。

 まだ疑っている者もいるのだろうが、向こうとしては信じた者に高値で売れればいいのだから無理に騙す必要はないのだろう。


〈ミリア、もう目的は果たしましたが、ひとつだけ気になることが〉

「先ほどの念話ですね」

〈調べたところ、あのゴテゴテした服ではないようです。だとすると、誰がどうやって……というのが気になりまして〉


 こうして他人の【念話】をじっくりと聞いて知ったのだが、普通の声と同じように、なんとなくどこから聞こえるのかが把握できるのだ。

 さっきの場合、壇上から……それも偽魔導布の辺りからだった。

 だからこそ咄嗟に【鑑定】してみたのだが、結果は空振り。

 別に放っておいてもいいけど、仕掛けがあるとしたら詐欺の手口を知っておくのは今後に役立ちそうだし、あとは単純に好奇心が疼く。


「では見えている範囲とは違う、別の場所でしょうか」

〈別の場所ですか?〉

「あからさまに怪しい場所に読者を注目させておいて、その裏で仕掛けを施しておく、よくある手です」

「読者とは?」

「……あ、しょ、小説の話でした。すみません……」


 そういえばミリアちゃんは推理小説が好きなんだったか。

 ふむ……裏に仕掛けか。

 ちょっと思い付いたので【透視】を使ってみよう。

 目標は偽魔導布の内側……すると胸の辺りに。


〈……さすがミリアです。ありましたよ〉

「え、なにか、わかったんですか?」


 俺が見たそれをミリアちゃんに話す。

 外見は万年筆のようなもので白地にピンクの水玉模様をしており、それだけなら色合いはともかく、誰も気にしないだろう。

 だが【鑑定】してみれば正体は一目瞭然としている。

 あれこそがインテリジェンス・アイテムであり、内側に隠れて【念話】を使っていた張本人である。

 ただレベルは低いし、ロクにスキルも取得していないのが妙だ。


「ということは競り落とした人に渡したあと、どこかのタイミングで回収するつもりだったのではないでしょうか?」


 なにも話さなくなった偽魔導布に騙されたと気付き、文句を言おうにも、その頃にはとっくに逃げているというワケだ。

 思ったよりも単純だったな。タネを明かせばそんなものか。


「それではクロシュさん、どうしますか?」


 たぶん万年筆のことだと思うけど、レベルも低いから脅威にはならないだろうし、こっそり詐欺やってるだけなら放置でいいんじゃないかな。

 ……いや、わざわざミリアちゃんが確認するのなら、あまり良くないのかも。


〈念のために回収しましょうか〉

「そうですね。本物のインテリジェンス・アイテムが関わっているとなると、ひょっとしたらクロシュさんの悪評が立ちかねませんし」


 なんと、俺のことを心配してくれていたのか。


「……それにクロシュさんの名前を騙るなんて、ちょっと許せません」


 おお……ミリアちゃんから怒りの波動が……!

 ひ、ひとまず、どうやって回収するか考えておこうかな。




 その後、いつものように【変形】で伸ばした布を【迷彩】を使ってから床を這わせるように向かわせ、誰にも気付かれずに万年筆を抜き取ることに成功した。

 スキルや魔術的な守りが一切なかったのが幸いだ。

 当の万年筆はかなり慌てていたが、てきとうに脅しをかけたら大人しくなった。

 落ち着ける場所へ移動するまで静かにして貰おう。

 どちらにせよ、このレベルでなにかできるとは思えないけどね。

 今度こそ用はなくなり、ミリアちゃんは悠然とオークション会場を後にした。


 なお、俺たちとは関係ない話だが、この後でなにやら詐欺事件があったとかで西エリアが騒然としたらしい。

 ちなみに、この都市での詐欺は重罪であり、実行犯は犯罪奴隷とやらに身分を落とされるのだとか。

 天網恢恢、疎にして漏らさずってやつだね。

 ミリアちゃんがちょっとだけ嬉しそうだったのが印象的である。

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